75歳を境に医療費の負担割合が変わる可能性があることを正確に把握していない方は意外と多い印象です。

年金収入や貯蓄額だけでなく、医療費の負担がどう変化するかも、老後の家計を考えるうえで欠かせない視点といえます。

加藤 聖人
老後の資産計画というと「いくら貯めるか」にばかり目が向きがちです。実際には、税金や社会保険料、医療費の負担割合まで含めて考えないと、手元に残るお金の実像は見えてきません。

本記事では、75歳以上・二人以上世帯の家計収支や平均年金月額、金融資産の内訳を確認したうえで、後期高齢者医療制度の窓口負担割合、いわゆる「医療費の壁」についても詳しく見ていきましょう。

なお、75歳以上世帯の家計収支・年金・医療費負担割合に関する詳しい解説は下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【75歳以上 後期高齢シニア】夫婦ふたり暮らしの生活費、ひと月どれほど必要?《年金・貯蓄データを紹介》高額療養費制度はどこまで使える? 後期高齢者医療制度の《1割・2割・3割》負担割合のルールも解説
【75歳以上 後期高齢シニア】夫婦ふたり暮らしの生活費、ひと月どれほど必要?《年金・貯蓄データを紹介》高額療養費制度はどこまで使える? 後期高齢者医療制度の《1割・2割・3割》負担割合のルールも解説

1. この記事を読んだらわかる3つのポイント

  •  75歳以上・二人以上の無職世帯では、毎月平均約2万7000円の赤字が生じている
  •  金融資産は平均2392万円だが、その多くが預貯金に偏っている
  •  後期高齢者医療制度の窓口負担割合は所得に応じて1割・2割・3割に分かれる

2. 【75歳以上・二人以上世帯】年金と生活費の実態

まずは、75歳以上・二人以上世帯の家計収支が、実際にどのような構造になっているのか、そして収入の柱となる年金がどのくらいの水準なのかを確認していきましょう。

2.1 75歳以上の無職・二人以上世帯|毎月の家計収支は赤字?

総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から、二人以上の世帯のうち75歳以上・無職世帯の家計収支を見てみます。

  • 消費支出:24万8460円
  • 非消費支出:3万1563円
  • 実収入:25万2798円
  • 収支:ー2万7225円

75歳以上の無職世帯では、月平均で約2万7000円の赤字となっています。

また、70歳〜74歳でも約3万7000円の赤字となっており、高齢期の家計では収入だけで支出をまかなうことが難しい実態がうかがえます。

今後、平均寿命の延びに伴って老後期間が長くなると、日常生活費に加えて医療費や介護費などの負担が増える可能性も考えられるでしょう。こうした支出に備えるためには、一定の貯蓄を確保しておくことが重要です。

2.2 収入の中心となる年金月額

続いて、この赤字を補う原資となる、年金収入の実態を見ていきます。

高齢無職世帯の収入の中心となるのは、公的年金です。では、75歳以上の人は実際にどのくらいの年金を受け取っているのでしょうか。

厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、国民年金のみを受け取る場合と、国民年金+厚生年金を受け取る場合の平均月額を、年齢別に見てみましょう。

【厚生年金】

  • 75歳~79歳:15万1377円
  • 80歳~84歳:15万7689円
  • 85歳~89歳:16万5486円
  • 90歳以上:16万4027円

【国民年金】

  • 75歳~79歳:5万9346円
  • 80歳~84歳:5万8454円
  • 85歳~89歳:5万9066円
  • 90歳以上:5万5633円

例えば、夫が厚生年金、妻が国民年金を受け取る夫婦世帯の場合、75歳〜79歳の平均月額を合算すると約21万円です。

この金額は、老後の家計を考えるうえで一つの目安になりますが、そのまま自由に使えるわけではありません。

年金からは、所得税や住民税、介護保険料、後期高齢者医療保険料などが差し引かれます。

そのため、家計を考える際に重要なのは、額面の年金額ではなく、実際に口座へ振り込まれる手取り額です。

前章で確認した家計収支の赤字額(月約2万7000円)は、こうした天引き後の年金収入と生活費の差から生じています。

年金生活に入っても税金や社会保険料の負担は続くため、老後の収支を確認する際は、年金の支給額だけでなく、天引き後に使える金額にも目を向けておく必要があるでしょう。

加藤 聖人
年金額を確認するときは、額面だけでなく、そこから天引きされる税金・社会保険料まで意識しておくことが大切です。手取りベースでの資金計画を立てておくと、実際の生活費とのギャップに慌てずに済みます。

