住民税の決定通知書や各種税金の納付書が届き、一方で夏のボーナス支給も近づく6月。お金の出入りを強く意識するこの時期に、改めてご自身の「家計の実情」を見つめ直す方も多いのではないでしょうか。
一般的に、40歳代・50歳代はキャリアの積み重ねによって収入水準が高まりやすい年代とされています。実際、統計上でも給与額は比較的上位に位置していますが、その一方で、日々の暮らしに余裕を感じにくいという声も少なくありません。
その大きな要因として挙げられるのが、高止まりを続ける「物価」の影響です。収入が増えていても、それ以上のスピードで生活コストが膨らんでいれば、ゆとりを実感するのは難しくなります。
実際に、総務省が発表した最新の消費者物価指数(CPI)の動きを見てみましょう。
◆消費者物価指数CPI:2026年(令和8年)4月分(※2026年5月発表)
- 総合指数:113.0(前年同月比 1.4%の上昇)
- 生鮮食品を除く総合指数:112.5(前年同月比 1.4%の上昇)
- 生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数:111.8(前年同月比 1.9%の上昇)
※2020年を100として算出 出所:総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)4月分」
2026年5月22日に総務省が公表したデータによると、総合指数は113.0となり、前年同月比で1.4%上昇しました。
さらに、生鮮食品を除いた指数も1.4%の上昇、生鮮食品とエネルギーの双方を除いた指数に至っては1.9%の伸びを示しています。
こうした物価の上昇傾向が続く中、「収入は増えているはずなのに、家計にゆとりが生まれない」と感じる背景が浮かび上がります。
また、金融資産の状況を見ると、「平均値」と「中央値」の開きが大きい点も見逃せません。一部の高額資産世帯が平均を押し上げているため、多くの家庭のリアルな実態とは乖離が生じています。
物価上昇という環境変化の中で、働き盛り世代の家計はどのように変化しているのか。特に40歳代・50歳代における貯蓄の動きは、今後の家計戦略を考えるうえで重要な手がかりとなりそうです。
1. 【家計全体】家計全体における資産増加の背景と運用益の寄与
2025年12月18日にJ-FLEC(金融経済教育推進機構)が発表した「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」によれば、二人以上世帯の金融資産残高は平均1940万円、中央値720万円となり、前年と比較して明確な増加が確認されました。
こうした伸びの背景をみると、単なる収入増や貯蓄の積み上げではなく、「株式などの評価額の上昇」や「配当・利子収入」といった運用による成果が大きく寄与しており、家計資産の押し上げ要因として中心的な役割を担っています。
この傾向は、資産形成の手段として投資を取り入れる世帯が広がっている現状を示すものといえるでしょう。
実際に40歳代・50歳代に着目すると、
- 「定期的な収入の増加」と回答した割合は40歳代37.5%、50歳代26.6%
であるのに対し、
- 「株式や債券の価格上昇による評価益」は40歳代38.4%、50歳代34.1%、
- 「配当や金利収入」は40歳代33.0%、50歳代29.5%
ここからも運用益の存在感が際立っていることがわかります。こうした状況を踏まえ、次に働き盛り世代の貯蓄実態へ視点を移していきます。
2. 【40歳~50歳代世帯】働き盛りの貯蓄額と平均・中央値から見る格差
40歳代・50歳代の金融資産の状況について、同じくJ-FLECの「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとに詳しく見ていきます。
2.1 「40歳代・二人以上世帯」の金融資産保有額
40歳代・二人以上世帯
- 平均:1486万円
- 中央値:500万円
貯蓄額分布
- 金融資産非保有:18.8%
- 100万円未満:10.0%
- 100~200万円未満:6.2%
- 200~300万円未満:5.1%
- 300~400万円未満:4.4%
- 400~500万円未満:2.6%
- 500~700万円未満:7.3%
- 700~1000万円未満:6.1%
- 1000~1500万円未満:9.7%
- 1500~2000万円未満:6.5%
- 2000~3000万円未満:8.2%
- 3000万円以上:13.1%
- 無回答:2.1%
40歳代の二人以上世帯では、金融資産保有額(金融資産を持たない世帯を含む)は平均1486万円である一方、中央値は500万円にとどまっており、この乖離の大きさが特徴的です。
内訳を見ると、金融資産を保有していない世帯が18.8%存在する一方で、1000万円以上を保有する層も一定割合を占めており、一部の高額資産世帯が平均値を引き上げている構図がうかがえます。
こうした分布を踏まえると、極端な値の影響を受けにくい中央値500万円のほうが、実態に近い水準として捉えやすいといえるでしょう。
2.2 「50歳代・二人以上世帯」の金融資産保有額
50歳代・二人以上世帯
平均:1908万円
中央値:700万円
貯蓄額分布
- 金融資産非保有:18.2%
- 100万円未満:6.5%
- 100~200万円未満:6.4%
- 200~300万円未満:4.1%
- 300~400万円未満:3.5%
- 400~500万円未満:2.2%
- 500~700万円未満:6.7%
- 700~1000万円未満:7.7%
- 1000~1500万円未満:9.3%
- 1500~2000万円未満:6.1%
- 2000~3000万円未満:8.1%
- 3000万円以上:18.8%
- 無回答:2.2%
続いて50歳代(二人以上世帯)に目を向けると、平均は1908万円、中央値は700万円となっており、40歳代と同様に両者の差が大きい状態が続いています。
さらに特徴的なのは資産状況の二極化で、金融資産を持たない世帯が18.2%、加えて500万円未満の世帯が約4割(40.9%)に達する一方で、3000万円以上を保有する世帯も18.8%存在しています。
