「AI」や「半導体」といったキーワードが連日ニュースを賑わせ、関連企業の成長に高い期待が集まる昨今。半導体の土台となる「シリコンウエハー」を手がけるSUMCOの決算に、多くの投資家が注目しました。しかし発表された業績は、世間の期待とは裏腹に「赤字転落」という結果でした。一体なぜ、半導体市場が好況にもかかわらず、最上流に位置する素材メーカーが赤字になってしまうのでしょうか。この点について、元機関投資家の泉田良輔氏がSUMCOの事業構造と財務体質を分析し、増収赤字となった本当の理由を解説します。
- 増収にもかかわらず赤字となった最大の要因は、過去の大型投資に伴う減価償却費の増加である
- 損益計算書上は赤字でも、キャッシュフロー(現金収支)は前年よりも大きく改善している
- シリコンウエハー業界は長期契約(LTA)が主体のため、短期的な需要急増でも価格が急騰しにくい
- 顧客側が既に在庫を多く抱えており、上期はその在庫調整局面にあったことが影響した
- 今後の収益回復の鍵は、スポット価格の見直しとAI向け300mmウエハー(直径300ミリメートルのシリコン円板)の需要増にある
1. なぜ増収なのに赤字なのか?決算書の裏側を読み解く
SUMCOが2026年8月6日に発表した2026年12月期 第2四半期(中間期)の決算は、売上高が2,150億円(前年同期比+4.7%)と増収でした。しかし、営業利益は63億6,300万円の赤字に転落しています。
売上が伸びているのに、なぜ利益がマイナスになってしまうのでしょうか。泉田氏は、その背景を知るために営業利益の増減要因を分析することが重要だと指摘します。
会社が開示した資料によると、前年同期と比べて売上高が97億円増加した一方で、営業利益はトータルで137億円減少しています。その足を引っ張っている最大の要因が「減価償却費」です。
コスト増加(マイナス35億円)や販売・生産関係他(マイナス37億円)、為替のプラス効果(プラス51億円)といった要因がある中で、減価償却費単独で116億円もの減益要因となっています。
1.1 利益を押し下げる「減価償却費」の正体
では、なぜこれほどまでに減価償却費が膨らんでいるのでしょうか。
製造業が工場などの設備投資を行う際、現金は一気に支払われます。しかし、会計のルール上、その支出を一度に全額費用として計上するわけではありません。設備の「耐用年数」に応じて、複数年にわたって少しずつ費用として割り振っていきます。これが減価償却の仕組みです。
「設備投資しますよね。お金としてはどんと一気に出てしまうんですけれども、会計上費用として認めるものっていうのは、投資したものに対して何年間でこう割って費用計上していくものなんですよ」
泉田氏の分析によれば、SUMCOは設備に関して「定率法」という計算方法を採用していると見られます。定率法は、投資した初期の数年間に多くの費用を計上し、年々その額を減らしていく方式です。そのため、過去に大型の設備投資を行っていると、その直後の数年間は減価償却費の絶対額が大きく跳ね上がり、会計上の利益を圧迫することになります。
2. 会計上の赤字とキャッシュ(現金)の乖離
損益計算書だけを見ると「赤字転落」という厳しい結果に見えますが、実際の「お金の出入り(キャッシュフロー)」はどうなっているのでしょうか。泉田氏は、半期報告書に記載されているキャッシュフロー計算書を確認することで、企業の実態が見えてくると語ります。
「よく損益計算書だけじゃなくて、キャッシュフロー計算書を見ろという典型的な例なんですけど。赤字だったらびっくりするじゃないですか」
実際にキャッシュフロー計算書を見ると、当期の減価償却費は644億円となっており、前年同期の494億円から約150億円も増加しています。これは、過去の大型投資(泉田氏の見立てでは、先端半導体向けである300mmウエハーの生産能力増強など)が反映されている結果です。
しかし、本業でどれだけの現金を稼いだかを示す「営業活動によるキャッシュフロー」は465億円のプラス(収入)でした。前年同期の536億円からは減少したものの、しっかりと黒字を維持しています。
一方で、設備投資などの支出を示す「投資活動によるキャッシュフロー」は、前年同期のマイナス705億円から、当期はマイナス255億円へと大幅に支出が縮小しています。つまり、多額の現金支出を伴う投資のピークはすでに昨年終わっているのです。
会社が自由に使えるお金である「フリーキャッシュフロー(営業CFと投資CFの合計)」を計算すると、前年同期はマイナス169億円でしたが、当期はプラス210億円へと大きく黒字転換しています。
「結果として、そういう計算書(=損益計算書)が赤字になっているだけで、キャッシュフローのお金の回り方としては昨年よりも全然改善しているので、プロが見ると昨年よりも金回りがいいという判断にはなります」

