3. AI好況の恩恵がすぐには届かない2つの理由
キャッシュがしっかり回っていることは分かりました。しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。世の中では「AI向け半導体が足りない」と大騒ぎになっているのに、なぜ最上流の素材であるシリコンウエハーが爆発的に売れて、利益に直結していないのでしょうか。そこには、半導体業界特有の2つの構造的な理由があります。
3.1 理由① 長期契約(LTA)によって価格が守られている
1つ目の理由は「価格」の決まり方です。
NANDやDRAMといったメモリ半導体は、短期的な需給バランスで価格が大きく変動します。需要が急増して供給が逼迫すれば、価格が急騰し、製造メーカーは莫大な利益を得ることができます。
しかし、シリコンウエハー業界の取引は「LTA(Long Term Agreement=長期契約)」が主体です。あらかじめ「これだけの期間、これだけの数量を、いくらで買う」という契約を結んでいるため、短期的な需要変動に左右されにくい特徴があります。
「シリコンの業界においては長期契約っていうのがされていて、そこの値段が守られている。逆に言うと値上がりはしていないということですね」
LTA価格が守られていることは事業の安定性につながりますが、裏を返せば、AI特需が来たからといってすぐにウエハーの価格を吊り上げられるわけではない、ということです。
3.2 理由② 顧客がウエハーを先行して在庫として抱えていた
2つ目の理由は「数量」です。
AI需要が高まることを見越して、チップメーカー(SUMCOの顧客)は将来の生産に備え、腐るものではないシリコンウエハーを長期契約に基づき大量に確保していました。
そのため、世の中で半導体が足りなくなっているボトルネックは、あくまでチップメーカー側の製造能力にあり、素材であるウエハーが足りていなかったわけではありません。顧客側にはウエハーの在庫が積み上がっており、まずはその手持ちの在庫を消費する「在庫調整局面」にあったのです。
動画内でもインタビュワーから「バリューチェーンの中で逼迫していたのはチップメーカーであり、素材は逼迫していなかったのか」という疑問が投げかけられていました。同じ半導体産業のバリューチェーン(原材料から最終製品までの一連の流れ)に属していても、プレイヤーの位置や契約形態の違いによって、恩恵を受けるタイミングにはズレが生じます。
4. この先の収益ドライバーと市場見通し
では、SUMCOの業績は今後どのように推移していくのでしょうか。
会社が発表している第3四半期累計(2026年1〜9月)の業績予想では、売上高3,330億円(前年同期比+9.4%)、営業損失63億円となっています。
ここで注意が必要なのは、SUMCOは「半導体業界の事業環境の変動が大きい」ことを理由に、翌四半期累計期間のみを開示する方針をとっており、通期(1年分)の業績予想は開示されていないという点です。
会社が開示している7-9月単独の予想を見ると、営業利益は0億円、純利益も0億円となっています。10-12月については会社の見通しは示されていません。そのうえで泉田氏は、この7-9月予想の水準から「下期はブレイクイーブンで乗り切る想定ではないか」と見立てます。会社が下期全体の方針としてそう明言しているわけではなく、「ブレイクイーブン」という語も決算説明会資料には登場しない点は押さえておく必要があります。
今後の収益を押し上げる鍵となるのは、LTA以外の「スポット価格」(長期契約によらず、その時々の需給で決まる取引価格)の動向です。会社側の資料でも、第2四半期実績で「見直しの交渉が始まった」とされ、第3四半期予想では「見直しの動きがある」と言及されています。まだ確定的な強い材料ではありませんが、スポット調達の価格がどう見直されるかが注目ポイントとなります。
また、全体の市場見通しとして、300mmウエハーはAIやデータセンター向け先端品が牽引して需要の増加が続き、顧客の在庫調整も進んで回復に向かっているとされています。200mm以下のウエハーについても、在庫調整の進展に合わせて緩やかな需要回復が予想されています。
5. 投資家にとっての学び:決算の表面に惑わされない
今回のSUMCOの決算は、表面的な数字だけを見て判断することの危うさを教えてくれます。
「増収なのに赤字転落」というニュースだけを見れば、多くの人が驚き、事業がうまくいっていないと判断してしまうかもしれません。しかし、一歩踏み込んでキャッシュフロー計算書を確認し、その赤字が「過去の積極的な設備投資による減価償却費」であることを理解すれば、全く異なる景色が見えてきます。
「ほぼほぼ会計上の利益とキャッシュフローの計算書というのはこんなに乖離することはないんだけど、勉強するためのすごい今回は素材だったかなという気はしますね」
泉田氏はこのように語り、赤字の理由を立ち止まって分析することの重要性を強調します。
「これが中級者への階段みたいな感じだな。株式投資の」
半導体のような成長産業において、企業は将来の需要を見据えて巨額の先行投資を行います。その結果として一時的に会計上の利益が沈むことは珍しくありません。次回以降の決算では、キャッシュフローの健全性が維持されているか、そして売上の増加が減価償却費を吸収し、再び会計上の利益を生み出す体制になっているかを確認することが、投資家にとっての重要なチェックポイントとなるでしょう。
本記事は決算資料と動画内の解説をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
参考資料
- SUMCO「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信」
- SUMCO「2026年12月期 第2四半期 決算説明会資料」
- SUMCO「半期報告書(第28期中)」
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
各資料の入手先: 株式会社SUMCO IRライブラリ
※リンクは記事作成時点のものです。
