2. 60代に多い「年金だけではローンの返済が難しい」への不安。ファイナンシャルアドバイザー・川勝隆登が伝えたいこと

50代になり、ねんきん定期便の受取見込額を見て「これだけしかもらえないのか」と絶句してしまうという方は少なくありません。老後の生活費が足りるのか、今の生活水準を維持できるのかといった不安は、実際の相談の場でもよく聞かれます。特に、定年後も住宅ローンの返済が続くケースでは、公的年金だけで家計を回すことができるのかと、深刻に悩まれるという声をよくいただきます。

2.1 60代に多いお悩み相談は「年金だけではローンの返済が難しい」

60代のお客様
60代の会社員です。定年後の収支に強い不安を抱えています。数千万円規模の住宅ローンが残っていて、「年金だけではローンの返済が難しい」というのが、最初の率直な悩みでした。手元には数百万円規模の預貯金があるものの、それを取り崩すことには抵抗感があります。また、長年積み立ててきた企業型DC(確定拠出年金)の資産が数百万円規模に増加していますが、定年を目前に控えて、いつどのように利益を確定させればよいのか迷っています。老後の資金不足を補うために手元の資産をどう活用すべきか、そして重くのしかかる住宅ローンとどう向き合っていくべきか、具体的な道筋が見えずに立ち止まっています。

2.2 【ファイナンシャルアドバイザー・川勝隆登が回答】資産を守りながらローンと向き合う

川勝 隆登
「年金だけではローンの返済が難しい」と思い悩む前に、手元の運用資産の守りを固め、住宅ローンと手元資金のバランスを整理し、状況の変化に応じて柔軟に方針を見直していくことが、安心できる定年後への出発点になります。特にここ数年は株式が大きく上昇しており、利益が大きくなっている方が多いかと思います。増加した資産を減らさず、計画的に生活や住宅ローンの返済に充てていくために、運用資産の守りを固めておきたいところです。また、住宅ローンの返済にあたり、金利水準と運用商品の利回りを照らし合わせて、一括返済をすべきかどうかなどを考えていくことも重要です。

2.3 ポイント1:手元の運用資産の守りを固める

まず見直したいのは、手元の運用資産の守りを固めることです。この方は、「企業型DCの利益を一部確定させ、その資金を値動きの穏やかな債券などに移していくことは、これからの運用でとても重要だ」と気づいたように、増えた資産を確実に確保し、安定運用へシフトする方針を立てました。長く運用を続けていると、利益が出ている状態をそのまま維持したくなりますが、市場の変動によって資産が目減りするリスクも伴います。定年が近づく時期には、リスクを取って資産を大きく増やすことよりも、これまで築いた資産を減らさない工夫が若い頃以上に大切になります。

2.4 ポイント2:住宅ローンと手元資金のバランスを整理する

そのうえで、住宅ローンと手元資金のバランスを整理することが重要です。当初は、まとまった資金を使ってローンを一括返済することも選択肢として考えていました。しかし相談を通して、手元に資金を残して運用で増やし続ける方が効率的であるという理解に至りました。また、団体信用生命保険(団信)の保障が続いていることのメリットも再認識されました。ローン返済を急ぐあまり手元の流動資金を枯渇させてしまうリスクは、多くの方が陥りがちな落とし穴であり、いざという時のための手元資金と負債のバランスを保つ視点が欠かせません。

2.5 ポイント3:状況の変化に応じて柔軟に方針を見直す

さらに、状況の変化に応じて柔軟に方針を見直すことも必要です。その後、この方は住宅ローンの金利上昇に関する通知を受け取りました。これを受けて、「金利上昇のリスクに備えるため、今は資産運用よりもローンの元金返済を優先させたい」と判断されました。当初は運用を優先する方針でしたが、金利負担が増加する現実的なリスクを前に、堅実な選択へと舵を切ったのです。経済環境や家計の状況が変われば、最適な選択肢も変わります。一度決めた方針に固執せず、その時々の状況に合わせて柔軟に優先順位を組み替えていく姿勢が、長期的な家計管理ではより大切な視点になります。

老後の年金不足やローン返済に不安を感じたとき、「とにかく節約しなければ」「投資で大きく増やさなければ」と決めつける前に、まずは手元の資産の守りを固め、負債と運用のバランスを整理し、状況の変化に柔軟に対応していくことが、安心できる老後への出発点になります。

参考資料

川勝 隆登