年金の定期支払日は偶数月の15日前後にあり、年末に向けてあと数回の支給を残す時期です。通帳の残高を見ながら、来年以降の家計をどう組み立てるか考え始める人も増えてきます。

そのときに気になるのが、「同世代はどれくらい貯蓄を持っているのか」「年金はいくら受け取っているのか」という比較の軸でしょう。とくに70歳代は、退職金の使い方や医療費の負担が家計に表れ始める時期でもあります。

この記事では、70歳代・二人以上世帯の貯蓄額と、厚生年金・国民年金の平均月額、そして65歳以上の夫婦のみ無職世帯の家計収支という3つのデータを並べて確認していきます。

鶴田 綾
老後資金の話になると、まず「平均額」を探す方が多いのですが、平均だけを見ると判断を誤りやすい領域です。貯蓄額はとくにその傾向が強く、一部の高額世帯が平均を押し上げます。だからこそ、平均と中央値の両方、そして分布まで見ていただきたいところです。この記事では貯蓄・年金・生活費の3つを順番に並べていきます。3つが揃うと、「いくら持っていて、いくら入って、いくら出るのか」という自分の収支の骨格が見えてきます。

なお、70歳代の貯蓄額、年金の平均月額、および65歳以上無職夫婦世帯の家計収支に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【70代の貯蓄・年金・家計のリアル】老後赤字を加速させないためには?投資に頼らない防衛策を徹底解説!
【70代の貯蓄・年金・家計のリアル】老後赤字を加速させないためには?投資に頼らない防衛策を徹底解説!
ココがポイント
  • 70歳代・二人以上世帯の貯蓄額は、平均2416万円に対して中央値1178万円。一部の高額世帯が平均を押し上げているため、実態に近いのは中央値のほうです。
  • 貯蓄0円の世帯が10.9%ある一方で、3000万円以上の世帯も25.2%。同じ70歳代のなかで資産状況が大きく分かれています。
  • 65歳以上の夫婦のみ無職世帯は、収入25万4395円に対して支出29万6829円。ひと月4万2434円、年間およそ51万円の取り崩しが必要になります。

1. 【70歳代・二人以上世帯】貯蓄の平均は2416万円、中央値は1178万円

まずは貯蓄額から確認します。J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」の「70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)」を、グラフとあわせて見ていきましょう。

※金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。また、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。

「70歳代・二人以上世帯」の平均貯蓄額は2416万円です。ただしこの数字は一部の富裕層によって押し上げられており、実際の生活水準とは乖離している可能性があります。

より実態に近いとされる中央値は1178万円。平均と中央値の間に1200万円以上の開きがあるという事実そのものが、この世代の資産のばらつきの大きさを示しています。

世帯ごとの貯蓄額の分布は次のとおりです。

  • 金融資産非保有:10.9%
  • 100万円未満:4.5%
  • 100~200万円未満:5.1%
  • 200~300万円未満:3.7%
  • 300~400万円未満:3.9%
  • 400~500万円未満:2.9%
  • 500~700万円未満:6.4%
  • 700~1000万円未満:6.7%
  • 1000~1500万円未満:11.1%
  • 1500~2000万円未満:6.7%
  • 2000~3000万円未満:12.3%
  • 3000万円以上:25.2%
  • 無回答:0.6%

70歳代・二人以上世帯のうち、金融資産を保有していない「貯蓄0円」の世帯は10.9%。一方で、3000万円以上を持つ世帯は25.2%と、全体の4分の1を占めます。同じ年代のなかで、資産状況が大きく分かれていることがわかります。

その他の分布を見ると、100万円未満が4.5%、100~200万円未満が5.1%、200~300万円未満が3.7%と、貯蓄が少ない世帯も一定数存在します。一方で、1000~1500万円未満が11.1%、1500~2000万円未満が6.7%、2000~3000万円未満が12.3%と、まとまった資産を保有する世帯も見られます。

貯蓄額は退職金や現役時代の収入履歴、相続、健康状態などによって大きく変わり、公的年金の受給額も現役時代の加入状況によって個人差があります。貯蓄が少ない世帯にとっては、年金収入だけで生活を維持するのが難しいケースもあるでしょう。

1.1 【独自試算】70歳代の貯蓄は二極化している|500万円未満が31.0%、2000万円以上が37.5%

分布の数字を積み上げると、この世代の資産の分かれ方がより具体的に見えてきます。上に挙げた割合を層ごとにまとめて計算してみましょう。

  • 貯蓄500万円未満(非保有+100万円未満~400~500万円未満):10.9+4.5+5.1+3.7+3.9+2.9=31.0%
  • 貯蓄2000万円以上(2000~3000万円未満+3000万円以上):12.3+25.2=37.5%
  • その差:わずか6.5ポイント

