65歳以上の就業者数は過去最高を更新し続けており、シニア世代の働き方とお金の価値観が多様化しています。またSNSなどでは「年金は60歳から繰上げ受給するのが最強」という意見が広まっており、関心を持つ方が増えているようです。
社会保険労務士として繰上げ受給の相談を受けていると、ネットの情報だけで受給時期を急いで決めてしまい、後から「これでよかったのか」と不安を感じる方を多くお見受けします。年金は老後の生活を支える大切な柱だからこそ、ご自身のライフスタイルに合った選択が欠かせません。
本記事では、年金の受給開始時期を前倒しする「繰上げ受給」と、遅らせる「繰下げ受給」の仕組みについて解説します。高齢者世帯の最新の平均所得や働き方のデータも交えながら、年金の受け取り方を決める際のポイントをお伝えします。
1. 年金の受給時期を選ぶ「繰上げ」と「繰下げ」の仕組み
最初に繰上げ受給・繰下げ受給の仕組みを確認しておきましょう。
1.1 繰上げは「前倒し受給」
繰上げ受給の減額イメージ

出所:日本年金機構「年金の繰上げ受給」をもとにLIMO編集部作成
老齢年金の受給開始は原則65歳ですが、受給開始時期を前倒しすることもできます。老齢年金の「前倒し受給」が繰上げ受給です。
60歳から64歳11ヶ月まで前倒しできる一方、年金額は1ヶ月当たり0.4%(1962年4月1日以前生まれの人は0.5%)減額されます。
60歳から繰上げ受給した場合、年金額は65歳受給開始時と比べて24%(=0.4%×60ヶ月)減ります。
60歳から繰上げ受給した場合と65歳受給開始の場合の総受給額がほぼ同額となるのが「80歳10ヶ月前後」で、このタイミングが「損益分岐点」と呼ばれるものです。
1.2 繰下げは「遅らせて受給」
「繰下げ受給」とは、繰上げ受給とは反対に受給開始年齢を65歳から「遅らせて受給」することです。66歳から75歳まで遅らせることにより、年金額は1ヶ月当たり0.7%増えます。
70歳から繰下げ受給した場合、年金額は65歳受給開始時と比べて42%(=0.7%×60ヶ月)増えます。
損益分岐点は「81歳11ヶ月前後」です。75歳繰下げ受給なら、年金額は84%(=0.7%×120ヶ月)増える一方、損益分岐点は「86歳11ヶ月前後」と5年遅れます。
2. 実際に「繰上げ・繰下げ受給」する人はどれくらいいる?意外と少数派?
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢厚生年金受給権者のうち繰上げ受給している人の割合は1.2%、繰下げ受給は1.9%です。
繰上げ受給や繰下げ受給が話題になる割に少ないと感じるでしょうが、別のデータもあります。
70歳の老齢厚生年金受給権者に限定すると、繰下げ受給している人の割合は4.2%(繰上げ受給は0.7%)と急増しています。また、国民年金の受給権者(老齢基礎年金のみの人)のうち繰上げ受給を選択している人は23.2%もいます。