年金を受け取る暮らしに入ると、収入を自分の裁量で増やすことが難しくなります。一方で、食料品や光熱費の値上がりは続いています。
2026年度の年金額は改定され、通知に記載された金額は前年より増えていました。それでも家計が楽になった実感がないという方も多いでしょう。
統計を見ると、高齢者の暮らし向きは改善しています。生活が苦しいと答えた高齢者世帯の割合は2年続けて減り、平均所得も前年から6.8%伸びました。ただし、その伸びの中身を分けていくと、恩恵が届いている世帯とそうでない世帯があることがわかります。
ここでは、高齢者世帯の所得が何によって増えたのかを分解したうえで、65歳以上・無職夫婦世帯の家計収支を額面ではなく手取りベースで確認します。そのうえで、いまの貯蓄がどのくらいの期間もつのかを試算していきます。
※本記事で紹介する数値は、2026年7月時点で公表されている資料に基づいています。統計は今後更新される場合があります。
1. この記事の3つのポイント
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平均所得は増えるも年金メインの世帯は手取りが減った実態 -
物価高による支出増で毎月の不足額が4万2434円に拡大 -
貯蓄中央値1777万円でも毎月の赤字増で資産寿命は短縮
2. 高齢者世帯の所得は6.8%増えた。ただし押し上げたのは働いて得た収入と財産所得だった
2.1 所得の伸びを支えたのは、働いて得た収入と財産所得だった
厚生労働省の国民生活基礎調査の概況によると、高齢者世帯の1世帯当たり平均所得は、2023年が314万8000円、2024年が336万1000円で、6.8%増えました。
生活が「苦しい」と答えた高齢者世帯の割合も、2023年調査の59.0%から2025年調査の52.1%へ、2年で6.9ポイント下がっています。
そこで、増えた所得の中身を種類別に分けてみます。
2.2 高齢者世帯の所得の内訳(2023年 → 2024年)
※同調査の所得データは前年の実績を対象としています。そのため、2024年調査の数値は「2023年の所得」、2025年調査の数値は「2024年の所得」となります。
- 総所得:314万8000円 → 336万1000円(+21万3000円)
- 働いて得た収入:79万7000円 → 87万1000円(+9.3%)
- 公的年金・恩給:200万円 → 205万9000円(+3.0%)
- 財産所得:14万4000円 → 19万4000円(+34.7%)
- 企業年金・個人年金や仕送りなど:18万9000円 → 21万9000円(+15.9%)
- 年金以外の社会保障給付金:1万8000円 → 1万7000円(△5.6%)
※「財産所得」とは、土地や家屋を貸して得た収入と、預貯金や株式などから生じた利子や配当から、それぞれ必要経費を差し引いた金額をいいます。
※金額はそれぞれ端数を処理しているため、内訳の合計は総所得と一致しません。伸び率は公表された金額から算出しました。
伸び率でみると、財産所得が34.7%、働いて得た収入が9.3%伸びた一方で、公的年金・恩給は3.0%にとどまりました。増えた21万3000円に対する割合でも、財産所得や企業年金などが約38%、働いて得た収入が約35%を占め、公的年金・恩給は約28%です。所得に占める公的年金・恩給の割合も63.5%から61.3%へ下がっており、年金の伸びは全体に追いついていません。
働いて収入を得る高齢者は、実際に増えています。総務省統計局によると、2024年の65歳以上の就業者数は930万人で21年連続の増加、就業率は25.7%と過去最高でした。65〜69歳に限れば53.6%と、半数以上が働いています。
3. 収入の9割を年金が占める夫婦世帯では、手取りが918円減っている
一方、65歳以上の夫婦のみの無職世帯を並べると、様子が異なります。この世帯は実収入の約9割を公的年金などの社会保障給付が占めており、働いて得た収入や財産所得が伸びても、その影響を受けにくい構成になっています。
3.1 1カ月の家計収支(2024年平均 → 2025年平均)
- 実収入:25万2818円 → 25万4395円(+1577円、+0.6%)
- 非消費支出:3万0356円 → 3万2850円(+2494円)
- 可処分所得:22万2462円 → 22万1544円(△918円)
- 消費支出:25万6521円 → 26万3979円(+7458円)
- 毎月の不足額:3万4058円 → 4万2434円(8376円の拡大)
実収入の伸びは0.6%にとどまり、高齢者世帯全体の6.8%とは大きな差があります。さらに税金や社会保険料などの非消費支出が2494円増えたため、手元に残る可処分所得は918円減りました。額面の収入は増えているにもかかわらず、実際に使えるお金は減っています。
毎月の不足額が8376円拡大した内訳は、消費支出の増加が7458円(約89%)、可処分所得の減少が918円(約11%)です。不足額が広がった主な原因は、物価の上昇による支出の増加といえます。ただし手取りが918円減ったぶんも、そのまま不足額に上乗せされています。
高齢者世帯全体の所得を押し上げたのは、働いて得た収入と財産所得でした。収入の大半を年金に頼る世帯には、その伸びが十分に及んでいません。統計上の改善と、年金を中心に暮らす世帯の実感が一致しない理由は、ここにあります。
4. 高齢者世帯の所得は平均336万1000円、中央値では273万円
