日々新しい企業が上場する株式市場。自分がよく知らないビジネスモデルの企業に出会ったとき、プロの投資家はどのように分析を進めるのでしょうか?

本記事では、資産運用会社でIPOを担当していた泉田氏が、VTuber大手「ANYCOLOR」の決算資料を題材に、企業分析の実践的な手順を分かりやすく解説します。

一見すると最先端のデジタルエンタメ企業に見える同社ですが、売上構成を紐解くと、実は利益率37%を誇る超高収益な「小売業」としての正体が浮かび上がります。

驚異のROE60%を叩き出す仕組みと、その裏に潜む「在庫リスク」、そして成長予測が容易ゆえに生じる株主還元と事業投資のジレンマまで、機関投資家ならではの鋭い視点でビジネスの深層に迫ります。

この記事のポイント

  • ANYCOLORの売上の約7割はグッズ販売(コマース)であり、実態は「小売業」に近い
  • 利益率37%の高収益モデルだが、グッズの売れ残りによる「在庫リスク」を抱えている
  • ROE60%超の超高収益事業ゆえに、投資家はさらなる事業投資を求めている
  • 将来の成長が「予測可能」になると、株式投資としての魅力が薄れるジレンマがある

1. 知らない企業を分析するプロの手順とは?

日々新しい企業が上場する株式市場において、投資家は自分がよく知らないビジネスモデルを持つ企業に出会うことが少なくありません。

今回の動画で「初めて見る企業をどのように分析していくのか」という疑問が投げかけられると、泉田氏は自身の経験を交えて語り始めました。

泉田氏は資産運用会社でIPO(新規公開株)を担当していた経験があり、ランダムに登場する様々な業種の企業を即座に分析し、投資に値するかを判断する業務を行っていました。

そんなプロが新しい企業を分析する際、最初に確認するのは「一体何の事業で稼いでいるのか」という最も基本的な部分です。

企業の決算説明会資料には、事業をいくつかの部門(セグメント)に分けた売上高が記載されています。泉田氏は、ANYCOLORの資料を見ながら、同社のビジネスの全体像を紐解いていきます。

2. VTuber企業の正体は「小売業」?利益率37%の高収益モデル

ANYCOLORの事業は、大きく分けて「ライブストリーミング」「コマース(物販)」「イベント」「プロモーション」の4つの領域で構成されています。

これだけを見ると、VTuberというキャラクターを活用して多角的にビジネスを展開しているように見えます。

しかし、実際の売上構成を見ると、ある一つの領域が突出していることがわかります。2026年4月期第3四半期(単体)の実績を見ると、売上高156.9億円のうち、実に107.4億円を「コマース」が占めていました。

泉田氏はこの数字を見て、同社の実態を次のように表現します。

「150億円売上があるうち、コマースの売上が107億円あります。ほぼコマースの会社という風に見えるわけですね」

【動画で解説】ANYCOLOR、業績下方修正の背景にある「在庫リスク」

つまり、ANYCOLORはVTuberの配信による投げ銭(ライブストリーミング)や広告(プロモーション)よりも、VTuberのキャラクターグッズを販売することで収益の約7割を稼ぎ出している企業なのです。

さらに驚くべきは、その利益率の高さです。

同四半期の営業利益は58.4億円に達し、営業利益率は37.2%という非常に高い水準を記録しています。一般的な小売業の利益率が一桁台にとどまることが多い中、同社のビジネスモデルがいかに「儲かる仕組み」になっているかが分かります。

ANYCOLOR ビジネス領域別売上高構成比(Q3単体)1/4

ANYCOLOR ビジネス領域別売上高構成比(Q3単体)

出所:ANYCOLOR株式会社 決算説明会資料を基にイズミダイズム作成

3. 業績下方修正の背景にある「在庫リスク」

非常に儲かっているように見えるANYCOLORですが、直近の決算発表では株価が大きく下落する場面がありました。その要因となったのが、業績予想の「下方修正」です。

2026年3月の発表では、通期の売上高見通しを520〜540億円から547.3〜556.3億円へと上方修正した一方で、営業利益は210〜220億円から198.2〜203.6億円へと下方修正しました。

売上が伸びているのに利益が減るという、一見すると矛盾するような状況です。

泉田氏が資料を読み解くと、その原因は「棚卸資産(在庫)」の評価損にあることが分かりました。同社は第3四半期に9.7億円の評価損を計上し、さらに第4四半期にも約15億円の評価損を見込んでいると発表したのです。

これは、数年前に開催したイベントの関連商品など、相当期間前に製造されたVTuberグッズが売れ残り、資産としての価値がなくなったために損失として処理したことを意味します。

泉田氏は、グッズ販売を中心とする同社のビジネス構造について、次のように指摘します。

「VTuberのIPだけで収益を得ているのであれば在庫リスクはないものの、結局IPというかブランドをもとに商品でビジネスを回しているので、この在庫リスクを抱えたビジネスモデルってことにはなるよね。」

デジタルな存在であるVTuberのビジネスであっても、物理的なグッズを製造・販売している以上、売れ残れば損失を被るという「小売業」特有のリスクから逃れることはできません。

さらに、VTuberの人気には波があるため、トレンドを見誤れば大量の不良在庫を抱えることになります。

【動画で解説】ANYCOLOR、業績下方修正の背景にある「在庫リスク」

「小売業の究極の仕事って、お客さんが欲しいときに適切に商品を出せるかというのと、いかに在庫を少なくするか。こう考えると、そこを精緻にやれないと小売業としてもバリュエーション(企業価値評価)がつきにくくなるんだよね」

