70歳代になると、多くの方が年金を中心とした生活に移り、貯蓄を「増やす」段階から「取り崩す」段階に入ります。ここで気になるのが、今の貯蓄額で生活費の不足分をまかない続けた場合、いつまでお金がもつのかということです。この記事では、70歳代の単身世帯・2人以上世帯それぞれの貯蓄額をもとに、生活費の不足額を毎月取り崩していくと何年で底をつくのかをシミュレーションします。あわせて、預貯金を物価上昇(インフレ)が続く中に置いておいた場合、取り崩しのペースがどれくらい加速するのかも確認します。
- 70歳代の金融資産保有額は、単身世帯で中央値500万円、2人以上世帯で中央値1178万円
- 生活費の不足額を貯蓄から取り崩すと、中央値の資産では単身13.9年、2人以上世帯23.2年で底をつく試算
- 物価上昇率が年2〜3%続くと、資産が長く続く「平均」のケースほど取り崩しが加速し、最大10年以上早まる
1. 70歳代の貯蓄額はどれくらい?単身世帯・2人以上世帯で比較
まずは、70歳代の世帯がどれくらいの金融資産を持っているのかを確認します。
70歳代の金融資産保有額(単身世帯・2人以上世帯)1/3
出所:金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」をもとにLIMO編集部作成
単身世帯の70歳代の金融資産保有額は、平均値で1489万円ですが、中央値(金融資産を保有していない世帯を含め、少ない順に並べたときにちょうど真ん中に来る世帯の金額)で見ると500万円にとどまります。2人以上世帯では、平均値が2416万円である一方、中央値は1178万円です。平均値は一部の資産を多く持つ世帯によって引き上げられやすいため、より多くの世帯の実情に近いのは中央値のほうだと考えられます。また、金融資産を全く保有していない世帯の割合は、単身世帯で20.4%、2人以上世帯で10.9%となっており、単身世帯の方がやや高い水準です。
2. 生活費はいくら不足する?65歳以上の無職世帯の家計収支
次に、実際にどれくらいの生活費の不足が生じているのかを、総務省の家計調査から確認します。
2025年の家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)は、1ヶ月の可処分所得が22万1544円であるのに対し、消費支出は26万3979円で、差し引き月4万2434円の赤字となっています。一方、65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)は、可処分所得11万8465円に対して消費支出は14万8445円で、月2万9980円の赤字です。年金収入だけでは生活費をまかないきれず、その不足分は貯蓄の取り崩しなどで補っているのが実情です。
3. 取り崩しシミュレーション、貯蓄は何年で底をつくか
それでは、先ほどの貯蓄額から、月々の不足額を単純に取り崩し続けた場合、何年で貯蓄が底をつくのかを試算してみます。預貯金の金利や運用益は考慮せず、不足額も一定と仮定した単純計算です。
70歳代の貯蓄を毎月取り崩した場合、何年で底をつくか2/3
出所:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果」、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の公表情報をもとにLIMO編集部作成
単身世帯の中央値500万円を月2万9980円の赤字で取り崩すと、13.9年で底をつく計算です。70歳代のうちに取り崩しを始めた場合、80歳代半ばには資産が尽きてしまう可能性があるということになります。2人以上世帯の中央値1178万円を月4万2434円の赤字で取り崩した場合は23.2年で、単身世帯よりは余裕がありますが、それでも90歳代に入る前に底をつく計算です。一方、平均値をベースにすると、単身世帯で41.4年、2人以上世帯で47.5年とさらに余裕が生まれますが、これは一部の資産を多く持つ世帯が平均を押し上げているためで、多くの世帯にとって現実的な数字とは言えません。
「平均貯蓄額」だけを見て安心してしまう方は少なくありませんが、中央値で見ると単身世帯・2人以上世帯とも、生活費の不足を10数年で使い切ってしまう水準にとどまっています。
大切なのは、平均や中央値といった「他の世帯の数字」ではなく、ご自身の年金収入と生活費の実際の差額を把握することです。差額が分かれば、この記事の計算式と同じ考え方で、ご自身の貯蓄が何年もつのかを具体的に試算できます。
