7. 「退職したのに支出が減らない」。60歳代が支出の優先順位を決め直すまで ― ファイナンシャルアドバイザー・神田翔平が答える

日頃のご相談では、退職を境に収入の柱が変わったあと、支出のほうが思うように下がらないというお話をよくうかがいます。収入が減った分だけ暮らしも縮む、とはなかなかいかないためです。ここでは、退職後の家計を組み直そうとして手が止まっていた60歳代の方の一事例をもとに、ファイナンシャルアドバイザーの神田翔平さんに伺った考え方を紹介します。

7.1 退職金を受け取ったあと、何から手をつけるかが決まらなくなった

退職金を受け取った直後は、まとまった資金があるぶん、かえって判断が難しくなります。年金と就労収入だけでは毎月の生活費に届かない一方で、備えておきたいことは複数ある。どれから手をつけるかが決まらないまま時間が過ぎてしまう、という状態です。相談の場では、次のような声をうかがいます。

60代(ご相談者)
退職して収入は減りましたが、支出は思ったほど下がりませんでした。毎月少しずつ足りない状態で、介護の備えも用意しておきたいのですが、どれを優先すればいいのか自分では決めきれません。

備えたいことがいくつもあるときに手が止まるのは、判断力の問題というより、比べる順番が決まっていないことから生まれている場合があります。相談の場でも、すべてを同時に満たそうとせず順番を決めるところから整理が進むことが少なくありません。この方の場合も、当面の生活費の確保を最優先に置く方針で見通しがついていきました。

7.2 【ファイナンシャルアドバイザー・神田翔平が回答】すべてを同時に満たそうとせず、順番を決めた

神田 翔平

まずは、どの手段から考えていくかに手を付ける前に、自分にはどんな備えが必要なのかを可視化するところから始めてみましょう。
当面の生活費なのか、介護や三大疾病の備えなのか、まずは必要な備えを書き出してみましょう。

そのうえで、優先順位別に並び替えたうえで自分に必要なものから、どんな手段が有効なのかを考えていきましょう。
一般的には当面の生活費から準備していくことの優先順位が高めになる方が多いです。
そのうえで余剰資金を活用して、万が一の備えや資産運用について考えていくことで、無理のない資産形成プランを組み立てられるといいでしょう。

優先順位は感覚ではなく、収支の数字をもとに決めていきます。ご相談のなかでは、次の三つの順序でお話しすることが多くあります。

7.3 ポイント1:収入と支出を、退職後の実額で計算し直した

年金と就労収入が合わせていくらになり、実際の支出がいくらなのか。毎月の過不足を金額で押さえることが、あらゆる判断の前提になります。退職前の感覚のまま家計を見ていると、不足の大きさも、逆に思っていたほど不足していないことも見えてきません。なお、ここで使う年金額はあくまで見込みであり、試算は一定の前提に基づくものです。前提が変われば結果も変わる点は、はじめに押さえておきたいところです。

7.4 ポイント2:当面必要なお金を、先に確保した

数年内に使う生活費は、値動きの大きい商品ではなく、必要なときに取り出せる形で持っておく、という考え方です。ここが固まって初めて、その先の備えを検討する余裕が生まれます。まとまった資金があるほど先に運用の話へ進みたくなりますが、日々の生活費が値動きの影響を受ける状態では、相場が下がった局面で使わざるを得なくなる可能性があります。

7.5 ポイント3:後回しにするものを決めた

介護への備えのように必要性の高いものでも、生活費の確保より先に資金を固定してしまうと家計が回らなくなることがあります。やらないのではなく順番を後ろにする、という整理が現実的です。優先順位を決めるとは、何かを諦めることではなく、着手する時期をずらすことだと受け止めていただけると、決めやすくなるように感じます。

なお、投資信託や債券には元本割れの可能性があります。年金の受給見込額は加入状況によって異なり、この記事で触れた試算はいずれも一定の前提に基づくものです。厚生年金を含むご自身の正確な見込み額は、ねんきん定期便やねんきんネット、年金事務所でご確認ください。介護保険の自己負担割合など公的制度の要件も個別に異なりますので、適用の可否はお住まいの自治体にご確認ください。前提となる収入や支出の水準、退職後の働き方、ご家族の状況は一人ひとり異なります。ご自身の状況に当てはめて考える際は、商品の内容や手数料、解約の条件もあわせて確認したうえで、個別に専門家へご相談ください。

8. まとめ

公的年金は国民年金と厚生年金の2階建て構造で、原則2カ月に一度、偶数月の15日に支給されます。厚生年金の平均年金月額は15万289円ですが、実際には受給者の19.0%が月10万円未満、18.8%が月20万円以上と、平均像だけでは見えない個人差があります。ご自身の年金見込み額は、ねんきん定期便やねんきんネットで確認し、公的年金だけで足りない部分は早めの資産形成で補っていくとよいでしょう。

参考資料