4. 北米株が選ばれる理由と、日本株の「伸びしろ」

投資家が日本株と米国株のどちらに資金を振り向けるかを考える際、このROEの差が決定的な判断材料になります。

日本と北米のROE・PBRの位置3/3

日本と北米のROE・PBRの位置

出所:日本取引所グループ「JPX Investor Day 2026 現物市場(東証)」(データ提供:ゴールドマン・サックス証券)を基にイズミダイズム作成

※上記の数値は資料の散布図の目盛りから読み取った水準であり、資料に具体的な数値の印字はありません。

日本企業のROEはおよそ10%、PBRはおよそ1.8倍のところに位置しています。対する北米(North America)は、ROEがおよそ19%、PBRがおよそ4.5倍です。北米のROEは日本のおよそ2倍の水準にあります。

全世界の株式に投資するインデックスファンドの中身は、6割ほどが米国株だと泉田氏は指摘します。世界中のお金が米国株に向かう理由は極めてシンプルで、ROEが高いからだ、と。ROEが高ければ、同じ期間でも自己資本が積み上がるスピードが格段に速くなります。

では、日本企業はどうすればROEを高められるのでしょうか。泉田氏は、適切な負債の活用(いわば、テコの原理)について言及します。

「しっかりレバレッジをかける、借金を増やして自己資本を少なくしてやるとROEは上がりやすくなるんだけど、そうなるとPBRも上がるよ」

日本企業には、現金を豊富に抱え込む「キャッシュリッチ」な傾向があります。過剰な現金を投資や株主還元に回し、適切なレバレッジを効かせて資本をスリム化すれば、ROEを高める余地は十分にあります。

「ROEってまだ日本って低い状態なので改善の余地がある。JPXがやろうとしている意識改革がうまくいくと、『日本もまだまだポテンシャルあるよ』ということを言いたいんだと思います」

ROEが低いということは、裏を返せば経営者が資本政策を見直すことで、まだまだ成長できる「伸びしろ」があるということです。

5. 自ら手本を示す日本取引所グループの財務体質

ここまで、JPXが上場企業に対して資本効率の向上を求めている背景を見てきました。興味深いのは、要請を出しているJPX自身が、極めて高い資本効率を実現している点です。

JPXの前期(2026年3月期)実績のROEは23.1%です。プライム市場ではROEが8%に届かない企業がなお43%を占めていることを思い出すと、この水準がどれだけ離れているかがわかります。

なぜこれほど高いROEを維持できるのでしょうか。その秘密は株主還元にあります。JPXは今期の1株当たり当期利益(通期予想)96円40銭に対し、1株当たり年間配当(予想)を77円00銭としています。稼いだ利益の大半を配当として株主に還元しているのです。

利益を内部留保として抱え込まないため、自己資本は積み上がりにくくなります。ROEは利益を自己資本で割った値ですから、分母が膨らまないぶん、高い水準が保たれやすいと考えられます。JPXは、自らが上場企業に求めていることを、自社の財務体質でも実行しているといえます。

6. まとめ

市場全体の魅力を底上げし、自らも高い資本効率で利益を還元する。取引所は場所を貸しているだけの会社ではないと考えられます。

そのうえで、この4年弱の日本株について残る判断材料は1つです。PBR1倍割れは50%から27%へ23ポイント下がったのに対し、ROE8%未満は47%から43%へ4ポイントしか下がっていない。動いたのは期待の側だけで、稼ぐ力の側はほとんど動いていない——この非対称が、次の決算期に縮まるのかどうか。次にプライム市場の「PBR1倍割れ比率が改善した」というニュースを見たときは、同じ資料の「ROE8%未満の比率」を必ず並べて見てください。ROE側が動かないままPBR側だけが下がり続けているのなら、上がっているのは株価であって企業の実力ではない、ということになります。

なお、今回取り上げた分布データはプライム市場のみのものであり、開示状況が異なるスタンダード市場などは含まれていません。また、北米との比較は散布図からの読み取りであり、北米企業が高いROEを保っている背景には、借入を増やして自己資本を減らすという資本構成の差も含まれています。ROEが高いこと自体が、無条件に企業の安全性を意味するわけではない点には注意が必要です。加えて、この記事では上場企業全体の資本効率の動向に焦点を当てており、JPX自身の第1四半期の決算数値の詳細には踏み込んでいないことを申し添えます。

参考資料

  • 日本取引所グループ「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年7月28日)
  • 日本取引所グループ「2026年度 第1四半期 決算の概要」(2026年7月28日)
  • 日本取引所グループ「JPX Investor Day 2026 現物市場(東証)」(2026年7月2日)
  • 日本取引所グループ「2026年3月期 通期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年4月28日)
  • 日本取引所グループ「中期経営計画2027 2026年度アップデート・2025年度決算説明会 説明資料」(2026年4月30日)
  • YouTubeチャンネル「イズミダイズム」

各資料の入手先: 株式会社日本取引所グループ IRライブラ

※リンクは記事作成時点のものです。