3. 過去最大級の株主還元と「ROE9%」の攻防
企業が多額の現金を抱え込んでいると、投資家からは「もっと成長のための投資に使うか、株主に還元してほしい」というプレッシャーがかかります。
実際、しまむらも過去に投資ファンドから株主提案を受けた経緯があります。
3.1 ファンドの提案と巨額の自社株買い
その提案自体は否決されましたが、会社側も無策だったわけではありません。
直近の決算では、過去最大級となる約483億円の「自社株買い(企業が自らの利益を使って市場から自社の株式を買い戻すこと)」を実施しました。
さらに、年間配当も約150億円支払っており、配当と自社株買いを合わせた株主還元は非常に手厚いものとなっています。
3.2 なぜ還元しても株価は上がらないのか?
これほど手厚い株主還元を行い、株式分割まで実施しているにもかかわらず、なぜしまむらの株価は力強く上昇しないのでしょうか。その理由を解き明かす鍵が「ROE(自己資本利益率)」という指標です。
ROEとは、企業が株主から集めたお金(自己資本)を使って、どれだけ効率よく利益を稼いだかを示す指標です。しまむらのROEは、直近・前期ともに9%前後を維持しています。
【動画で解説】しまむら、店舗ビジネスで借金ゼロという異例の財務体質
現在、国や東京証券取引所は、日本企業に対して「最低でもROE 8%を目指すように」と要請しています。しまむらはこの8%という基準をクリアしています。
しかし、泉田氏はこの数字の「着地点」にプロならではの鋭い視点を向けます。
「国から『8%目指しましょう』って求められたら、この最低限怒られないギリギリのとこをついていくっていうので」
インタビュワーが「着地を綺麗にやっているのか」と邪推すると、泉田氏は株式市場のシビアな現実を次のように解説しました。
「株式市場って相対評価だから。8%目指しましょうっていうのは全然いいんだけど、それ以上できる会社がいっぱい出てくると、こちらの株は上がらないことになる」
投資家は常に複数の銘柄を比較して投資先を決めています。
しまむらが絶対的な基準である「ROE 8%」を超えていたとしても、市場にはROE 10%、15%を叩き出し、より効率的に利益を上げている企業が多数存在します。
自己資本比率が約9割もあるしまむらは、分母である純資産が大きすぎるため、どうしてもROEが低く出やすくなります。
「もっと還元や投資をしてROEを上げられる余力があるのに、最低限のラインに留まっている」と市場から見透かされてしまうと、相対評価の世界では資金が他社に流れてしまい、結果として株価が上がりにくくなるのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日