7月に入り、本格的な夏の暑さが続く時期となりました。冷房などの光熱費が膨らみやすいこの季節は、日々の生活費の変動を確認するとともに、将来の年金収入や保有資産のバランスを改めて見直す適期といえます。

老後の収入基盤を考える際、多くの方が老齢年金のみに注目しがちですが、国や雇用保険にはシニアの暮らしを金銭的にサポートする給付制度が数多く用意されています。

しかし、これらは受給要件を満たしていても「自ら申請しない限り支給されない」という明確なルールが敷かれています。まずは自身が対象となる制度を知り、確実にもらう権利を行使することが家計防衛の第一歩となります。

さらに、昨今の物価高(インフレ)においては、受け取ったお金を単に口座へ置いておくだけでは実質的な価値が目減りするリスクがあります。

本記事では、60代以上が見落としがちな5つの公的給付の仕組みを整理し、確保した資金を守り育てるための資産配分(預貯金・債券・株式の組み合わせ)の基本について客観的な視点から解説します。

齊藤 慧

本記事は、編集部が厚生労働省や日本年金機構などが公表する公式資料を確認の上、執筆・検証しています。

1. 60歳・65歳以上が対象になりやすい「公的給付5制度」

シニア世代が使える代表的な給付を、ひとつずつ見ていきます。要件や窓口はそれぞれ異なるため、自分が該当しそうな制度からチェックしてみてください。

1.1 再就職手当

再就職手当とは、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)の受給者が、給付日数を多く残して安定した職業に就いたときに受け取れる手当です。支給残日数が所定給付日数の3分の2以上なら「基本手当日額×支給残日数×70%」、3分の1以上なら「基本手当日額×支給残日数×60%」が支給されます。

再就職手当の額1/4

再就職手当の額

出所:厚生労働省「再就職手当のご案内」

定年後の再就職でも、受給手続き後の待期期間満了後に就職し、1年を超えて勤務する見込みがあるなどの条件を満たせば対象になります。

1.2 高年齢求職者給付金

高年齢求職者給付金とは、65歳以上の高年齢被保険者が離職し、失業の状態にある場合に受け取れる一時金です。受給には、離職日前1年間に被保険者期間が通算6か月以上あることなどが必要です。支給額は、被保険者であった期間が1年以上なら基本手当相当額の50日分、6か月以上1年未満なら30日分が一括で支給されます。

1.3 年金生活者支援給付金

所得の低い老齢基礎年金受給者などに、年金へ上乗せして支給される給付金です。老齢年金生活者支援給付金は、65歳以上で老齢基礎年金を受けていること、世帯全員が市町村民税非課税であること、前年の公的年金等収入とその他所得の合計が一定額以下であることなどが要件です。

年金生活者支援給付金3/4

年金生活者支援給付金

出所:厚生労働省「年金生活者支援給付金特設サイト」

新たに対象となる人には請求書が届くため、忘れずに手続きしましょう。

1.4 高額療養費制度

高額療養費制度とは、1カ月の医療費の自己負担に上限を設け、超えた分があとから払い戻される仕組みです。上限額は年齢や所得で変わり、70歳以上には外来だけの上限も設けられています。入院や手術で医療費がかさんでも、家計へのダメージを一定範囲に抑えられます。

1.5 加給年金

加給年金とは、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が65歳になった時点で、生計を維持する65歳未満の配偶者、または18歳到達年度末までの子・1級または2級の障害の状態にある20歳未満の子がいる場合に上乗せされる給付です。配偶者が対象の場合、令和8年4月以降は受給権者の生年月日に応じて年額27万9800円〜42万3700円が加算されます。

配偶者が65歳になると支給は終了し、配偶者の生年月日や厚生年金加入期間などの要件を満たす場合は、配偶者自身の老齢基礎年金に振替加算がつくことがあります。

2. 【資産配分の基本】預貯金・債券・株式の特徴を知って割合を決める

給付金制度は生活を支えてくれるものの、まずは自助努力により生活を考えるべきです。老後に向けて資産をどのように築くか、築いた資産をどのように使うかを考えることが重要です。

老齢期はリスクを取った運用が難しくなるため、各資産の特徴を理解したうえで配分を考える必要があります。

理由は、資産ごとに「安全性」と「増やす力」が大きく異なるからです。代表的な3つの資産を整理してみましょう。

2.1 預貯金

預貯金は、元本割れがなく、いつでも引き出せる安全性が強みです。一方で金利は低く、物価が上がる局面では実質的な価値が目減りします。

そのため、生活費の数年分など、すぐ使うお金の置き場所に向いています。

2.2 債券

債券とは、国や企業にお金を貸し、利息を受け取る金融商品です。株式より値動きが穏やかで、預貯金より高い利回りを期待できます。安全性と収益性のバランスを取る「中間的な資産」と位置づけられます。

2.3 株式

株式は、値動きが大きく元本割れのリスクもありますが、長期では高い成長が見込めます。インフレに強い点も特徴です。当面使う予定のない余裕資金で持つのが基本となります。

たとえば「すぐ使うお金は預貯金、当面使わないお金の一部を債券や株式へ」と色分けすれば、安全性を保ちながらインフレ対策も両立できます。

3. まとめにかえて

老齢年金以外にも、再就職手当や年金生活者支援給付金など、シニアが受け取れる公的給付は複数あります。共通するのは「申請しなければ受け取れない」という点です。

老後生活に突入したあとも、保有している資産を預貯金・債券・株式の特徴を踏まえて配分することで、より資産寿命を延ばせます。「もらう」と「守り育てる」の両面から、老後の家計を支えていきたいところです。

4. 【監修者のコメント】この記事の総括とこれからの実務上の注意点

齊藤 慧

本記事で紹介されている『公的給付の申請』と『資産配分の基本』は、老後のキャッシュフローを安定させるための重要な両輪です。起こりうるのが、役所からの案内をいつものお知らせと勘違いして給付金の手続きを逃してしまったり、手元の資金をすべて預貯金に置いたままインフレによる価値の目減りに直面したりするケースです。

日本の公的制度の多くは、ご自身でアクションを起こさない限り自動的に振り込まれることはありません。まずはご自身が対象になっていないか、一度立ち止まって確認する習慣をつけてください。

また、資産運用においては、極端なリスクを取る必要はありません。受け取った給付金や年金をベースに、手取りの範囲内に日々の生活費を堅実に収めること。その上で、余剰資金を預貯金・債券・株式などに分散させるなども、検討してみてはいかがでしょうか。

参考資料

柴田 充輝