泉田氏は、同社が今後株式市場から高く評価されるためには、この在庫管理能力の向上が不可欠であると分析しています。

VTuberグッズ在庫の構造リスク2/4

VTuberグッズ在庫の構造リスク

出所:ANYCOLOR株式会社 各種IR資料を基にイズミダイズム作成

4. 成長ドライバーの分析:VTuber数×1人当たり収益

在庫管理という課題はあるものの、ANYCOLORの稼ぐ力自体は依然として強力です。

それを象徴するのが、ROE(自己資本利益率)という指標です。ROEとは、企業が株主から集めた自己資本をどれだけ効率よく使って利益を上げているかを示す数値で、一般的に10%を超えれば優良企業とされます。

泉田氏が同社の純利益予想(約140億円)と前期末の純資産(約219億円)から概算したところ、同社のROEはなんと60%を超えていました。

100万円の元手が1年で160万円に増えるような、他に類を見ない「お宝ビジネス」だと泉田氏は評価します。では、この驚異的な収益はどのように生み出されているのでしょうか。

同社の売上成長は、シンプルに「VTuberの数」と「1人当たりの収益」の掛け算で分解できます。資料によると、第3四半期時点のVTuber数は172人(前年同期比で7人増加)でした。

そして、VTuber1人当たりの年間収益は、2022年4月期の1億1000万円から、2025年4月期には2億5200万円へと倍以上に成長しています。

泉田氏は、この2つの要素を掛け合わせることで、今後の成長の道筋が見えてくると解説します。

しかし、プロの機関投資家はここで立ち止まりません。人数の増加率(約4〜5%)と1人当たり収益の成長目標を加味すると、会社全体の売上成長率は大体15〜20%程度になるだろうと「秒で計算してしまう」と泉田氏は言います。

【動画で解説】ANYCOLOR、業績下方修正の背景にある「在庫リスク」

実は、この「将来が予想できてしまう」という状況こそが、株式市場においては思わぬ落とし穴になるのです。

ANYCOLOR 売上成長の構造3/4

ANYCOLOR 売上成長の構造

出所:ANYCOLOR株式会社 決算説明会資料を基にイズミダイズム作成

5. 株主還元か、事業投資か?ベンチャー企業のジレンマ

ANYCOLORの決算資料には、「キャピタルアロケーション(資金配分)」という方針が示されています。これは、会社が稼いだお金を何に使うかという計画です。

同社は、2027年4月期までに生み出される累計営業キャッシュフローと現預金を合わせた約560億円の原資のうち、半分以上にあたる「300億円以上」を株主還元(配当や自社株買い)に充てると発表しています。

一方で、設備投資や新規サービス開発への投資は30〜50億円程度にとどまっています。

「ROEが60%もあるなら、株主に還元するよりも事業に全額投資して伸ばした方が良いのではないか」というに対し、泉田氏はベンチャー企業が抱えるジレンマを次のように解説します。

「投資家は伸ばしてほしい。でもそんなこと言ったって、VTuberも決まった数しか増やせないし、商品も作って、何なら在庫があんまり増えちゃうと今回みたいな評価損になってしまう。コントロールしながら在庫も増やさないといけない」

投資家は高いリターンを求めて「もっと投資して成長してくれ」と要求します。しかし、VTuberの中には生身の人間(タレント)がおり、AIのように無限に増殖させることはできません。

事業を拡大できるスピードには物理的な限界があり、無理をすれば今回のような在庫リスクが顕在化してしまいます。

この「投資家の期待するスピード」と「実際の事業成長のスピード」のズレが、株価下落の一因になっていると泉田氏は分析します。

さらに、将来の成長率が15〜20%だと予測できてしまうと、投資家は「これ以上の大きなサプライズはない」と判断し、その期待値が一瞬で現在の株価に織り込まれてしまいます。

「一瞬で株価が織り込まれてグーッと株価が寝ちゃうと、期待できるのって配当しかないから。配当および自己株買いで株価が上がるっていうイベントしかなくなるから、キャピタルゲイン(値上がり益)そのものの魅力が失せるんだよ」

ベンチャー企業に投資する人々の多くは、将来の爆発的な成長による大きな株価上昇(キャピタルゲイン)を夢見ています。安定した配当を出す「大企業」のような振る舞いは、逆に成長期待の剥落と受け取られかねないのです。

ANYCOLOR キャピタルアロケーション(資金配分)方針4/4

ANYCOLOR キャピタルアロケーション(資金配分)方針

出所:ANYCOLOR株式会社 決算説明会資料を基にイズミダイズム作成

6. ANYCOLORの今後の注目ポイント

泉田氏は、ANYCOLORが今後取るべき王道の戦略は「じっくりとVTuberを育てて、今の事業を伸ばすこと」だと結論づけます。

ROE60%という驚異的な収益力を持つビジネスモデルを見つけた以上、まずはそこに集中して着実に利益を積み重ねていくことが重要です。

一方で、株式市場からの評価を再び高めるためには、投資家の予想を超える「非連続な成長」のストーリーも必要になってきます。

「僕らみたいに予想するのが仕事な人間に対して不思議なことではあるんですけども、僕たちの予想できないものを見せてくれっていう、また要求もあるんですよ。」

グッズ販売中心の「小売業」としての在庫管理能力を磨きつつ、誰も予想していなかったような新しいビジネス展開を見せることができるか。それが、ANYCOLORの今後の株価を左右する最大の注目ポイントと言えそうです。

参考資料

※リンクは記事作成時点のものです。