4. 9月1日が基準日|働き続けると厚生年金は毎年10月分から増える
年金を受け取りながら厚生年金に加入して働くと、その期間は年金額に反映されます。反映のタイミングを決めているのが、毎年9月1日という基準日です。いっぽうで、収入が多いと年金の一部が止まる仕組みもあります。増える側と止まる側、両方を確認しておきましょう。
4.1 在職定時改定とは|9月1日に在職なら10月分から年金額を見直し
65歳を過ぎても厚生年金に加入して働いた期間は、毎年決まったタイミングで年金額に足されます。この仕組みが「在職定時改定」です。日本年金機構は次のように説明しています。
基準日(毎年9月1日)において被保険者である老齢厚生年金の受給者の年金額について、前年9月から当年8月までの被保険者期間を算入し、基準日の属する月の翌月(毎年10月)分の年金から改定されます。
対象者となるのは65歳以上70歳未満の老齢厚生年金の受給者です。
出所:日本年金機構「令和4年4月から在職定時改定制度が導入されました」
大事なのは「毎年」という点です。令和4年3月までは、65歳以降に働いた期間は退職するか70歳になるまで年金額に反映されませんでした。いまは前年9月から当年8月までに働いた分が、毎年10月分の年金から加わります。1年分ですから増える額は大きくありませんが、いったん増えた分はその後も続きます。働いた成果を退職まで待たずに受け取れるようになった、と考えるとわかりやすいでしょう。対象は65歳以上70歳未満で、65歳未満の方は繰上げ受給をしていても対象外です。ご自身の年金額が9月をまたいで変わっていないか、通知書で確かめてみてください。
4.2 収入が多いと止まる「在職老齢年金」|2026年4月から基準は65万円
60歳以降も厚生年金に加入して働く場合、賃金(総報酬月額相当額)と老齢厚生年金の基本月額の合計が一定の基準額を超えると、超えた分に応じて老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になります。これが在職老齢年金です。なお、調整の対象になるのは老齢厚生年金だけで、日本年金機構も次のように注記しています。
※老齢基礎年金は調整の対象になりません
つまり、国民年金部分(老齢基礎年金)は、どれだけ働いても減りません。減る可能性があるのは、あくまで厚生年金の上乗せ部分だけです。ここを混同して「働くと年金が全部止まる」と受け取ってしまう方が少なくありません。しかも、止まるのは基準額を超えた分に応じた金額で、超えた瞬間に全額が消えるわけでもありません。土台の基礎年金は守られていると分かれば、働き方の選択はぐっと考えやすくなります。そのうえで、いくらまでなら減らないのかという基準額を確認しておきましょう。
2025年(令和7年)の年金制度改正により、支給停止の基準額が引き上げられます。令和8年3月までは賃金と年金の合計が「51万円」を超えると支給停止でしたが、2026年(令和8年)4月以降は「65万円」に見直されました。
これにより、これまで年金を減らさないために働き方を抑えていた人も、より多く働きながら年金を受け取りやすくなりました。「働くと損」というイメージは、少しずつ過去のものになりつつあるといえるでしょう。
ただし、合計が65万円を超える場合は引き続き一部が支給停止になります。自分の場合はどうなるか、年金額と賃金の見込みをもとに、ねんきんネットや年金事務所(予約制)、ねんきんダイヤル(0570-05-1165)で試算・確認しておくと安心です。
5. 編集部からのアドバイス|「働くと損」は過去の話に。試算して働き方を選ぶ
働くシニアにとって、いまの制度は追い風になっています。9月1日を基準にした在職定時改定で働いた分は毎年10月分から年金に反映され、支給停止の基準額も51万円から65万円に上がりました。年金を大きく減らさずに働ける範囲が広がっています。
一方で、注意点もあります。65万円を超えれば引き続き一部は支給停止になりますし、働いて厚生年金に加入すれば保険料は引かれます。社会保険料や税金とのバランスも含めて、「手取り」で考えることが大切です。
まずは、ご自身の年金見込み額と働いたときの賃金を合わせて試算してみてください。数字が見えると、無理に働き方を抑える必要があるのか、落ち着いて判断できます。
6. まとめにかえて
厚生年金は月20万円以上が2割弱という分布で、年金だけに頼らない備えが大切です。そのうえで、働くシニアには追い風となる改正もありました。最後に、今日からできるアクションを3つ整理します。
- ①分布のなかの自分の位置を知る:自分の年金見込み額が「20万円未満か以上か」をねんきんネットで確認。平均ではなく自分の数字で考えましょう。
- ②9月をまたいだ年金額を確認する:65歳以上で働いている方は、在職定時改定で10月分から金額が見直されます。通知書で変化をチェック。
- ③働くなら新基準(65万円)で試算する:2026年4月からは賃金と年金の合計が65万円までは支給停止されません。働き方を決める前に試算を。
参考資料
- 日本年金機構「令和4年4月から在職定時改定制度が導入されました」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」
- 日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
和田 直子