3. 【FPが解説】後期高齢の家計管理で意識するポイント

まず、老後の家計に関する悩みとして多いのが、「貯蓄をどのくらいのペースで取り崩していいかわからない」という点です。

前章で確認したように、平均的な75歳以上の無職世帯では、毎月の収支が赤字になっています。しかし、その赤字額を「想定内の生活費」として捉えられている方は、実はそれほど多くありません。

多くの方は、赤字そのものを「危機的な状況」と捉えてしまい、必要以上に支出を切り詰めてしまう傾向があります。

また、後期高齢者医療制度による窓口負担割合の変化(1割・2割・3割)についても、正確に理解していない方が少なくないという印象です。

年齢や年金額によって自動的に区分が決まる仕組みであるにもかかわらず、「自分が何割負担になるのか」を把握しないまま医療機関を受診しているケースも見受けられます。

こうした状況を踏まえると、75歳以降の家計管理では、次の3点を意識しておくとよいでしょう。

3.1 赤字額を「想定内の支出」として計画に組み込む

毎月数万円の赤字は、多くの世帯で共通して生じるものです。

過度に恐れるのではなく、何年分の貯蓄で補えるかをあらかじめ試算し、計画的に取り崩す視点を持つことが大切です。

3.2 医療費の負担割合を事前に確認しておく

窓口負担が1割か2割か3割かによって、医療費の年間負担は大きく変わります。

次章で詳しく解説しますが、自分がどの区分に該当するのかを把握しておくことで、急な出費にも慌てずに対応できます。

3.3 貯蓄の内訳を「使う資産」と「残す資産」に分けて考える

75歳以上の世帯では、貯蓄の多くを預貯金で保有する傾向があります。生活費や医療費に充てる資金と、将来的に相続や介護費用として残しておきたい資金を分けて管理すると、取り崩しの判断がしやすくなります。

老後の家計は、年金額や貯蓄額といった「数字」だけでなく、それをどう使い、どう備えるかという「計画」を立てることが大切です。

次章では、実際の貯蓄額の実態について、データをもとに確認していきましょう。

加藤 聖人
赤字を「想定内の支出」として捉え直せるかどうかで、心理的な余裕は大きく変わります。投資商品の提案をしていた頃も、漠然とした不安を抱えたまま資産を動かせない方が多く、まずは数字で見える化することが、次の一歩につながると感じていました。

4. 【75歳以上・二人以上世帯】貯蓄はどのくらい?金融資産の平均・内訳

ここでは、実際に75歳以上の世帯がどのくらいの金融資産を保有しているのか、データで確認していきましょう。

総務省「家計調査 家計収支編 2025年〔二人以上の世帯〕(8-10表)」によると、75歳以上・無職世帯の金融資産保有額とその内訳は以下のようになっています。

  • 貯蓄:2392万円(内 金融機関2383万円)

内訳(金融機関分)

  • 通貨性預貯金:763万円
  • 定期性預貯金:775万円
  • 生命保険など:396万円
  • 有価証券:449万円
    ↳貸付信託・金銭信託:10万円
    ↳株式:223万円
    ↳債券:45万円
    ↳投資信託:171万円

金融機関分の内訳3/4

金融機関分の内訳

出所:総務省「家計調査 家計収支編 2025年〔二人以上の世帯〕(8-10表)」をもとに筆者作成

75歳以上・二人以上の無職世帯における貯蓄額は、平均で2392万円です。このうち、金融機関に預けられている分は2383万円となっています。

内訳を見ると、預貯金だけで合計1538万円となっており、金融資産の多くを安全性の高い預貯金で保有していることがわかります。一方で、有価証券も449万円保有されています。

