5. 株主還元か、事業投資か?ベンチャー企業のジレンマ
ANYCOLORの決算資料には、「キャピタルアロケーション(資金配分)」という方針が示されています。これは、会社が稼いだお金を何に使うかという計画です。
同社は、2027年4月期までに生み出される累計営業キャッシュフローと現預金を合わせた約560億円の原資のうち、半分以上にあたる「300億円以上」を株主還元(配当や自社株買い)に充てると発表しています。
一方で、設備投資や新規サービス開発への投資は30〜50億円程度にとどまっています。
「ROEが60%もあるなら、株主に還元するよりも事業に全額投資して伸ばした方が良いのではないか」というに対し、泉田氏はベンチャー企業が抱えるジレンマを次のように解説します。
「投資家は伸ばしてほしい。でもそんなこと言ったって、VTuberも決まった数しか増やせないし、商品も作って、何なら在庫があんまり増えちゃうと今回みたいな評価損になってしまう。コントロールしながら在庫も増やさないといけない」
投資家は高いリターンを求めて「もっと投資して成長してくれ」と要求します。しかし、VTuberの中には生身の人間(タレント)がおり、AIのように無限に増殖させることはできません。
事業を拡大できるスピードには物理的な限界があり、無理をすれば今回のような在庫リスクが顕在化してしまいます。
この「投資家の期待するスピード」と「実際の事業成長のスピード」のズレが、株価下落の一因になっていると泉田氏は分析します。
さらに、将来の成長率が15〜20%だと予測できてしまうと、投資家は「これ以上の大きなサプライズはない」と判断し、その期待値が一瞬で現在の株価に織り込まれてしまいます。
「一瞬で株価が織り込まれてグーッと株価が寝ちゃうと、期待できるのって配当しかないから。配当および自己株買いで株価が上がるっていうイベントしかなくなるから、キャピタルゲイン(値上がり益)そのものの魅力が失せるんだよ」
ベンチャー企業に投資する人々の多くは、将来の爆発的な成長による大きな株価上昇(キャピタルゲイン)を夢見ています。安定した配当を出す「大企業」のような振る舞いは、逆に成長期待の剥落と受け取られかねないのです。
6. ANYCOLORの今後の注目ポイント
泉田氏は、ANYCOLORが今後取るべき王道の戦略は「じっくりとVTuberを育てて、今の事業を伸ばすこと」だと結論づけます。
ROE60%という驚異的な収益力を持つビジネスモデルを見つけた以上、まずはそこに集中して着実に利益を積み重ねていくことが重要です。
一方で、株式市場からの評価を再び高めるためには、投資家の予想を超える「非連続な成長」のストーリーも必要になってきます。
「僕らみたいに予想するのが仕事な人間に対して不思議なことではあるんですけども、僕たちの予想できないものを見せてくれっていう、また要求もあるんですよ。」
グッズ販売中心の「小売業」としての在庫管理能力を磨きつつ、誰も予想していなかったような新しいビジネス展開を見せることができるか。それが、ANYCOLORの今後の株価を左右する最大の注目ポイントと言えそうです。
参考資料
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著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年2月21日