医療費が高かった年、確定申告をすれば税金が戻ってくると考える人は多いはずです。
ところが、年金受給者の場合、この「還付狙いの確定申告」がかえって家計を圧迫することがあります。
老後資金づくりのために株式や投資信託を運用するシニア世代が増えるなか、医療費控除やふるさと納税を申告する際、特定口座(源泉徴収あり)の取引まで一緒に申告してしまうと…結果として、数万円の税金が戻ってきても、翌年の社会保険料が数十万円単位で増えてしまう。そうした「逆転現象」が起こり得る仕組みを整理します。
この記事では、一部以下の記事を引用しています。
- 年金の所得税がゼロなら、医療費控除の還付金も基本的にゼロ
- 株の利益を申告すると、住民税だけでなく社会保険料にも影響が及ぶ
- 特定口座(源泉徴収あり)は「申告しない」が原則、NISA活用が最も安全
1. なぜ「医療費控除で税金を取り戻す」つもりが逆効果になるのか
1.1 年金受給者は、そもそも所得税がゼロというケースが多い
年金収入には「公的年金等控除」や基礎控除などが適用されます。
この結果、シニア世代は年金収入にかかる所得税がもともと0円、あるいはごくわずかというケースが少なくありません。
元々の所得税が0円であれば、医療費控除の対象になる金額がいくら大きくても、そこから還付される税金は0円です。
そこで、特定口座(源泉徴収あり)で自動的に差し引かれていた約20%の税金を取り戻すために、株の利益をあえて確定申告に加えて還付金を発生させる、という方法がとられることがあります。
1.2 令和6年度からの「課税方式統一」が転換点になった
ここに大きな落とし穴があります。
令和4年度税制改正により、上場株式等の配当・譲渡益にかかる課税方式は、令和6年度分(令和5年分の所得)の個人住民税から、所得税と同じ方式に統一されることになりました。
以前は、所得税では申告して還付を受けつつ、住民税では申告不要を選ぶ、という使い分けが可能でした。
この使い分けができなくなったことで、所得税の確定申告書に株の利益を記載すると、住民税の計算にも同じ内容がそのまま反映されるようになっています。
住民税の所得が増えれば、それを基準にしている国民健康保険料・介護保険料・後期高齢者医療保険料も連動して上がります。
取り戻した所得税が数万円であっても、翌年以降の保険料や医療費の負担が数十万円増えてしまえば、本末転倒です。
所得税と住民税は別の税金であり、さらに保険料は住民税の所得を基準に決まる、という3段階の構造を理解しておく必要があります。
還付金だけに注目せず、「この申告によって、住民税の所得はどう変わるか」を必ず一度確認してから行動することをおすすめします。
2. 確定申告をすると、保険料や医療費負担にこんな影響が出る
特定口座の利益を確定申告に含めると、次のような負担増が連動して起こる可能性があります。
- 国民健康保険料・介護保険料・後期高齢者医療保険料の増額
- 75歳以上の医療費窓口負担が引き上げられる可能性(1割から2割、あるいは3割へ)
- 住民税非課税世帯の対象から外れる(各種給付金や減免制度の対象外になる)
医療費の窓口負担については、75歳以上の後期高齢者医療制度において、一定以上の所得(課税所得が28万円以上、かつ「年金収入+その他の合計所得金額」が単身世帯で200万円以上、複数世帯で合計320万円以上など)に該当すると、窓口負担割合が従来の1割から「2割」へ引き上げられます。
株の利益を申告して住民税の所得(合計所得金額など)が増えることで、この2割負担(または現役並み所得者の3割負担)の判定基準に達してしまう可能性がある点は、非常に見落とされがちです。
また、住民税非課税世帯を対象とした給付金や介護保険料の軽減措置なども、所得が増えることで対象外になる場合があります。
※ただし、株式等の取引で損失(赤字)が出ており、他の特定口座の配当と「損益通算」をしたい場合や、「繰越控除」の適用を受けたい場合は、確定申告が必要になります。その場合も、得られる税務上のメリットと、社会保険料や窓口負担への影響を比較して慎重に判断しましょう。
3. 年金受給者が損をしないための申告パターン比較
では、どのように対応するのが安全でしょうか。3つのパターンで比較します。
特定口座(源泉徴収あり)を選んでいる場合、証券会社が税金の納付をすでに完結させているため、確定申告書に株の取引を記載しなければ、その利益は所得として自治体に把握されません。
医療費控除やふるさと納税だけを申告し、株の取引には触れないという選択が、まず基本になります。
さらに一歩進めるなら、そもそも運用資金をNISA枠に置いておくという方法もあります。
NISA口座内で得た利益は非課税であるため、確定申告自体が不要です。
還付金を積極的に狙う必要がなくなる分、保険料への影響を心配する必要もなくなります。
特定口座(源泉徴収あり)は、そもそも申告不要で完結させることを想定してつくられた制度です。医療費控除やふるさと納税を目的とした申告であれば、株式の取引欄には手を付けない、という原則を徹底することが、一番シンプルな防衛策になります。



