4. インフレで資産価値が目減りすると、取り崩しはどれくらい加速する?
ここまでの試算は、物価が変わらないことを前提にしています。しかし、物価上昇(インフレ)が続くと、状況はさらに厳しくなります。預貯金の金利はほとんどゼロに近い水準にとどまる一方、生活費は物価上昇に応じて名目上増えていくためです。つまり、資産の「実質的な価値」が目減りしていくスピードに、生活費の増加が重なることで、取り崩しはより早く進むことになります。
物価上昇を考慮すると、取り崩しはどれくらい加速するか3/3
出所:総務省統計局、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の公表情報をもとにLIMO編集部試算
預貯金の金利を年0%、生活費の不足額が物価上昇率に応じて毎年増えると仮定して試算すると、単身世帯(中央値500万円)は、物価上昇なしの13.9年から、物価上昇率年2%で12.4年、年3%で11.8年へと短くなります。もともと取り崩しまでの期間が短いケースでは、影響の度合いは比較的小さめです。
一方、2人以上世帯(平均2416万円)のように取り崩しまでの期間が長いケースでは、物価上昇なしの47.5年から、年2%で33.8年、年3%で30.0年へと、実に17年以上も早まる結果になりました。取り崩しの期間が長くなるほど、物価上昇が積み重なる年数も長くなるため、影響が大きくなりやすいという点は覚えておきたいところです。
5. まとめ
70歳代の金融資産保有額は、中央値で見ると単身世帯500万円、2人以上世帯1178万円にとどまり、平均値が示すほどの余裕がある世帯ばかりではありません。65歳以上の無職世帯では、年金収入だけでは生活費をまかないきれず、単身世帯で月2万9980円、夫婦世帯で月4万2434円の赤字が生じており、この不足分を中央値の貯蓄で取り崩すと、単身世帯で13.9年、2人以上世帯で23.2年ほどで底をつく計算になります。さらに物価上昇が続けば、この期間はより短くなる可能性があります。
これらの試算はあくまで一定の前提を置いた単純計算であり、実際の年数は年金額や生活費、資産の運用状況によって大きく異なります。ご自身の状況に応じた資金計画については、金融機関の窓口やファイナンシャルプランナーなど専門家にも相談しながら、早めに準備を進めることをおすすめします。
参考資料
和田 直子