親の介護や自分自身の老後を考える際、公的介護保険制度のサービスを利用したときの自己負担額は誰もが気になるポイントです。65歳以上は所得に応じて1〜3割の負担となりますが、近年は制度を維持するために「所得だけでなく預貯金などの資産」も考慮すべきかという議論が進んでいます。
この記事では、最高「3割負担」になる条件をわかりやすく整理したうえで、今なぜ預貯金の把握が議論されているのか、その背景を解説します。
1. 【公的介護保険】65歳以上「681万人」介護認定、40~64歳はどれくらい?
介護保険は、介護が必要になった人を社会全体で支えるための公的制度です。介護保険の加入者は、年齢によって「第1号被保険者」と「第2号被保険者」に分かれます。
どちらも介護保険に関係する制度の対象ですが、介護サービスを利用できる条件は同じではありません。
1.1 65歳以上と40~64歳では、介護サービスを利用できる条件が違う
介護保険の被保険者は、65歳以上の「第1号被保険者」と、40歳から64歳までの医療保険加入者である「第2号被保険者」に分かれます。
1.2 65歳以上(第1号被保険者):加入者は約3585万人
病気やケガの原因を問わず、日常生活にサポートが必要だと認められれば介護保険サービスを利用できます。
実際に認定を受けている人は681万人(全体の19.0%)にのぼり、さらに75歳以上に限定すると31.3%(610万人)と、およそ3人に1人が認定を受けているのが現状です。なお、保険料は原則として年金から天引きされます。
1.3 40歳〜64歳(第2号被保険者):加入者は約4188万人
医療保険に加入している人が対象です。ただし、40代〜60代前半の方は、要介護状態になれば誰でもサービスを使えるわけではありません。末期がんや関節リウマチなど、加齢に伴って生じる「特定疾病」が原因の場合に限られます。
そのため、実際に認定を受けている人は13万人(わずか0.3%)と非常に少ないのが特徴です。ちなみに、保険料は加入している医療保険の保険料と一緒に一括で徴収されます。
2. 【公的介護保険】65歳以上《3割》自己負担になるのはどんな人?40~64歳は原則1割負担
介護保険サービスを利用する場合、利用者はサービス費用の一部を自己負担します。基本的には1割負担ですが、65歳以上の第1号被保険者で一定以上の所得がある人は、2割または3割負担となります。
一方、40歳から64歳までの第2号被保険者は、所得にかかわらず1割負担です。そのため、2割負担や3割負担の判定が問題になるのは、主に65歳以上の人です。
65歳以上の自己負担割合は、本人の合計所得金額や、年金収入とその他の合計所得金額をもとに判定されます。単身世帯の場合の目安は、以下のとおりです。
- 1割負担:「合計所得金額160万円未満」かつ「年金収入+その他合計所得金額280万円未満」
- 2割負担:「合計所得金額160万円以上」かつ「年金収入+その他合計所得金額280万円以上」
- 3割負担(最高負担):「合計所得金額220万円以上」かつ「年金収入+その他合計所得金額340万円以上」
なお、夫婦世帯の場合は、年金収入とその他の合計所得金額の基準が変わります。2割負担は346万円以上、3割負担は463万円以上が目安です。
つまり、65歳以上で3割負担になるのは、所得が比較的高い人に限られます。
3. 【公的介護保険】所得だけでなはく「預貯金」の確認が議論される理由とは
介護保険制度では、サービスを利用したときの自己負担割合や、施設利用時の食費・居住費の軽減措置などについて、利用者の所得に応じた負担の仕組みが設けられています。
近年は、所得だけでなく、預貯金などの資産も含めて負担能力をどう見るかが議論されています。背景にあるのは、高齢化に伴う介護費用の増加と、現役世代を含めた社会保障負担の公平性です。
厚生労働省の資料によると、介護保険の総費用は制度創設時から大きく増加しており、今後も高齢化の進展により、さらに増えることが見込まれています。