前章で見た平均所得336万1000円は、高齢者世帯全体をならした金額です。ここでは、その水準がどのように分かれているかを確認します。
4.1 高齢者世帯の1世帯当たり所得(2024年)
- 平均所得金額:336万1000円
- 所得の中央値:273万円
平均額は所得の高い世帯に引き上げられます。実態に近い中央値は273万円で、月あたりにすると約22万7000円です。平均と中央値の差は63万1000円あります。
所得金額の階級別にみると、年間300万円未満の世帯が55.3%を占めています。2世帯に1世帯以上がこの水準にあたります。一方で700万円以上の世帯も7.2%あり、高齢者世帯のなかでも所得の差は小さくありません。
5. 65歳以上・無職夫婦世帯の月の収入は額面25万4395円、手取りは22万1544円。差額3万2850円は税金と社会保険料
次に、実際の1カ月の家計収支を確認します。総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」から、65歳以上の夫婦のみの無職世帯を見ていきます。
5.1 収入の内訳(2025年平均・月額)
- 実収入:25万4395円
- うち社会保障給付(主に公的年金):22万8614円(実収入の89.9%)
5.2 差し引かれるもの(2025年平均・月額)
- 非消費支出:3万2850円
- うち直接税:1万2547円
- うち社会保険料:2万0296円
5.3 手取りと支出(2025年平均・月額)
- 可処分所得:22万1544円
- 消費支出:26万3979円
- 毎月の不足額:4万2434円
65歳以上・無職夫婦世帯の平均貯蓄額や1カ月の生活費について、より詳しいデータはこちらの記事もご参考ください。
老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額・年金月額・1カ月の生活費をデータで見る
消費支出の26万3979円は、実際に使えるお金である可処分所得22万1544円を4万2434円上回っています。年金などの収入だけでは毎月の生活費をまかなえず、不足する分は貯蓄を取り崩して補うことになります。
6. 貯蓄の中央値は1777万円、300万円未満の世帯は14.9%
赤字を補う原資となる貯蓄について確認します。総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)」から、世帯主が65歳以上の二人以上の世帯を見ていきます。
6.1 世帯主が65歳以上・二人以上世帯の貯蓄現在高(2025年)
- 平均値:2564万円
- 中央値:1777万円(貯蓄が0円の世帯を除く)
平均値と中央値の間には787万円の開きがあります。なお、この中央値は貯蓄が0円の世帯を除いて集計されているため、実際の真ん中はこれより低くなります。
6.2 世帯主が65歳以上・二人以上世帯の貯蓄分布(2025年)
- 300万円未満:14.9%
- 300万円以上2500万円未満:48.9%
- 2500万円以上:36.3%(うち4000万円以上が21.1%)
2500万円以上の世帯が3分の1を超える一方で、300万円未満の世帯も14.9%あります。世帯によって状況が大きく異なることがわかります。
7. 貯蓄1777万円がもつ期間は約34.9年。赤字が月8376円増えたことで、1年前より8.6年短くなった
ここまでの数字を使って、貯蓄がどのくらいの期間もつのかを計算します。
毎月の不足額4万2434円を年間に換算すると、50万9208円です。この金額で貯蓄を割ると、おおよその年数が出ます。
以下は筆者試算です。今の不足額が今後も続くと仮定した単純計算であり、物価の変動、医療や介護の自己負担、住宅の修繕費などは含んでいません。
7.1 貯蓄額ごとの、いまのペースでもつ年数
- 100万円:約2.0年
- 300万円:約5.9年
- 1000万円:約19.6年
- 1777万円(中央値):約34.9年
- 2564万円(平均値):約50.3年
中央値である1777万円なら、いまのペースで約34.9年もつ計算です。年数だけを見れば、余裕のある水準といえます。
ただし、この年数は1年前より短くなっています。前年の不足額(月3万4058円)で同じ計算をすると、次のようになります。
- 前年のペース:約43.5年
- いまのペース:約34.9年
貯蓄額は1円も変わっていません。それでも赤字が月8376円増えたことで、もつ年数は8.6年短くなりました。
貯蓄が300万円未満の世帯であれば、いまのペースで約5.9年です。ここに医療費や住宅の修繕費が加われば、期間はさらに短くなります。
平均値や中央値は、全体の傾向を示す数字にすぎません。実際にもつ年数は、その世帯の貯蓄額と赤字額しだいで大きく変わります。
7.2 年金の「振込額」から、わが家の資産寿命を計算する
ここまで見てきたのは全国の平均です。年金額も生活費も世帯ごとに異なるため、判断の材料になるのは、ご自身の家計から出した年数になります。計算は3つの手順で済みます。
- 直近1年間の偶数月6回分の振込額を合計します。これが1年間の手取りです
- そこから1年間の支出を引きます。差額が年間の不足額です
- 貯蓄の総額を、その不足額で割ります。これがいまのペースでもつ年数です
基準にするのは、通知書に記載された年金額ではなく、実際に口座へ振り込まれた金額です。年金の振込額は年度の途中でも変わるため、1回分を6倍せず、6回分を合計する必要があります。年に1回は同じ方法で確認し、ご自身の年数を把握しておくとよいでしょう。





