「持ち家と賃貸、老後まで含めた損益分岐点はどこにあるのか」。この問いは、住宅選びの記事で必ず出てくる定番のテーマです。

ただ、すでに持ち家か賃貸かを選んで65歳を迎えた方にとって、この問いの立て方には見落としがあります。

本記事では、公的統計から「これから」の老後コストを比較するとともに、「損益分岐点」という考え方が老後資金の計算にどこまで当てはまるのかを整理します。

ココがポイント
  • 「持ち家と賃貸の損益分岐点は40〜50年」という試算は、購入時点からの生涯コストを計算したものです。65歳時点ではすでにこの分岐点を過ぎているケースが多くあります。
  • 編集部試算では、65歳以降だけで比べると、持ち家(マンション想定)は賃貸より月3万8089円、老後全体で男性約900万円・女性約1121万円コストが軽くなります。
  • 住宅ローンが老後まで残っている場合は、60歳以上向けの制度を使う選択肢があります。

1. 「持ち家と賃貸の損益分岐点」は、どうやって計算されているのか

住宅選びの記事でよく見る「損益分岐点」は、住宅を購入した時点を起点に、その後の生涯コストを賃貸と比べて計算したものです。

1.1 購入時にかかる資金の実額

国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査」(令和7年6月公表)によると、分譲集合住宅(マンション)を取得した世帯の平均購入資金は4679万円で、このうち自己資金の割合は44.7%でした。

土地を購入した注文住宅の新築世帯では、平均購入資金6188万円のうち、自己資金の割合は32.2%です。

この自己資金と、その後何十年にもわたる住宅ローンの返済を含めて計算するからこそ、「損益分岐点は40〜50年」という試算になります。

1.2 購入した世帯主の年齢は30代・40代が中心

同調査では、注文住宅(新築)の世帯主は30代が最も多く、平均年齢は42.1歳でした。分譲戸建住宅も同様に30代が中心で、平均38.9歳です。

つまり「損益分岐点」を計算する記事の多くは、30代・40代で購入した人を前提にしています。65歳の方が今から同じ計算をやり直す必要はありません。

分譲戸建住宅の取得世帯も平均38.9歳と、同様に30代・40代が中心です。持ち家の多くは、老後を迎えるより30年以上前の年齢で購入されていることになります。

2. 【執筆者コメント】

「持ち家と賃貸、どちらが得か」という記事を読んで、今さら損益分岐点を気にして落ち込んでしまう65歳の方もいるかもしれません。実務的には、その心配はほとんど意味がありません。

損益分岐点の計算は、これから住宅を選ぶ人のための指標です。すでに持ち家を選んで住宅ローンを完済している方、あるいはすでに賃貸で長年暮らしている方にとって、過去の選択の損得を今さら計算し直しても、老後資金には反映されません。

大切なのは、今の自分にとって「これから」いくらかかるかだけです。次の章から、その視点で比較していきます。

すでに賃貸で長年暮らしてきた方も同様です。過去に持ち家を選ばなかったことの損得を今さら計算し直す必要はなく、これから先の家賃負担をどう用意するかだけに集中すれば十分です。

3. 老後において比べるべきは「これから」のコストだけ

65歳以降の老後資金を考えるうえで意味があるのは、過去の購入資金ではなく、これから先の維持コストの比較です。

3.1 賃貸のこれからのコスト

総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」によると、借家(専用住宅)の1か月当たり家賃の全国平均は5万9656円でした。賃貸で老後を迎える場合、このコストが続きます。

3.2 持ち家のこれからのコスト

持ち家(マンション)の場合、国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の目安(1平方メートル月335円、専有面積40平方メートルの場合)で月1万3400円、固定資産税は仮の評価額で月8167円という編集部試算があります(前提条件は次の章の表に記載)。

合計すると、持ち家(マンション)でこれから先にかかる月々のコストは、約2万1567円になります。

この2つの数字は、購入時の資金や住宅ローンの残債を含みません。すでに完済している方であれば、これから先の家計に効いてくるのは、この維持費の部分だけです。

4. 編集部試算:持ち家と賃貸、65歳以降のコスト差を計算する

賃貸の家賃全国平均(5万9656円)と、持ち家の修繕積立金・固定資産税の合計(2万1567円)の差額を計算します。

4.1 【65歳以降の持ち家と賃貸のコスト差】

持ち家と賃貸のコスト差はどのくらい?1/1

【65歳以降の持ち家と賃貸のコスト差】

出所:国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査報告書」2025年6月公表などを基にLIMO編集部作成

