7. 在職老齢年金の基準額はどう変わる?2026年度は65万円に引き上げ

本文で紹介した通り、2025年6月に成立した年金制度改正法では、在職老齢年金制度の見直しが盛り込まれました。

日本年金機構が公表した「令和8年4月分からの年金額等についてお知らせします」によれば、働きながら厚生年金を受け取る65歳以上の方を対象とした「支給停止調整額」は、2026年度(令和8年度)に65万円へと引き上げられます。

2025年度の51万円から14万円の引き上げとなり、この基準額は年金制度改正法による水準の見直し(令和6年度水準で50万円から62万円への引き上げ)に、名目賃金変動率による毎年度の改定を反映した金額です。

支給停止調整額とは、年金と給与などの合計が一定額を超えた場合に、超えた分の年金額の一部または全部が支給停止となる仕組みの基準額です。

基準額が引き上げられることで、年金を受け取りながら働く高齢者にとっては、年金を減らされずに働ける収入の幅が広がることになります。

8. iDeCoは70歳まで加入可能に?私的年金の拡充で広がる資産形成の選択肢

在職老齢年金の見直しが「長く働く」ことを後押しする改正だとすれば、もう一つの改正ポイントであるiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入可能年齢の引き上げは、「長く積み立てる」ことを後押しする改正といえます。

厚生労働省の資料によれば、iDeCoの加入可能年齢の上限は現行の60歳未満から70歳未満へと引き上げられる見込みです。

ただし、資料には経過措置として「施行日から3年を経過する日までの間は、一定の要件に該当しない60歳以上70歳未満の者であってもiDeCoの加入が可能」とする記載があるものの、具体的な施行時期そのものは明記されていません。今後の政省令の公表を待つ必要があります。

こうした私的年金の拡充が進む背景には、高齢世帯の貯蓄格差という現実があります。

  • 世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄現在高:平均2564万円/中央値1777万円
  • うち65歳以上の無職世帯の貯蓄現在高:平均2494万円(前年比2.6%減少)
  • 貯蓄現在高2500万円以上の世帯が全体の約3分の1を占める

総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果」からは、多額の貯蓄を持つ世帯が全体の平均値を押し上げる一方、中央値でみると資産形成が思うように進んでいない世帯も少なくないことがうかがえます。

長く働ける環境の整備と、iDeCoやNISAといった私的年金・税制優遇制度の拡充は、いずれも公的年金だけに頼らない家計づくりを後押しする動きとして、あわせて押さえておきたいポイントです。

9. まとめにかえて|年金だけに頼らない家計づくりのために、今できること

物価上昇が続くなか、年金収入だけで家計に余裕を持てるシニア世帯は多くありません。

本記事で見てきた通り、単身無職世帯の家計は月々およそ3万円の赤字となっており、厚生年金の受給額も月15万円に届かない人が半数を超えます。

実際に「年金だけで不自由なく暮らせる」と答えた人はごく一部にとどまり、多くの人が物価上昇による家計の目減りを実感しているのが現状です。

まずは「ねんきんネット」などを使い、ご自身が将来受け取れる年金の見込み額を具体的に確認しておくことが欠かせません。

そのうえで、健康や意欲に応じて長く働く選択肢を持つことや、保有する資産を無理のない範囲で活用していく視点を、早めに検討しておくとよいでしょう。

10. 監修者からのコメント

熊谷良子
熊谷良子

在職老齢年金の基準額引き上げやiDeCoの加入年齢拡大は、いずれも「長く働き、長く積み立てる」ことを後押しする制度変更といえます。

特に在職老齢年金は、支給停止基準額の月額が51万円から65万円に上がったことで、給与と厚生年金の合計が65万円を超えない限り年金は減額されなくなりました。

これは、以前より14万円分、働きながら年金を受け取れる余地が広がったことを意味します。

ただし、iDeCoの加入年齢上限の引き上げは、具体的な施行時期がまだ公表されていない項目も含まれています。

制度の詳細は今後の政省令で確定していくため、ご自身が対象になるかどうかは、施行が近づいた段階で改めて確認することをおすすめします。

あわせてNISAのような非課税制度も含め、複数の制度を組み合わせながら無理のない範囲で資産形成を進める視点を持っておくと、老後の家計に厚みを持たせやすくなるでしょう。

参考資料

池上 翠