教育費などの負担が重なり、思うように資産を増やせない層が一定数いることも背景にあり、こうしたばらつきの大きさは無視できません。
このように、40歳代・50歳代では資産規模の差が顕著であり、将来を見据えた計画的な資産形成の必要性がより強く意識される状況となっています。
3. 【共働きか片働きか】世帯の収入構造が貯蓄格差を広げる
40歳代・50歳代の貯蓄状況を読み解くうえで見落とせないのが、「世帯の働き方」による違いです。とくに共働きか片働きかによって、収入の安定性や貯蓄の進み方には大きな差が生まれます。
総務省の調査によれば、日本ではすでに共働き世帯が主流となっており、夫婦世帯の約7割を占めています。
3.1 共働き世帯は「収入の厚み」と「分散」で有利に働く
共働き世帯の場合、世帯収入が2本柱となるため、単純に収入総額が高くなりやすいだけでなく、どちらかの収入が一時的に減少しても家計全体への影響を抑えやすいという特徴があります。
また、生活費を分担できることで可処分所得に余裕が生まれ、その一部を貯蓄や投資に回しやすくなります。こうした構造が、結果として資産形成のスピードを押し上げる要因となります。
3.2 片働き世帯は支出イベントの影響を受けやすい
一方で、片働き世帯では主な収入源が一つに限られるため、教育費や住宅ローンといった大きな支出が重なると、貯蓄に回せる余力が圧迫されやすくなります。
特に40歳代から50歳代は、子どもの進学や住宅関連の支出がピークを迎えやすい時期です。
収入が比較的高い水準にあっても、「思うように貯まらない」と感じる背景には、こうした支出構造の違いが影響していると考えられます。
3.3 同じ年代でも「世帯のかたち」で将来資産は変わる
今回のデータで見られる貯蓄額のばらつきには、こうした働き方や世帯構成の違いが少なからず影響しています。単純な平均値だけでは見えにくいものの、「どのような収入構造で家計を支えているか」によって、将来の資産形成の余地は大きく変わってきます。
そのため、自身の状況を把握する際には、他世帯との比較だけでなく、収入の内訳や家計の構造にも目を向けることが重要といえるでしょう。
4. 【65歳以上】リタイア夫婦世帯における生活費の実態
老後の生活設計を具体化するためには、感覚ではなく公的統計に基づいて家計の実像を捉えることが重要です。ここでは、総務省統計局の「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」をもとに、65歳以上の無職夫婦世帯の収支を確認します。
4.1 【65歳以上・無職夫婦世帯】毎月の収入額とその内訳
収入合計:25万4395円
- うち社会保障給付(主に年金):22万8614円
4.2 【65歳以上・無職夫婦世帯】毎月の支出額とその内訳
支出合計:29万6829円
- 消費支出:26万3979円
- 非消費支出:3万2850円
収入は月25万4395円で、その大部分にあたる22万8614円を年金などの社会保障給付が占めています。
一方で支出は29万6829円となり、うち26万3979円が日常生活にかかる消費支出、3万2850円が税や保険料などの非消費支出です。
この収支構造から、毎月約4万2000円の不足が生じており、その差額はこれまでの貯蓄を取り崩して補う必要があります。
このような状況から、現役時代にどれだけ資産を準備できるかが、老後の安定性を左右する大きな要素となることが分かります。
5. 人生100年時代における40歳〜50歳代の位置づけ
平均寿命の延伸により、日本は「人生100年時代」と呼ばれる時代に入りました。
40歳代・50歳代は収入面では最も充実しやすい時期である一方、長い人生を見据えると、まだ折り返し地点に位置している段階といえます。この長寿化の進展は、従来の家計設計や資産形成の考え方に大きな変化をもたらしています。
5.1 平均寿命の延びで「老後」は30年以上に
以下は厚生労働省が発表した平均寿命の統計です。
厚生労働省のデータによると、日本人の平均寿命は男性で80歳台前半、女性で80歳台後半に達しており、さらに90歳近くまで生きる人も増えています。
平均寿命はあくまで目安ですが、その水準が90年に近づくことで、それ以上生きる可能性を持つ人も多いと考えられます。
このため、65歳前後で引退した場合でも、その後の生活期間は20年から30年以上に及ぶ可能性があり、老後の期間が長期化している点は家計設計において重要なポイントとなります。
5.2 働き盛りの40〜50歳代は「資産形成の後半戦」
こうした背景から、40歳代・50歳代は将来に向けた資産形成を進めるうえで重要な位置にある世代といえます。
しかし、住宅ローンや教育費などの支出が集中する時期でもあり、貯蓄を思うように増やせないケースも少なくありません。
それでも、引退後の生活が長期にわたることを考えると、現役期のうちにどれだけ準備できるかが、その後の生活水準に大きく影響します。
6. 【まとめ】資産形成と取り崩しを見据えた家計戦略の考え方
40歳代・50歳代は、複数の支出が重なる負担の大きい時期である一方、将来に向けた資産形成を進める重要なタイミングでもあります。
他世帯との比較に左右されるのではなく、自身の家計状況を把握しながら、無理のない範囲で資産を積み上げていくことが求められます。
実際の意識調査では、60歳代の単身世帯の約半数が生活費に不安を感じており、二人以上世帯でも余裕のない状況が多数を占めています。
また、不安の要因としては物価上昇が最も多く挙げられ、医療費や介護費の増加への懸念も広がっています。
こうした将来不安に備えるためには、先取り貯蓄を習慣化するとともに、NISAやiDeCoなどを活用しながら、現役期から計画的に資産形成を進める姿勢が重要となるでしょう。
※投資には元本割れのリスクがあります。最終的な判断はご自身で行ってください。
参考資料
- 総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)4月分」
- 厚生労働省「高齢期と年金をめぐる状況」
- 厚生労働省「令和6年版 厚生労働白書」
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
マネー編集部貯蓄班