4. 【元銀行員の視点】世帯合算で見ると「消える部分」が分かる
遺族年金を単体で眺めても、家計への影響はつかめません。世帯として今いくら入っているかと並べて初めて、落差が見えてきます。
4.1 引き継がれない部分がある
夫婦2人が受け取っていた年金のうち、亡くなった方の老齢基礎年金は遺族年金として引き継がれません。遺族厚生年金として残るのは、報酬比例部分の4分の3にあたる部分です。
遺された配偶者自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金は、これまでどおり受け取れます。ただし自分の老齢厚生年金がある場合は、遺族厚生年金との間で調整が入ります。
窓口でご相談を受けていたころ、「夫の年金の4分の3がそのままもらえる」と理解されている方が少なくありませんでした。実際には基礎年金部分が対象外なので、世帯の年金収入は想定より大きく下がることがあります。
4.2 住居費と固定費は世帯人数で減らない
収入が下がる一方で、住居費や光熱費の基本料金、固定資産税といった支出は、世帯人数が1人減っても比例して減りません。
食費や被服費は減りますが、家計全体で見ると収入の下がり方のほうが大きくなるご家庭が多いという印象です。ここに介護や医療の負担が重なる時期が来ると、取り崩しのペースが一気に変わります。
4.3 配偶者名義の資産を把握しているか
もう1つ、実務で問題になりやすいのが口座の把握です。名義人が亡くなると、その口座は原則として凍結されます。相続の手続きが済むまで、遺された配偶者でも自由に引き出せません。
年金収入が下がるタイミングと、口座が動かせない期間が重なると、当座の生活費に困ることがあります。どの金融機関にどの名義の口座があるかは、元気なうちに共有しておきたいところです。
5. 【落とし穴】想定と違いやすい4つの点
遺族年金は、思い込みと制度のズレが生まれやすい分野です。
5.1 自営業だけの期間が長いと遺族厚生年金はない
遺族厚生年金は厚生年金の制度です。国民年金だけの期間しかない方が亡くなった場合、遺族厚生年金は支給されません。18歳到達年度の末日までの子がいれば遺族基礎年金の対象になりますが、子がいなければ遺族年金そのものが出ないことになります。
5.2 子のない30歳未満の妻は5年で終わる
現行制度では、子のない妻が30歳未満で夫を亡くした場合、遺族厚生年金は5年間のみです。若い世帯ほど、この点を知らないまま生活設計をしていることがあります。
5.3 夫が受け取る側になると条件が厳しい
妻に先立たれた夫の場合、55歳以上でなければ受給権が発生せず、実際に支給が始まるのは60歳からです。共働きで妻の収入が世帯の柱だった場合、夫側の備えが手薄になりやすい構造でした。
5.4 再婚すると受給権がなくなる
遺族年金は、受給者が再婚した場合には受け取れなくなります。生活設計に組み込む際は、この点も含めて考えておく必要があります。
6. 【対応策】夫婦で確認しておきたい3つのこと
遺族年金は、亡くなってから調べ始めると選択肢がほとんど残りません。順番に押さえておきましょう。
6.1 ねんきん定期便でお互いの加入記録を見る
遺族厚生年金の額は、亡くなった方の報酬比例部分から決まります。まずは配偶者の厚生年金の加入期間と標準報酬を確認しておくことです。自分の分だけ見て終わりにしない、というのが要点になります。
6.2 片方になったときの収支を一度だけ試算する
現在の世帯の年金収入から、亡くなった側の老齢基礎年金と、報酬比例部分の4分の1にあたる部分が減ると考えて、ざっくりした金額を出します。そこから住居費や固定費を引いて、月いくら不足するかを見ておきます。
この試算は一度やっておけば十分です。数字を1回でも見ておくと、その後の判断が具体的になります。
6.3 口座と保険の情報を共有する
金融機関名、名義、生命保険の契約先を一覧にして、夫婦で保管場所を共有しておきます。相続手続きの間の当座資金をどう確保するかも、あわせて決めておくと安心です。
7. 2028年4月から男女差が解消される予定
2025年6月に成立した年金制度改正法により、遺族厚生年金の男女差が見直されます。厚生労働省は2028年4月施行予定としています。
7.1 対象が広がる
厚生労働省によると、18歳年度末までの子がいない60歳未満の男性が新たに対象となり、その規模は年間約1万6千人と見込まれています。女性側は、18歳年度末までの子がいない、2028年度末時点で40歳未満の方が新たに5年間の有期給付の対象となり、年間約250人と見込まれています。
7.2 有期給付加算で額は約1.3倍に
あわせて有期給付加算が設けられ、厚生労働省は現在の遺族厚生年金の額の約1.3倍になると説明しています。
また5年の有期給付が終わったあとも、障害状態にある方や収入が十分でない方は、引き続き増額された遺族厚生年金を受け取れる継続給付が設けられます。単身の場合、月額約11万円(年間132万円)以下の収入であれば全額支給とされる見込みです(※夫と死別し地方税上の『寡婦』に該当する女性は、年間204万円程度まで引き上げられます)。
なお施行時期や経過措置の細かい取り扱いは、今後の政令・省令で定まる部分があります。ご自身がどの扱いになるかは、年金事務所などで確認してください。
8. まとめにかえて
遺族厚生年金は、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。厚生年金の加入期間が300月に満たない場合も300月とみなして計算され、妻が40歳以上65歳未満で子がいない場合などには中高齢寡婦加算 年63万5500円が加わります。
一方で、亡くなった方の老齢基礎年金は引き継がれません。世帯の年金収入は、思っているより大きく下がることがあります。
2028年4月からは男女差が解消され、有期給付加算により額も現在の約1.3倍になる予定です。制度が変わる前に、夫婦それぞれのねんきん定期便を並べて、片方になったときの収支を一度試算しておいてはいかがでしょうか。
なお遺族年金の受給権の判定や他の年金との調整は、個別の加入記録と家族構成によって結論が変わります。ご自身のケースについては、必ず年金事務所や街角の年金相談センターでご確認ください。
参考資料
和田 直子