4. 【元銀行員の視点】平均は過去の集計、見込額は自分の記録から
ここからは、銀行で資産運用のご相談を受けてきた立場から、この数字の扱い方をお伝えします。
都道府県別の平均は、いまその地域で年金を受け取っている方々の集計です。これから受け取る方の金額を示すものではありません。
神奈川県に住んでいるから多くもらえる、青森県だから少ない、という関係でもありません。計算に使われるのは現役時代の報酬と加入期間だけで、住所は式に入っていないからです。
自分がいくら受け取れるかは、ねんきん定期便やねんきんネットで確認できます。平均額と比べる前に、まず自分の記録を見るほうが判断の材料になります。
5. 【盲点】70歳になると厚生年金に加入する資格を失う
では、これから増やす余地はあるのでしょうか。65歳以降の加入について、日本年金機構の説明を確認します。
5.1 65歳を過ぎても70歳未満なら加入する
日本年金機構は、65歳以上のフルタイムで働く従業員の加入義務について「厚生年金保険に加入する事業所に勤務する70歳未満の方は、原則として厚生年金保険の被保険者となります」としています。
つまり65歳を過ぎても、要件を満たす働き方をしていれば厚生年金の被保険者であり続けます。加入期間と報酬が積み上がるため、年金額に反映されていきます。
65歳以降に働いて増えた分がいつ年金額に反映されるかは、在職定時改定というしくみで決まります。詳しい時期については年金事務所に確認してみてください。
5.2 70歳が上限になる
ここが見落とされやすい点です。日本年金機構は「年金額を増やすために、70歳を過ぎても厚生年金保険に加入できますか」という問いに対して、「会社に勤めていても70歳になれば、厚生年金保険に加入する資格を失います」と回答しています。
70歳を過ぎて働き続けても、年金額を増やす目的で厚生年金に加入することはできないということです。増やせる期間には上限があります。
5.3 加入期間が足りない場合だけ例外がある
ただし例外もあります。同機構は「老齢の年金を受けられる加入期間がなく、70歳を過ぎても会社に勤める場合は、老齢の年金を受けられる加入期間を満たすまで任意に厚生年金保険に加入することができます」としています。
これは高齢任意加入被保険者と呼ばれる制度です。年金額を増やすためではなく、受給資格そのものを満たすための救済という位置づけになります。
6. 【対応策】いま確認しておきたい3つのこと
地域の平均を眺めるより先に、確認しておくと役に立つことを3つ挙げます。
6.1 ねんきん定期便で自分の記録を見る
まずは加入期間と報酬の記録を確認します。転職や退職の時期に空白がないか、標準報酬月額が実態と合っているかを見ておくと、見込額の精度が上がります。
6.2 65歳から70歳までの働き方を考える
70歳未満であれば厚生年金に加入できるため、この期間の働き方が年金額に影響します。ただし収入によっては在職老齢年金のしくみで年金の一部が支給停止になることもあります。
また、働くことで社会保険料や税の負担が変わる面もあります。手取りベースでどうなるかを含めて、年金事務所や勤務先に確認しておくと判断しやすくなります。
6.3 公的年金以外の準備もあわせて見る
厚生年金には70歳という上限があるため、それ以降に増やせるのは公的年金以外の部分になります。iDeCoやNISAなどの制度が選択肢に入りますが、いずれも運用の結果によっては元本を下回る可能性があります。
どの方法が合うかは家計の状況によって変わるため、迷う場合は金融機関やファイナンシャル・プランナーに相談してみるのもひとつの方法です。
7. まとめにかえて
厚生年金の平均年金月額は全国で15万289円、最も高い神奈川県が17万457円、最も低い青森県が12万8129円で、差は月4万2328円でした。年間では50万7936円の開きになります。
ただしこの差は住んでいる場所で決まるものではありません。厚生年金は現役時代の報酬と加入期間で計算されるため、地域ごとの働き方の違いが平均額の差として表れているということです。
65歳を過ぎても70歳未満であれば厚生年金に加入し、年金額は積み上がります。一方で70歳になると資格を失うため、増やせる期間には限りがあります。まずはねんきん定期便でご自身の記録を確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
- 厚生労働省年金局『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』
- 日本年金機構『65歳以上のフルタイムで働く従業員は、厚生年金保険にも加入する義務がありますか。』
- 日本年金機構『年金額を増やすために、70歳を過ぎても厚生年金保険に加入できますか。』
和田 直子