「老後、月々いくらあれば暮らせるのか」
ゴールデンウィークの賑わいも落ち着き、初夏の爽やかな風を感じる5月中旬。新年度の慌ただしさから解放されたこの時期は、立ち止まって家計の「今」と「これから」を整理する絶好のタイミングです。
老後の資産について、かつては「子に遺す」のが美徳とされましたが、最近では「自分たちのために使い切る」という選択も一般的になりました。しかし、どちらの道を選ぶにせよ、無視できないのが「家計収支のリアル」です。
現在の70歳代世帯では、年金だけでは月々数万円の赤字が出るケースが珍しくありません。理想の暮らしを最後まで維持するには、「今いくらあるか」だけでなく「それをどう切り崩していくか」というシビアな視点が欠かせません。
本記事では、最新データから70代世帯の「遺産への本音」「家計の赤字額」「リアルな貯蓄額」、そして「親族間で揉めやすい遺産の実態」までを紐解きます。
1. 70歳代ふたり以上世帯、みんなの「遺産」関するリアルな意識
老後資金を考える上で、避けて通れないことの一つが「遺産」のゆくえかもしれません。
「人生100年時代」、今のシニア世代は自分の築いた財産をどうしたいと考えているのでしょうか。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)が公表した最新の「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」から、70歳代・二人以上世帯のリアルな価値観を探ります。
1.1 70歳代・二人以上世帯の遺産に対する意識(単一回答)
子供に財産を残したい:52.6%
- 老後の世話をしてくれるならば、こどもに財産を残してやりたい:16.6%
- 家業を継いでくれるならば、こどもに財産を残してやりたい:1.8%
- 老後の世話をしてくれるか、家業を継ぐか等に関わらずこどもに財産を残してやりたい:34.2%
財産を使い切りたい:33.8%
- 財産を当てにして働かなくなるといけないので、社会・公共の役に立つようにしたい:0.8%
- 財産を残すこどもがいないので、社会・公共の役に立つようにしたい:1.0%
- 財産を残すこどもがいないうえ、自分たちの人生を楽しみたいので、財産を使い切りたい:8.8%
-
こどもはいるが、自分たちの人生を楽しみたいので、財産を使い切りたい:23.2%
その他:13.6%
調査結果を見ると、過半数の52.6%が「子供に財産を残したい」と回答しました。その内訳は、無条件で遺したい層(34.2%)だけでなく、「老後の世話」などを条件とする層も含まれており、家族間の支え合いを前提とした考え方が根強く残っていることがわかります。
一方で注目したいのが、子供がいても「自分たちの人生を楽しみたいので使い切りたい」と考える層が23.2%にのぼる点です。「遺産=親の務め」という固定観念にとらわれず、自立した老後を全うし、自分たちのために資産を活用しようとする現代的な価値観の広がりが鮮明になっています。
2. 「年金だけで暮らせる」のは約1割!?シニアを追い詰める「家計への不安」
高齢者世帯にとって、日々の暮らしの柱となるのは「公的年金」です。しかし、その年金に対する満足度や将来への見通しには厳しい現実があります。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の同調査によると、70歳代世帯の年金に対する実感は以下の通りです。
2.1 年金に対する生活実感(70歳代・二人以上世帯)
- 年金でさほど不自由なく暮らせる:12.3%
- ゆとりはないが、日常生活費程度はまかなえる:61.2%
- 日常生活費程度もまかなうのが難しい:26.5%
「不自由なく暮らせる」と回答した人はわずか1割強にとどまります。
約4世帯に1世帯は、日常生活を維持すること自体に困難を感じており、多くのシニアにとって年金だけでは「ゆとりある暮らし」には程遠い実態が浮かび上がります。
2.2 なぜ「ゆとりがない」と感じるのか
「ゆとりがない」と回答した世帯に対し、その具体的な理由を尋ねた調査では、現代の経済状況が色濃く反映された結果となりました。
年金にゆとりがないと感じる理由(70歳代・二人以上世帯/複数回答)
- 物価上昇等により費用が増えていくとみているから:57.7%
- 年金が支給される年齢が引き上げられるとみているから:6.5%
- 年金が支給される金額が切り下げられるとみているから:17.2%
- 高齢者への医療費用の個人負担が増えるとみているから:30.0%
- 高齢者への介護費用の個人負担が増えるとみているから:18.7%
- その他:16.0%
不安の最大の要因は、約6割が挙げた「物価高騰」です。食費や光熱費の際限ない値上がりは、年金生活を送るシニアの家計を「やりくり」の限界まで追い込んでいます。
追い打ちをかけるのが、避けて通れない「医療・介護」の自己負担増への懸念です。
単なる「今、お金が足りない」という目先の苦しさだけでなく、いつか訪れる不測の事態への「将来への防衛本能」が、家計への焦燥感をより一層強くしている様子がうかがえます。
3. 「70歳代の夫婦世帯」ふたり暮らしなら、ひと月の生活費はいくらかかる?