※編集部試算:65歳以降の持ち家(マンション)と賃貸のコスト差×平均余命(前提=賃貸は総務省「住宅・土地統計調査」の民営借家全国平均家賃、持ち家は国交省ガイドラインの修繕積立金目安と仮の評価額による固定資産税試算の合計。年数は厚労省「令和7年簡易生命表」の65歳の平均余命。物価変動、介護・入院などの一時的支出は含まない)

男性の場合(想定期間:19.68年)

  • 月のコスト差(持ち家が軽い分):3万8089円
  • 老後全体での差額の目安:約900万円

女性の場合(想定期間:24.52年)

  • 月のコスト差(持ち家が軽い分):3万8089円
  • 老後全体での差額の目安:約1121万円

5. 【執筆者コメント】

この試算は、持ち家(マンション)と賃貸を同じような住まいの広さで比べた場合の目安です。持ち家が戸建てであれば修繕費の目安そのものが公的には存在せず、実際の工事費によって数字は変わります。

それでも、65歳以降だけで見ると持ち家の方がコストは軽くなりやすいという方向性は変わりません。ただし、これは「持ち家の方が優れている」という結論ではなく、住宅ローンを完済した後の維持費だけを比べた結果です。

ご自身の状況に当てはめる際は、固定資産税の納税通知書と、賃貸であれば実際の家賃を使って、この試算を置き換えてみることをおすすめします。マンションの場合は管理組合が保管する長期修繕計画も確認すると、より実態に近い数字になります。

戸建ての場合は、修繕費の目安となる公的な資料がないため、この試算をそのまま当てはめることはできません。専門家に点検を依頼し、おおまかな修繕の周期と費用を把握したうえで、賃貸との比較をやり直す必要があります。

6. 住宅ローンが老後まで残っている場合の選択肢

ここまでの比較は、住宅ローンを完済している前提でした。ローンが老後まで残っている場合は、別の選択肢があります。

6.1 60歳以上向けの住宅ローン制度

住宅金融支援機構は、民間金融機関と提携し、満60歳以上を対象とした「リ・バース60」という制度を提供しています。満50歳以上満60歳未満でも利用できますが、その場合は融資限度額が異なります。

この制度は、毎月の支払いを利息のみとし、借入人が亡くなったときに住宅の売却などで一括返済する仕組みが特徴です。

7. 【執筆者コメント】

住宅ローンが老後まで残っている状態は、決して珍しいことではありません。とりわけ40代以降で住宅を購入した場合、完済時期が70代にかかることもあります。

実務の罠は、「ローンが残っているから持ち家は損」と短絡的に考えてしまうことです。制度の利用条件や金利、対象となる住宅の種類は取扱金融機関によって異なるため、個別の判断は住宅金融支援機構や取扱金融機関の窓口に確認することが必要です。

老後資金の計画を立てる際は、まず現在のローンの残債と完済予定年齢を確認し、それを踏まえて選択肢を検討することをおすすめします。

「リ・バース60」のような制度を使わない場合でも、返済期間の見直しや借り換えなど、他の選択肢が残っていることもあります。まずは今借り入れている金融機関に、残債と今後の返済計画を確認することが最初の一歩になります。

8. まとめ

  • 「持ち家と賃貸の損益分岐点は40〜50年」という試算は、30代・40代で住宅を購入した時点からの生涯コストを計算したものです。
  • 65歳以降だけで比べると、編集部試算では持ち家(マンション)の方が月3万8089円、老後全体で男性約900万円・女性約1121万円コストが軽くなります。
  • 住宅ローンが老後まで残っている場合は、60歳以上向けの住宅ローン制度という選択肢があります。

「損益分岐点」という言葉は、これから住宅を選ぶ人には有効な指標ですが、すでに65歳を迎えた方の老後資金には当てはめにくい面があります。

大切なのは過去の選択を計算し直すことではなく、今の自分の家計に、これから先いくらかかるのかを具体的な数字で確認することです。

9. よくある質問

9.1 Q. 持ち家と賃貸、老後資金としてはどちらが得ですか

A. 一律にはお答えできませんが、編集部試算では65歳以降の維持費だけを比べると、持ち家(マンション)の方が月3万8089円軽くなります。ただしこれは住宅ローンを完済している前提の試算です。

9.2 Q. 住宅ローンが老後まで残っている場合はどうすればいいですか

A. 住宅金融支援機構と提携する民間金融機関が、満60歳以上(一部満50歳以上)を対象に「リ・バース60」という住宅ローン制度を提供しています。利用条件は金融機関ごとに異なるため、窓口にご確認ください。

参考資料

齊藤 慧