そのため、必要な介護サービスを維持しながら、負担能力に応じた公平な負担をどう実現するかが課題となっています。
3.1 施設利用時の「補足給付」では、すでに預貯金等を確認している
介護保険で預貯金等の確認が行われている代表的な制度が「補足給付」です。
補足給付とは、介護保険施設やショートステイを利用する低所得の人について、食費や居住費の負担を軽減する仕組みです。
施設サービスを利用する場合、介護サービス費の自己負担とは別に、食費や居住費がかかります。これらの費用は原則として本人負担ですが、所得や資産が一定基準以下の人には負担軽減が行われます。
補足給付の対象となるには、原則として世帯全員が市町村民税非課税であることが必要です。さらに、預貯金等の資産額も確認されます。
3.2 2割負担の対象拡大とあわせて、預貯金等を考慮する案も議論
前述のとおり、介護保険では所得に応じて1割・2割・3割の自己負担割合が設定されています(65歳以上の場合)。現在は、一定以上の所得がある人が2割負担、さらに所得が高い人が3割負担となります。
今後の見直しでは、2割負担となる対象者の範囲をどうするかも論点の一つです。
ただし、介護サービスは医療と比べて利用期間が長くなりやすく、自己負担割合の引き上げは利用者の家計に大きく影響する可能性があります。
そのため、厚生労働省の資料では、利用者負担は原則として所得で判定しつつ、見直しに伴う配慮措置の選択肢として、限定的な範囲で預貯金等を勘案する考え方も示されています。
具体的には、所得基準だけで見ると2割負担の対象になり得る人でも、預貯金等が一定額未満であれば、負担割合を抑えるといった考え方が議論されています。
ただし、現時点では制度として決定しているわけではなく、今後の議論を確認する必要があるでしょう。
3.3 預貯金確認の課題は、自治体と金融機関の事務負担
預貯金等を負担判定に反映する場合、課題となるのが確認事務の負担です。
現在も補足給付では預貯金等の確認が行われていますが、自治体が金融機関に照会する手続きには手間がかかります。従来は書面による照会が中心で、自治体側にも金融機関側にも事務負担が生じていました。
こうした課題を踏まえ、政府は預貯金照会のオンライン化を進めています。デジタル庁の資料では、行政機関と金融機関の双方で預貯金等の照会・回答業務をデジタル化し、省力化や迅速化を図る方向性が示されています。
また、2026年5月27日には、厚生労働省が「介護保険制度における預貯金等の把握等に係る検討の場」を開催しました。
この検討の場では、補足給付における預貯金等の確認事務の実態を把握し、事務負担を軽減する具体的な方法を検討することが目的とされています。
4. まとめにかえて
介護保険サービスの自己負担割合は、年齢や所得によって異なります。
65歳以上で3割負担となるのは、本人の合計所得金額や年金収入などが一定以上ある人に限られます。介護サービスを利用する際は、自分の負担割合が何割になるのか、自治体から交付される負担割合証などで確認しておきましょう。
また、介護保険では、施設利用時の食費・居住費を軽減する補足給付において、すでに預貯金等の確認が行われています。
今後は、介護費用の増加や負担の公平性を背景に、所得だけでなく資産をどう考慮するかも議論されるでしょう。
ただし、預貯金等を負担判定に反映するには、自治体や金融機関の事務負担といった課題もあります。現時点で決まっていない内容もあるため、今後の制度見直しの議論を確認していきましょう。
参考資料
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」
- 厚生労働省「サービスにかかる利用料|介護保険の解説」
- 厚生労働省「持続可能性の確保」
- 厚生労働省「介護保険制度の見直しに関する意見」
- 厚生労働省「介護保険制度における預貯金等の把握等に係る検討の場」
- デジタル庁「預貯金照会のオンライン化の拡大について」
加藤 聖人