つまり、70歳代・二人以上世帯のおよそ3世帯に1つは貯蓄が500万円を下回り、別のおよそ3世帯に1つは2000万円以上を持っています。この2つの層がほぼ同じ規模で並存しているのが、この世代の姿です。中間層が薄く、両端に人が寄っている——いわゆる二極化した形をしています。

中央値1178万円がどこに位置するのかも確認しておきましょう。分布を下から積み上げると、1000万円未満までで44.1%。次の「1000~1500万円未満」(11.1%)を加えると55.2%となり、ここで50%を超えます。中央値1178万円がこの階級に入るという計算と一致します。

平均2416万円は、この中央値より1238万円も高い水準です。「平均2400万円」を目安に自分の準備状況を判断すると、実態より厳しく評価してしまうおそれがあります。

※J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」に記載された70歳代・二人以上世帯の構成比を単純に合計した目安です。無回答0.6%を含めた合計は100%です。階級の幅があるため、各階級内部の分布は考慮していません。

鶴田 綾
この調査の「金融資産保有額」には、日常的な出し入れに使う普通預金が含まれていない点にご注意ください。生活口座のお金は数字に入っていませんので、実際に手元にある残高より少なく出ている世帯もあります。逆に、株式や投資信託、生命保険は含まれるため、相場の状況によって金額が上下する部分も含んだ数字です。ご自身と比べるときは、「どこまでを貯蓄と数えているか」を揃えてから比較してください。定義が違うまま比べても、有益な判断材料にはなりません。

2. 厚生年金はいくら受け取れる?平均額と個人差を分布で確認する

続いて年金額を見ていきます。厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、厚生年金・国民年金の平均年金月額を確認しましょう。

厚生年金の被保険者は第1号~第4号に区分されていますが、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下、記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。

※記事内で紹介する厚生年金保険(第1号)の年金月額には国民年金の月額部分も含まれています。

2.1 厚生年金《平均年金月額》

  • 〈全体〉平均年金月額:15万289円
  • 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
  • 〈女性〉平均年金月額:11万1413円

全体の平均は15万289円。男女別では男性16万9967円、女性11万1413円で、5万8554円の差があります。厚生年金の加入期間の長さと現役時代の報酬水準が、そのまま反映された結果です。

2.2 厚生年金《月額階級別受給権者》

  • ~1万円:4万3399人
  • 1万円以上~2万円未満:1万4137人
  • 2万円以上~3万円未満:3万5397人
  • 3万円以上~4万円未満:6万8210人
  • 4万円以上~5万円未満:7万6692人
  • 5万円以上~6万円未満:10万8447人
  • 6万円以上~7万円未満:31万5106人
  • 7万円以上~8万円未満:57万8950人
  • 8万円以上~9万円未満:80万2179人
  • 9万円以上~10万円未満:101万1457人
  • 10万円以上~11万円未満:111万2828人
  • 11万円以上~12万円未満:107万1485人
  • 12万円以上~13万円未満:97万9155人
  • 13万円以上~14万円未満:92万3506人
  • 14万円以上~15万円未満:92万9264人
  • 15万円以上~16万円未満:96万5035人
  • 16万円以上~17万円未満:100万1322人
  • 17万円以上~18万円未満:103万1951人
  • 18万円以上~19万円未満:102万6888人
  • 19万円以上~20万円未満:96万2615人
  • 20万円以上~21万円未満:85万3591人
  • 21万円以上~22万円未満:70万4633人
  • 22万円以上~23万円未満:52万3958人
  • 23万円以上~24万円未満:35万4人
  • 24万円以上~25万円未満:23万211人
  • 25万円以上~26万円未満:15万796人
  • 26万円以上~27万円未満:9万4667人
  • 27万円以上~28万円未満:5万5083人
  • 28万円以上~29万円未満:3万289人
  • 29万円以上~30万円未満:1万5158人
  • 30万円以上~:1万9283人

