6. 現役ファイナンシャルアドバイザーが答える「家族に出してあげたいが自分の分は」―援助と生活費の線引きへの解決策

日頃のご相談では、お子さんやお孫さんへの援助を続けている方から、自分の生活費との兼ね合いをどう考えればよいか、というお話をうかがいます。出してあげたい気持ちと、自分の老後への備えの間で揺れる場面です。

6.1 70代以上でよくご相談される「どこまで援助してよいか分からない」という悩み

70代になると、蓄えを大きく増やす手段は限られてきます。その一方で、家族の状況によっては援助が続いていることも珍しくありません。物価の上昇も重なり、このままで自分の分は足りるのかという不安が生まれます。次のような声を耳にします。

70代のお客様(ご相談者)
子ども世帯には毎月いくらか渡していますし、必要なときには出してあげたいと思っています。ただ、物価も上がっていますし、自分の蓄えがこの先どうなるのかを考えると、このままでよいのか気になっています。

援助をやめる、減らすという話にする必要はありません。援助の枠と自分の生活費の枠を分けて管理する形にすると、どちらも見通しが立ちます。

6.2 【ファイナンシャルアドバイザー・鶴田綾が回答】援助をやめず、枠を分けて管理する

鶴田 綾
まずは、今の自分の蓄えでこの先もきちんと生活できるのか、いま一度今後の生活にいくらぐらい必要なのか、計算してみましょう。
また、昨今は物価高の影響で生活コストも上がっています。必要資金を計算する際は物価高も踏まえて必要資金の計算をしましょう。
子ども世帯に援助していたけど、最終的に自身の生活が立ち行かなくなると、今度は子どもたちに援助を頼むことになってしまいます。
子どもに負担をかけたくないとお考えであれば、まずは自分が必要な資金を確保するところから始めましょう。

線引きは、金額を決めることよりも、資金を分けることから始めると進めやすくなります。ご相談のなかでは、次の三つの順序でお話しすることが多くあります。

6.3 ポイント1:自分の生活費を先に確保する

今後の暮らしに必要な分をまず取り分け、そのうえで援助に回せる範囲を決める。順番を逆にすると、援助が先に立って自分の分が細っていきます。

6.4 ポイント2:援助に使う資金の上限を決めておく

都度の判断で出していると、総額が把握できません。年間でいくらまでと枠を決めておけば、頼まれたときの判断もしやすくなります。

6.5 ポイント3:置いておくだけでは目減りすることを踏まえる

物価が上がる局面では、預金のまま持っていても実質的な価値は下がります。生活費として近く使う分と、当面動かさない分を分け、後者については目減りへの対策を考えておくと安心につながります。

なお、資金の贈与には税務上の取り扱いがあり、金額や方法によっては申告が必要になる場合があります。ご家庭の事情によって扱いが異なりますので、税理士や税務署にご確認ください。債券や投資信託には元本割れの可能性があります。

7. まとめにかえて

70歳代・二人以上世帯の貯蓄額は、平均2416万円に対して中央値1178万円。貯蓄0円の世帯が10.9%ある一方で3000万円以上が25.2%を占め、同じ年代のなかで資産状況が大きく分かれていました。

年金額も同様です。厚生年金の平均は15万289円ですが、男性16万9967円と女性11万1413円では5万8554円の差があり、分布も9万円台から20万円前後まで広がっています。国民年金は6万円台に人が集中し、公的年金の側で増やせる余地は限られます。

そして65歳以上の夫婦のみ無職世帯は、収入25万4395円に対して支出29万6829円。ひと月4万2434円、年間およそ51万円の取り崩しが必要でした。非消費支出3万2850円が示すとおり、年金暮らしになっても税金と社会保険料の負担は続きます。

これら3つの数字はいずれも平均値であり、そのまま自分に当てはまるものではありません。持ち家か賃貸か、健康状態はどうか、就労を続けられるか——条件が変われば結論も変わります。まずはねんきん定期便やねんきんネットで見込み額を確認し、ご自身の支出と突き合わせてみてください。不足額の規模がわかれば、就労の継続、支出の見直し、公的給付の活用のうち、どこから手をつけるべきかが見えてきます。

8. 監修者コメント:平均に振り回されず「自分の数字」から始めましょう

熊谷 良子

この記事で並べた3つのデータは、いずれも公的な統計に基づく数字ですが、そのまま自分の家計に当てはめられるものではありません。

持ち家か賃貸か、健康状態、就労を続けられるかどうかで、必要な備えは大きく変わります。

まず取り組んでいただきたいのは、平均や中央値と自分の状況を比べることではなく、ねんきん定期便やねんきんネットで自分自身の年金見込み額を確認し、実際の生活費と突き合わせることです。

そのうえで不足が見えてきたら、就労継続、支出の見直し、公的な給付制度の活用のうち、どこから着手すべきかが具体的に見えてきます。

また、貯蓄が十分にあっても、判断能力の低下によって資産が動かせなくなるリスクは誰にでもあります。

成年後見制度や家族信託などの選択肢は、健康なうちに家族と話し合っておくことが何よりの備えになります。制度の詳細や自分が対象になるかどうかは、お住まいの自治体や年金事務所、金融機関の窓口で確認することをおすすめします。

参考資料

鶴田 綾