6. 監修者コメント:「使えるお金」を正しく把握することが老後資金計画の第一歩

中本 智恵

銀行の窓口で年金のご相談を受けていた頃、「貯蓄がいくらあれば安心か」という質問を数え切れないほど受けてきました。ただ、実際に大切なのは貯蓄の総額そのものよりも、税金や社会保険料が引かれた後の「手取り」と、医療費の負担割合まで含めた「使えるお金」の見通しです。同じ2000万円の貯蓄でも、窓口負担が1割の世帯と3割の世帯では、実質的な余裕度はまったく違ってきます。

期高齢者医療制度の窓口負担割合が毎年8月に見直されることを知らず、急に負担が増えて驚かれる方も少なくありませんでした。負担割合が重くなりそうな年は取り崩しを抑え、軽い年は必要な支出に充てるといった具合に、医療費の見通しと資産の取り崩し計画をセットで考えることをおすすめします。

老後資金というと「増やす」ことに意識が向きがちですが、75歳以降は「守りながら、計画的に使う」段階に入ります。貯蓄額の平均だけで安心せず、ご自身の年金の手取り額、毎月の生活費、負担区分を一度整理してみることが、安心できる老後資金計画の第一歩になるはずです。ご家族と一緒に確認しておくと、いざというときにも慌てずに対応できるでしょう。

7. まとめ

75歳以上・二人以上の無職世帯では、毎月の家計が平均で約2万7000円の赤字となっており、年金収入だけで生活費をまかなうのは簡単ではない実態が見えてきました。

収入の柱となる年金は、夫婦合算でおおよそ21万円程度が目安となりますが、そこから税金や社会保険料が差し引かれるため、実際に使える手取り額はさらに少なくなります。

この赤字分を埋め合わせるのが、平均2392万円とされる金融資産です。ただし、これはあくまで平均額であり、世帯によって保有状況は大きく異なります。

さらに見過ごせないのが、後期高齢者医療制度による窓口負担割合の違いです。所得に応じて1割・2割・3割と区分が変わり、負担割合によっては医療費が数倍に膨らむ可能性もあります。

年金や貯蓄だけでなく、こうした「医療費の壁」も含めて資金計画を立てておくことが、75歳以降の家計を安定させるポイントといえるでしょう。

まずは自分たちの年金収入、毎月の支出、貯蓄残高を整理したうえで、自分がどの負担区分に該当するのかも確認し、医療・介護費に備える資金をどの程度確保できるか見直してみてはいかがでしょうか。

参考資料

加藤 聖人