分布を見ると、9万円台から20万円前後まで幅広く人が散らばっています。貯蓄額と同じように、年金額も「平均だけでは語れない」構造をしていることがわかります。

鶴田 綾
この金額には1階部分の国民年金が含まれている、という注記はぜひ押さえておいてください。「厚生年金だけで15万円」と誤解すると、上乗せ部分を実際より大きく見積もってしまいます。もう一点、これは額面の金額です。ここから介護保険料や国民健康保険料、所得税・住民税が差し引かれます。この記事の後半で出てくる家計データの「非消費支出」が、まさにその部分にあたります。額面と手取りを混ぜずに整理しておくと、必要な貯蓄額の見積もりがぶれにくくなります。

3. 国民年金はいくら受け取れる?平均額と個人差を分布で確認する

厚生年金の加入期間がなかった人が受け取る、国民年金(老齢基礎年金)の月額についても見ていきます。

3.1 国民年金《平均年金月額》

  • 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
  • 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
  • 〈女性〉平均年金月額:5万7582円

国民年金の男女差は4013円。厚生年金の5万8554円と比べると、ほとんど差がありません。保険料が全国一律で、受給額が加入期間だけで決まる制度である以上、男女差が生まれにくいのは当然といえます。

3.2 国民年金《月額階級別受給権者》

  • 1万円未満:5万1828人
  • 1万円以上~2万円未満:21万3583人
  • 2万円以上~3万円未満:68万4559人
  • 3万円以上~4万円未満:206万1539人
  • 4万円以上~5万円未満:388万83人
  • 5万円以上~6万円未満:641万228人
  • 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
  • 7万円以上~:299万7738人

国民年金は「6万円以上~7万円未満」に人が大きく偏っています。厚生年金のように広く散らばるのではなく、満額に近い水準に集中する形です。加入期間の上限が40年と決まっているため、制度の設計上そうなります。

「厚生年金の男性平均月額を受け取る夫」と「国民年金の女性平均月額を受け取る妻」の夫婦世帯の場合、二人分の年金受給額は月額22万7549円となります。

この「月額約22万円」という年金収入で、シニア夫婦の生活費をカバーできそうか気になる人もいるでしょう。次の章で、実際の家計データと突き合わせていきます。

なお、年金額が低い世帯に対しては、年金に上乗せして支給される制度もあります。対象や申請方法については、年金生活者支援給付金の要件と手続きを解説した記事で確認できます。

鶴田 綾
国民年金の分布が6万円台に集中しているという事実は、裏を返せば「公的年金の側で増やせる余地が小さい」ことを意味します。加入期間の上限に達している方は、それ以上増えません。だからこそ、国民年金が中心の方は、繰下げ受給や付加年金、国民年金基金、iDeCoといった選択肢を早めに把握しておく価値があります。もう一つ、年金額が一定の水準を下回る場合は、上乗せの給付を受けられることがあります。こうした制度は多くが申請制ですので、対象かどうかを確認しないままでいると、受け取れるものを受け取り損ねてしまいます。

4. 【65歳以上・夫婦のみの無職世帯】ひと月4万2434円の赤字という現実

最後に、実際の生活費を確認します。総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の標準的な家計収支を見ていきましょう。

4.1 《収入》25万4395円

■うち社会保障給付(主に年金):22万8614円

4.2 《支出》29万6829円

■うち消費支出:26万3979円

  • 食料:7万8964円
  • 住居:1万7739円
  • 光熱・水道:2万3540円
  • 家具・家事用品:1万1237円
  • 被服及び履物:5354円
  • 保健医療:1万7941円
  • 交通・通信:3万1325円
  • 教育:0円
  • 教養娯楽:2万6538円
  • その他の消費支出:5万1341円
    • うち諸雑費:2万2047円
    • うち交際費:2万3257円
    • うち仕送り金:1135円

■うち非消費支出:3万2850円

  • 直接税:1万2547円
  • 社会保険料:2万296円

4.3 《家計収支》

  • ひと月の赤字:4万2434円
  • エンゲル係数(※消費支出に占める食料費の割合):29.9%
  • 平均消費性向(※可処分所得に対する消費支出の割合):119.2%

この世帯の毎月の収入は25万4395円で、その多く(22万8614円)を公的年金などの社会保障給付が占めています。

一方、毎月の支出は29万6829円。内訳を見ると、食費や住居費、光熱費など日常的な生活にかかる消費支出が26万3979円、税金や社会保険料などの非消費支出が3万2850円です。

