4. ファウンドリの台頭と日本の現在地
一方で、パソコンやサーバーの頭脳となるCPU(中央演算処理装置)などの「設計」分野においては、インテルやAMD、アップルといったアメリカ企業が圧倒的なトップシェアを握っています。
この違いはどこから生まれるのでしょうか。
4.1 インテルのDNAを受け継ぐTSMCの強み
泉田氏は、かつて交流のあった元大手電機メーカーの経営幹部の言葉を引き合いに出し、アメリカ企業、特にインテルの半導体に対する思想の違いを解説します。
「インテルは半導体を稲作として考えてるんじゃなくて、工業生産物だとして考えてる」
日本企業が職人芸的な「すり合わせ」や「アート」のように半導体を作っていたのに対し、インテルは最初から科学的な「工業生産物」としてプロセスを構築し、複雑なCPUの製造において大成功を収めました。
インテルは設計から製造までを自社で一貫して行う「垂直統合型」のビジネスモデルを採用しています。
しかし、ここで面白い歴史の転換点が訪れます。現在、世界の製造を牛耳る台湾TSMCの創業者であるモリス・チャン氏は、実は元々インテルの副社長を務めていた人物なのです。
彼はインテルで培った工業生産物としての製造ノウハウを持ち出し、製造のみに特化する「ファウンドリ」という新しいビジネスモデルを立ち上げました。
泉田氏は、TSMCが単なる下請け工場ではなく、圧倒的な付加価値を持っている理由を次のように分析します。
「TSMCの付加価値って『ライブラリー』と言われていて、いろんなものに対応するために自分たちのものづくり引き出しがあって、『そう来たらこうね』みたいな感じで対応できるんですよ」
世界中の企業から持ち込まれる様々な設計図に対し、過去の膨大な製造データ(ライブラリー)を組み合わせて、確実に「形」にしてあげる。この製造における圧倒的な対応力こそが、TSMCが世界を牽引する理由なのです。
4.2 圧倒的シェアを持つアドバンテストの強靭な事業構造
このように、半導体業界はアメリカ企業が「設計」をリードし、TSMCやサムスンといったアジアの巨人が「製造」を担うというグローバルな分業体制が確立されています。
日本はかつて製造の主役でしたが、現在はその座を譲っています(次世代半導体製造を目指すラピダスなどの新たな挑戦は始まっていますが、道のりは険しいと泉田氏は指摘します)。
しかし、その巨大な製造エコシステムの「最後の砦」とも言える検査工程において、アドバンテストはSoCテスター市場で66%(CY2025実績、会社説明会資料)という圧倒的なグローバルシェアを握っています。
世界のトップ企業が熾烈な開発競争を繰り広げ、より複雑で高性能なチップを生み出せば生み出すほど、それを正確にテストするアドバンテストの装置が不可欠になります。
チップを作らない「裏方」でありながら、半導体市場全体の成長を確実に取り込むことができる。これこそが、アドバンテストが売上1兆円、営業利益約5,000億円という驚異的な業績を叩き出せる最大の理由なのです。
5. まとめ
今回の記事では、泉田良輔氏の解説をもとに、アドバンテストの事業構造と、同社が半導体業界で確固たる地位を築いている理由について深掘りしました。
単なる財務データの分析にとどまらず、「焼き物」や「稲作」といった独自の文化論から半導体産業の強さを紐解く泉田氏の解説は、複雑な業界構造を理解する上で非常に新鮮な視点を提供してくれます。
アドバンテストは、私たちが普段目にする製品のブランドではありませんが、世界のデジタル社会を根底で支える、日本が誇る最強の「裏方」企業と言えるでしょう。
動画内では、この他にもアドバンテストの今後のシェア拡大の可能性や、競合企業(米テラダイン)との関係性など、より実践的な投資の視点についても詳しく語られています。
プロの機関投資家がどのような視点で企業を分析しているのか、さらに深く知りたい方は、ぜひ「イズミダイズム」の動画本編をご覧ください。
## 参考資料
- アドバンテスト「2026年3月期 通期決算短信」
- アドバンテスト「2026年3月期 通期決算説明会資料」
- アドバンテスト「第83期 有価証券報告書」
- 経済産業省「半導体・デジタル産業戦略の今後の方向性」
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Youtubeチャンネル「イズミダイズム」
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日