3. 【落とし穴】住民票が同じでも合算できないことがある

この制度でつまずきやすいのが、誰と誰の負担を合わせられるのかという点です。介護保険とは範囲の取り方が違います。

3.1 合算するのは医療保険上の世帯

判定に使うのは、基準日である7月31日時点で加入している医療保険上の世帯です。住民基本台帳上の世帯ではありません。

江東区は「同じ江東区国保の記号番号の保険証を持っている、または持っていた方々をいい、住民票上は同じ世帯でも、江東区国保以外の方の分は合算できません」と説明しています。富山市も医療保険制度上の世帯であり住民基本台帳上とは異なる旨を明記しています。

たとえば夫が後期高齢者医療制度、妻が国民健康保険という高齢の夫婦の場合、同居していても2人分をまとめて合算することはできません。それぞれ別々に判定されます。

月ごとの高額介護サービス費が住民基本台帳上の世帯で判定されるのとは対照的です。同じ「世帯」という言葉でも、制度によって指す範囲が変わる点は押さえておきたいところです。

3.2 年度の途中で保険が変わった場合

計算期間の途中で医療保険が変わったり転居したりした場合でも、変更前の保険で負担した分は合算の対象になります。

その際は、以前加入していた保険者が発行する自己負担額証明書を、基準日時点の保険者へ提出する形になります。ただしマイナンバーによる保険者間の情報連携で添付を省略できる自治体や、同一市区町村内で完結する場合は不要としている自治体もあり、運用には差があります。

広島市は、計算期間中に転入・転出や保険の切り替えがあった場合、支給対象となる旨の通知を受け取れない可能性があると注意を促しています。心当たりがある方は自分から問い合わせるほうが確実です。

4. 【FPの視点】戻ってくるまでに1年以上かかる

支給されること自体は決して珍しくありませんが、手元に現金が戻るまでの時間は長めです。

4.1 確定が10月以降、振込はさらに先

7月31日で1年分を締めたあと、自己負担額が確定するのは10月以降になります。該当者への案内は名古屋市が2月下旬、立川市が2月から3月ごろとしています。

申請してから振り込まれるまでは、立川市が3か月から4か月、東京都後期高齢者医療広域連合が3か月から5か月程度と案内しています。大阪市は12月ないし1月以降の支給としています。

つまり8月に負担した分が戻るのは、1年半近く先になることもあるということです。家計の資金繰りを考えるうえでは、戻ってくる前提で組まないほうが安全です。

計算期間の開始から支給までにかかる時間の目安2/2

計算期間の開始から支給までにかかる時間の目安

出所:各市区町村・後期高齢者医療広域連合の公表資料をもとにLIMO編集部作成

4.2 振込は2本に分かれる

もう一つ知っておきたいのが支給のされ方です。支給額は医療保険者と介護保険者がそれぞれの負担割合に応じて按分し、別々に振り込まれます。

申請は1回で済みますが、入金は2回に分かれます。片方だけを見て「思ったより少ない」と感じる場面が出やすいところです。

4.3 合算できない費用もある

対象にならない費用も確認しておきます。医療側では入院時の食事代や居住費、差額ベッド代など保険適用外の負担が除かれます。

介護側では福祉用具購入費、住宅改修費、区分支給限度基準額を超えて利用した分の自己負担が対象外です。支払った総額と合算に使える額は一致しません。

支給を受ける権利の時効は、基準日の翌日から2年とされています。自治体の案内では起算日の表現が異なることがあるため、過去の分に心当たりがあれば早めに確認してください。

5. 【補足】2026年8月の高額療養費改定との関係

2026年8月は医療保険の側で大きな改定がありました。合算の制度と混同しやすいので、切り分けておきます。

5.1 高額療養費には年間上限が新設された

厚生労働省によると、令和8年8月から高額療養費の月額限度額が引き上げられ、あわせて年間上限が新設されました。月ごとの自己負担が積み上がっても、年間の上限額に達した後は保険者から還付を受けられる仕組みです。

70歳未満では、市民税非課税の区分で月額3万5400円が3万6900円になり、年間上限29万円が設けられました。既存の外来年間合算についても、70歳以上・一般の年間上限が14万4000円から21万6000円に変わっています。

5.2 合算の限度額そのものは変わっていない

一方で、合算の限度額は改定されていません。健康保険法施行令第43条の3と高齢者の医療の確保に関する法律施行令第16条の3が、この介護合算算定基準額を定めています。

令和8年8月1日施行の政令による変更点は所得区分の定義に関する文言だけで、212万円から19万円までの金額はいずれも改定前と同じです。令和9年8月1日に施行される版でも金額は変わりません。

つまり2026年8月に動いたのは高額療養費の側であって、医療と介護を合算する制度の限度額は据え置かれた、という整理になります。

ただし高額療養費の限度額が上がると、そこで控除される額が変わるため、合算に持ち込める残額の出方には影響しうると考えられます。判断に迷う場合は、加入している医療保険者に確認してみてください。

6. まとめにかえて

高額医療合算介護サービス費は、8月1日から翌年7月31日までの1年分について、医療保険と介護保険の自己負担を合算する制度です。限度額は70歳以上で19万円から212万円、70歳未満で34万円から212万円となっています。

合算できるのは医療保険上の世帯の分だけで、住民票が同じでも加入している医療保険が違えば合算できません。月ごとの高額介護サービス費とは世帯の取り方が異なる点が、この制度のわかりにくいところです。

医療費と介護費が重なる時期は、住まいの維持費など別の支出とも重なりやすいものです。この点については、LIMOの記事「【75歳以上】夫婦の生活費・年金の実態!後期高齢者医療制度の負担割合と高額療養費制度の活用法」から要点を引用します。

持ち家の方は毎月の家賃がかからない反面、75歳以降は『バリアフリー改修(手すり設置・段差解消)』や『水回りの突発的な修繕』で数十万円単位のまとまった資金が必要になるケースが目立ちます。

出所:【75歳以上】夫婦の生活費・年金の実態!後期高齢者医療制度の負担割合と高額療養費制度の活用法

令和5年度は介護保険側だけで121万7073件の支給がありました。該当していても案内が届かない場合があるため、医療費と介護費の両方が続いた1年があったなら、加入している医療保険者の窓口に確認してみてください。

参考資料

村岸 理美