75歳以上になると、資産を大きく増やすことよりも、生活費や医療・介護費に備えながら、必要に応じて取り崩していく視点が重要になります。

そのため、預貯金を中心に一定の流動性を確保しつつ、一部を有価証券で保有している世帯もあると考えられるでしょう。

ただし、ここで示されているのはあくまでも平均額です。一部の高額保有世帯が平均を押し上げている可能性もあるため、すべての75歳以上世帯が同じ水準の貯蓄を持っているわけではありません。

前述した「使う資産」と「残す資産」を分けて考える視点に照らすと、預貯金部分は主に生活費や医療・介護費といった「使う資産」に、有価証券や生命保険の一部は「残す資産」として位置づけている世帯もあるでしょう。

老後の家計を考える際は、平均額だけで安心するのではなく、自分たちの年金収入、毎月の生活費、医療・介護費への備えをあわせて確認しておきましょう。

加藤 聖人
貯蓄額の平均が大きく見えても、その多くが預貯金に偏っている点は気になるところです。生活防衛資金として預貯金を厚めに持つのは自然なことですが、将来のインフレによる目減りも見据え、一部を有価証券などに分散しておく視点も持っておくとよいでしょう。

5. 知っておくべき「医療費の壁」後期高齢者医療制度の窓口負担割合

ここまで、年金収入や貯蓄の実態を見てきましたが、老後資金を考えるうえでは、医療費への備えも不可欠です。

特に75歳以上になると、後期高齢者医療制度の対象となり、所得に応じて窓口負担割合が変わります。

いわゆる「医療費の壁」について、詳しく確認していきましょう。

後期高齢者医療制度について4/4

後期高齢者医療制度について

出所:厚生労働省「医療費の一部負担(自己負担)割合について」

5.1 現役並み所得者:3割

窓口負担割合が3割になるのは、同じ世帯の被保険者の中に課税所得が145万円以上の方がいる場合です。

上記に加えて、以下の収入等の要件を満たす人が対象となります。

  • 世帯内に被保険者が1人の場合:被保険者の収入金額の合計が383万円以上
  • 世帯内に被保険者が2人以上の場合:被保険者全員の収入金額の合計が520万円以上

5.2 一定以上所得のある人:2割

続いて、2割負担となるのは次の①と②の両方に該当する場合です。

①同じ世帯の被保険者の中に課税所得が28万円以上の方がいる。

②同じ世帯の被保険者の「年金収入」+「その他の合計所得金額」の合計額が以下に該当する。

  • 1人の場合は200万円以上
  • 2人以上の場合は合計320万円以上

5.3 一般所得者等:1割

上記の3割・2割に該当しない、以下のような世帯は1割負担となります。

  • 課税所得28万円未満
  • 世帯全員が住民税非課税
  • 課税所得が28万円以上あっても、収入基準を満たさず2割負担とならない方

この負担割合の違いは、老後の家計に与える影響が意外と大きいポイントです。

たとえば、同じ入院・治療を受けた場合でも、1割負担と3割負担では自己負担額が単純計算で3倍変わります。

先述した年金収入の水準を踏まえると、突発的な医療費の増加は、月々の家計収支をさらに圧迫する要因になりかねません。

また、窓口負担割合は毎年8月に見直しが行われ、前年の所得状況によって変動する点にも注意が必要です。

「去年は1割だったから今年も1割」とは限らないため、更新時期には自分の負担区分を確認しておく習慣をつけておくとよいでしょう。

「世帯全員が住民税非課税」であれば窓口負担が1割になりますが、住民税非課税世帯には他にも複数の優遇制度があります。あわせてこちらの記事もご参考ください。
「住民税非課税世帯」を対象とした「優遇措置」8選 《年金・給与》年収いくらで該当するのか境界線も見ておこう 年金155万・給与110万が分かれ目?

加藤 聖人
窓口負担割合は毎年8月に見直されるという点は、資産運用の出口戦略にも関わってきます。負担が重くなる年は取り崩しペースを抑える、軽くなる年は積極的に使うなど、医療費の見通しと資産計画をあわせて考えておくと安心です。