その結果、月々の家計は4万2434円の赤字となり、不足分は貯蓄を取り崩して補う必要があります。年間に換算すると、およそ51万円の取り崩しです。

シニア世代は現役世代と比べて安定した収入を得る機会が限られるため、こうした慢性的な赤字は長期的に貯蓄を大きく減らす要因となり得ます。

今ある貯蓄額を踏まえ、家計収支の見直しや、健康状態に応じた短時間の就労など、できる範囲で対策していくことが、老後の暮らしを安定させるカギとなります。

鶴田 綾
この家計データで注目していただきたいのが、非消費支出3万2850円です。税金と社会保険料で、月にこれだけの負担が続きます。年金暮らしになれば税や保険料から解放されると思われがちですが、そうではありません。もう一点、住居費が1万7739円と低めに出ているのは、持ち家でローンを完済した世帯が多く含まれるためと考えられます。賃貸で暮らす予定の方は、この項目をご自身の家賃に置き換えて計算し直してください。それだけで赤字額は大きく変わります。医療費も、この保健医療1万7941円で収まるとは限りません。

5. 監修者コメント:3つの統計を、自分の1枚の家計簿に落とし込む

熊谷 良子

この記事は、J-FLECの世論調査、厚生労働省の年金概況、総務省の家計調査という3つの一次統計を並べています。それぞれ調査の対象も方法も違いますので、単純に足し引きして「自分の老後はこうなる」と結論づけることはできません。ただ、ストック(貯蓄)とフロー(年金収入と生活費)の両面から見ておくことには、大きな意味があります。

貯蓄の分布で私が最も気になるのは、非保有が10.9%ある一方で3000万円以上が25.2%を占めるという点です。同じ70歳代でも、置かれた状況がまったく違います。平均額を目標のように扱うのではなく、まず「自分はどの階級にいるか」を確認するところから始めていただきたいと思います。

それから、貯蓄が十分にあっても安心とは限りません。判断能力が低下すると、本人名義の預金や有価証券は動かせなくなります。私自身、家族の介護を通じてこの問題に直面しました。成年後見制度や家族信託といった備えは、必要になってから調べるのでは間に合いません。元気なうちに、家族と情報を共有しておくことが実質的な対策になります。

そして、年金額が一定の水準を下回る世帯や住民税非課税世帯には、上乗せの給付や負担の軽減措置が用意されています。その多くは申請しなければ適用されません。この記事の数字を見て不安を感じたら、まずお住まいの自治体や年金事務所の窓口で、ご自身が対象になる制度がないかを確認してみてください。

5.1 【独自試算】年金だけで暮らすと不足は月6万9280円|中央値の貯蓄は何年もつか

この記事には「平均的な夫婦の年金22万7549円」と「夫婦のみ無職世帯の支出29万6829円」という2つの数字が出てきました。先ほど本文で投げかけた問い——月額約22万円の年金で生活費をカバーできるのか——を、実際に計算して確かめてみましょう。

  • 支出29万6829円 - 年金22万7549円 = 月6万9280円の不足
  • 年間に換算すると:83万1360円

家計調査に出ていた赤字は4万2434円でしたが、年金だけを収入とみなすと不足は6万9280円まで広がります。この差はどこから来るのでしょうか。

家計調査の実収入25万4395円のうち、社会保障給付は22万8614円。差額の2万5781円は、就労収入や仕送りなど年金以外の収入です。つまり家計調査の「赤字4万2434円」は、年金以外に月2万5781円の収入があってなお生じている赤字ということになります。

興味深いのは、家計調査の社会保障給付22万8614円と、平均的な夫婦の年金22万7549円がほぼ一致する点です(差は1065円)。家計調査に表れている世帯像は、まさに平均的な年金夫婦だといえます。

では、この不足を貯蓄で埋めた場合、いつまでもつのか。貯蓄の中央値1178万円を当てはめて計算します。

  • 月4万2434円の赤字(年金以外の収入あり):約23年1カ月 → 65歳から取り崩すと88歳ごろ
  • 月6万9280円の不足(年金のみ):約14年2カ月 → 同じく79歳ごろ

年金以外の収入があるかどうかで、貯蓄が尽きる時期に9年近い差が生まれます。健康なうちの就労が老後の家計に与える影響が、この数字にはっきり表れています。

※この記事に掲載された各統計の数値を単純に組み合わせた目安の試算です。厚生年金の男性平均額と国民年金の女性平均額を合算した「平均的な夫婦」は仮定の世帯像であり、家計調査の対象世帯と一致するものではありません。貯蓄額はJ-FLEC調査の70歳代・二人以上世帯の中央値、支出は家計調査の65歳以上夫婦のみ無職世帯の平均値で、調査対象が異なります。物価変動、年金額の改定、医療・介護費の増加、税・社会保険料の変動、運用による増減は考慮していません。