4. 【元銀行員の視点】「平均」と「自分の年金額」は別物として考える
筆者は銀行のリテール営業で、延べ1万名以上の方のお金の相談に携わってきました。統計の数字を持って来店される方も多く、そのたびに感じたのは、平均値は自分の家計を測る物差しにはなりにくいということです。
4.1 平均総所得には働いている高齢者世帯も含まれている
高齢者世帯の総所得のうち25.9%は稼働所得です。つまり平均336万1000円という数字には、まだ働いて収入を得ている世帯が相応に含まれています。
すでに仕事から離れ、公的年金だけで暮らしている世帯にとっては、この平均は自分の実感より高く見えるはずです。比べるなら、依存度100%の世帯が41.3%という分布のほうが参考になります。
4.2 総所得ではなく、手元に残る金額を見る
統計に出てくるのは税や社会保険料を差し引く前の所得です。実際の年金からは所得税、住民税、国民健康保険料または後期高齢者医療保険料、介護保険料が天引きされます。
通帳に振り込まれる金額は、額面よりも1割前後少なくなることが少なくありません。家計を組むときは、額面ではなく振込額をもとに考えることをおすすめします。
5. 平均336万1000円を基準にすると生活設計を誤る
数字を使うときに気をつけたい点を整理します。
5.1 平均は上位の世帯に引き上げられる
所得の分布は一部の高い世帯によって平均が押し上げられる形になりやすく、平均を下回る世帯のほうが多くなります。高齢者世帯についても、平均336万1000円を満たしていない世帯は珍しくありません。
「平均くらいあれば足りる」と考えて老後資金を逆算すると、必要額を見誤ることがあります。
5.2 世帯の人数によって必要額は変わる
高齢者世帯の6割超は単独か夫婦のみです。単独世帯と夫婦のみの世帯では、必要な生活費も受け取る年金の合計額も異なります。
世帯の人数を揃えずに平均と比べても、自分の家計の位置は分かりません。自分と同じ世帯構成のデータを選んで見ることが大切です。
6. 見込額の把握、支出の点検、余力の置き場所
現状を踏まえて、今から取り組めることを3つに整理します。
6.1 ねんきんネットで自分の見込額を確認する
出発点は、自分がいくら受け取れるのかを知ることです。ねんきんネットや50歳以上の方に届くねんきん定期便には、年金見込額が記載されています。
世帯単位で考える場合は、配偶者の分も合わせて確認します。夫婦それぞれの見込額を並べると、世帯としての月額が見えてきます。
6.2 天引き後の金額で支出を点検する
見込額が分かったら、そこから税と社会保険料を差し引いた金額を想定し、いまの支出と並べてみます。差がある場合、まず手をつけやすいのは通信費や保険料といった固定費です。
収入を増やすのが難しい年代では、支出を1つ削ることが年金を上乗せするのと同じ効果を持ちます。
6.3 余力があるならNISAのつみたて投資枠やiDeCoを検討する
現役期に余力がある方は、NISAのつみたて投資枠を使った長期・積立・分散の資産形成が選択肢になります。運用で得た利益が非課税になる制度です。
掛金を所得控除できるのはiDeCoのほうで、NISAに所得控除はありません。目的に応じて使い分けてください。いずれも元本割れの可能性があるため、生活費とは切り離した資金で、無理のない金額から始めることが基本です。
7. まとめにかえて
2025年 国民生活基礎調査は、高齢者世帯の平均総所得が336万1000円で、その61.3%を公的年金・恩給が占めること、そして収入が公的年金・恩給だけという世帯が41.3%にのぼることを示しています。
生活意識では52.1%が「苦しい」と答えており、平均値の背後にある分布の広さがうかがえます。平均と自分の見込額を切り分けて考えることが、老後の家計を組み立てる第一歩です。
まずはねんきんネットで見込額を確認し、天引き後の金額でいまの支出と突き合わせてみてください。判断に迷うときは、年金事務所や金融機関の窓口に相談することもできます。
参考資料
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」
- 厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査の概況 所得・貯蓄の状況」
- 厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査の概況 世帯数と世帯人員の状況」
- 日本年金機構「ねんきんネット」
- 金融庁「NISAを知る」
中本 智恵