「遺族年金など、まだ自分には早い話」と感じている方もいるかもしれません。
でも、銀行員として現場に立っていたとき、20代・30代・40代という働き盛りのパートナーを亡くされたご家族の手続きに、何度も立ち会いました。
若くしてパートナーを失うリスクは、決して高齢者だけの話ではありません。
だからこそ今、確認しておきたいのが2028年4月に施行される遺族厚生年金の改正です。
これまで「子どもが独立した後も、65歳まで月々受け取り続けられる」とされていた保障が、現役世代については最長5年間の有期給付へと変わります。
「万が一のときは国が守ってくれる」という前提で家計を組んでいると、後々に大きなギャップが生じる可能性があります。
本記事では、改正の内容を具体的な金額シミュレーションを交えながら整理します。
1. 【2028年4月施行】遺族厚生年金の見直しとは?
現行の遺族厚生年金は、大きく分けると次の流れで遺族を守る仕組みです。
- 子どもが18歳年度末を迎えるまでは、遺族基礎年金と合わせて手厚く支給
- 子どもが独立した後も、65歳まで中高齢寡婦加算などを含めて継続支給
これが2028年4月からは、「子育て中と老後は支える。ただし子どもが独立した後の現役期間は、原則5年で終了」という設計へと変わります。
子育てが終わった後の現役期間については、「自分の力で働いて収入を得てください」という国からのメッセージでもあります。
共働きが当たり前になった社会を前提に、自立を促す方向への転換と言えるでしょう。
2. 【シミュレーション】夫30歳・妻30歳・子2歳の家庭では、どう変わる?
会社員の夫(30歳)が亡くなったケースで、妻が受け取れる遺族年金の変化を時系列で見てみましょう。
条件:夫は平均月収35万円で8年間、厚生年金保険に加入。
2.1 子育て期(妻30歳〜46歳)
- 現行:月約12.3万円
- 改正後:月約12.7万円(月約3900円増)
子どもがいる期間の加算額が引き上げられ、改正後の方が受取額はむしろ増えます。
子育て世帯への支援を手厚くする方向性は継続されます。
2.2 子離れ後の現役期(妻47歳〜64歳)←最大の変更点
- 現行:65歳まで月約8.7万円(遺族厚生年金+中高齢寡婦加算)を受け続けられる
- 改正後:最初の5年間は月約4.7万円、52歳以降は原則「0円」
ここが今回の改正における最大の注意点です。
現行では子どもが独立した後も65歳まで毎月約8.7万円が保障されていましたが、改正後はその保障が5年で終わります。
妻が52歳から65歳になるまでの13年間、これまであった遺族年金の収入が途絶えることになります。
2.3 老後(妻65歳以降)
- 現行:自分の老齢基礎年金+遺族厚生年金(自身の老齢厚生年金が高ければ遺族厚生年金は実質消滅)
- 改正後:自分の年金に加え、夫の年金記録を分割した「死亡時分割」として月約7600円が上乗せされる
老後については、共働き世帯に有利な「死亡時分割制度」が新設されます。
亡くなった夫の年金記録が、妻自身の老後の年金に上乗せされる仕組みです。
※このシミュレーションは制度改正のイメージを具体化するためのモデルケースであり、任意の数値を用いた概算です。実際の受給額は加入期間や収入によって異なります。また今回の見直しは、現在の受給者や40代以上の方への影響に配慮し、2028年4月から20年かけて段階的に実施される設計となっています。
3. 改正で変わる4つのポイント
今回の改正で現行制度から大きく変わるポイントは、主に以下の4点です。
3.1 60歳未満は「5年間の有期給付」へ、男女差も解消
現行では「30歳未満の子なし妻」だけが5年限定でしたが、改正後は「60歳未満で子のいない現役世代」が男女ともに原則5年間の有期給付となります。低収入や障害がある場合は継続給付の救済措置があります。
男性については2028年4月から一斉に対象となり、これまで受け取れなかった20〜50代の男性も5年間の給付を受けられるようになります。女性の対象年齢の引き上げは、現在の受給者への配慮から2028年4月以降20年かけて段階的に実施されます。
3.2 所得制限(年収850万円未満)の撤廃
これまで年収850万円以上の世帯は遺族年金を受け取れませんでしたが、改正後は収入に関係なく受給できるようになります。高収入世帯にとっては拡充の方向です。
3.3 子ども加算の対象者拡大と加算額の引き上げ
子どもがいる場合の加算額が増額されます(現行:1人につき年額約23.5万円→改正後:年額約28.2万円)※2024年度の年金額で試算。
加算の対象となる年金の種類も広がり、老齢基礎年金や遺族厚生年金なども新たに対象に加わります。
この加算額の引き上げは、現在受給中の方も対象です。
3.4 ④「死亡時分割制度」の新設で老後の年金が合算可能に
共働き世帯でこれまで課題とされていたのが、「自分の老齢厚生年金」と「遺族厚生年金」のどちらか高い方しか受け取れない仕組みでした。
改正後は、亡くなったパートナーの年金記録を分割して自分の年金に上乗せできるようになります。
ただし、遺族基礎年金に適用される「みなし25年加入」の救済措置は死亡時分割には適用されません。
先ほどのケース(平均月収35万円・加入8年)では婚姻期間に基づく実記録を2分割した額が上乗せとなり、月額約7600円が目安です。
若くしてパートナーを亡くした場合、婚姻期間が短いほど上乗せ額は小さくなる点は念頭に置いておきましょう。
4. 影響を「受ける人」と「受けない人」を整理する
今回の見直しによって、影響を受けるのはどういう人なのかを確認していきましょう。
4.1 給付が縮小する影響を受ける人
- 2028年度時点で40歳未満の女性:子どもが18歳を過ぎた後、65歳までの遺族年金が終身給付から5年間の有期給付に短縮されます。5年間の支給額は現行より約1.3倍に増えますが、その後は原則給付なし。収入状況によっては継続給付の対象となる場合もあるため、条件を確認しておくことが大切です
4.2 新たに給付を受けられるようになる人
- 子のない20〜50代の男性:現行では55歳未満の夫は受給できませんでしたが、改正後は5年間の有期給付が受けられるようになります。これはネガティブな改正ではなく、これまでの男女差が解消される拡充です
4.3 今回の改正の影響を受けない人
- 2028年度時点で40歳以上の女性(20年かけた段階的引き上げのため、対象外となります)
- すでに遺族年金を受給している人
- 配偶者が亡くなった時点で60歳以上の人
なお、年齢に関係なく「子どもが18歳未満の期間」については子ども加算が増額されるため、子育て世帯はどの世代でも改正後の方が手厚くなります。
5. まとめ
2028年4月の遺族厚生年金の改正は、子育て世帯や男性への支援を拡充しながら、現役世代の中長期的な保障を縮小する方向性をもった改正です。
影響の大きさは年齢・性別・家族構成によって大きく異なります。
まず確認したいのは、「自分は影響を受ける側か、受けない側か」という点です。
40歳未満の女性や共働き世帯にとっては、子どもが独立した後の数十年間の収支設計を見直す必要が出てくるかもしれません。
公的年金でカバーできない部分については、生命保険の保障額や貯蓄で備えておくことが基本になります。「万が一のとき、国がどこまで守ってくれるか」を把握した上で、ご家族にとって必要な備えを一度整理してみてはいかがでしょうか。
5.1 参考:遺族厚生年金の平均受給額