ここからは、総務省統計局が公表した「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から、70歳代の生活費の実態を見ていきましょう。
3.1 「70歳代の夫婦世帯」支出・収入・家計収支
「70歳代の夫婦世帯」の支出
- 70〜74歳:消費支出 28万5844円・非消費支出 3万9127円
- 75歳以上:消費支出 24万8460円・非消費支出 3万1563円
「70歳代の夫婦世帯」の実収入
- 70〜74歳:28万7725円
- 75歳以上:25万2798円
「70歳代の夫婦世帯」の家計収支(黒字・赤字)
- 70〜74歳:▲3万7245円(赤字)
- 75歳以上:▲2万7225円(赤字)
3.2 家計赤字の正体は「無駄づかい」ではない。根性論ではどうにもならない現実
70歳代世帯の家計収支を見ると、毎月およそ3万円〜4万円弱の赤字が生じています。しかし、この赤字の要因を単純に「日々の無駄づかい」や「家計の管理不足」と捉えてしまうのは適切ではありません。
総務省の家計調査から浮かび上がってくるのは、高齢期の支出において「どうしても削ることのできない固定費や生活必需品」の比重が非常に大きいという現実です。
それでは実際に、65歳以上の無職夫婦世帯における支出の内訳を詳しく見ていきましょう。
70歳代世帯の家計収支を見ると、毎月およそ3万円弱〜4万円弱の赤字が生じています。しかし、この赤字の要因を単純に「日々の無駄づかい」や「家計の管理不足」と捉えてしまうのは適切ではありません。
総務省の家計調査から浮かび上がってくるのは、高齢期の支出において「どうしても削ることのできない固定費や生活必需品」の比重が非常に大きいという現実です。
それでは実際に、65歳以上の無職夫婦世帯における支出の内訳を詳しく見ていきましょう。
毎月の実収入:25万4395円
■うち社会保障給付(主に年金):22万8614円
毎月の支出:29万6829円
■うち消費支出:26万3979円
- 食料:7万8964円
- 住居:1万7739円
- 光熱・水道:2万3540円
- 家具・家事用品:1万1237円
- 被服及び履物:5354円
- 保健医療:1万7941円
- 交通・通信:3万1325円
- 教育:0円
- 教養娯楽:2万6538円
- その他の消費支出:5万1341円
- (うち諸雑費:2万2047円)
- (うち交際費:2万3257円)
- (うち仕送り金:1135円)
■うち非消費支出:3万2850円
- 直接税:1万2547円
- 社会保険料:2万296円
食費や光熱費といった「削れない基礎支出」に加え、月2万円弱にのぼる保健医療費が家計を重くしています。これらは現役世代以上に固定費化しやすく、節約の努力が及びにくいのが現実です。
さらに、年金から天引きされる税金や社会保険料などの「非消費支出」も、高齢期ほど重い負担となって家計をじわじわと圧迫します。
昨今の物価高騰は、まさにこうした「生活に直結する項目」を直撃しており、家計の赤字は決して浪費ではなく「避けられない支出の積み重なり」によるものです。
4. 70歳代ふたり以上世帯《貯蓄の平均・中央値》はどのくらい?
では、J-FLECの「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」から、70歳代・二人以上世帯の貯蓄状況を見てみましょう。
4.1 【貯蓄額】70歳代二人世帯の平均値と実態
【貯蓄額】70歳代二人世帯の平均値と実態

出所:金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとにLIMO編集部作成
- 金融資産非保有:10.9%
- 100万円未満:4.5%
- 100~200万円未満:5.1%
- 200~300万円未満:3.7%
- 300~400万円未満:3.9%
- 400~500万円未満:2.9%
- 500~700万円未満:6.4%
- 700~1000万円未満:6.7%
- 1000~1500万円未満:11.1%
- 1500~2000万円未満:6.7%
- 2000~3000万円未満:12.3%
- 3000万円以上:25.2%
- 無回答:0.6%
平均と中央値
- 平均:2416万円
- 中央値:1178万円
※上記の貯蓄額には、生活費など普通預金における日常的な出費は含まれていません。
70歳代・二人以上世帯の貯蓄額は、一部の富裕層が平均を押し上げていますが、より実態に近い中央値は1178万円です。
一見まとまった額に思えますが、日々の生活費の補填に加え、将来発生する「介護費用」や「住まいの修繕費」を考えれば、決して手放しで安心できる数字ではないでしょう。
5. 遺産を「遺す」なら要注意?相続で意見が衝突しやすい財産トップ5
先述のJ-FLEC調査では半数以上が「子供に財産を残したい」と考えていることがわかりましたが、実際に遺産を分ける段になると、思わぬトラブルに発展するケースも少なくありません。
弁護士法人 東京新宿法律事務所が公表した「『意見衝突しやすい遺産』に関する調査」(2026年4月実施)によると、遺産分割で親族間の意見が衝突した財産のトップは「不動産」でした。
5.1 遺産分割で意見衝突した財産(複数回答):「弁護士法人 東京新宿法律事務所」調べ
遺産分割で意見衝突した財産6/6
出所:弁護士法人東京新宿法律事務所 相続で意見衝突しやすい“遺産”トップ5 ——1位は不動産!45歳~70歳を対象に弁護士法人 東京新宿法律事務所が「意見衝突しやすい遺産 」に関する調査を実施
- 1位:不動産(自宅・土地・収益物件など)(67.7%)
- 2位:預貯金・現金(59.3%)
- 3位:有価証券(21.3%)
- 4位:生命保険金・退職金(14.3%)
- 5位:事業用資産(3.7%)
衝突の理由としては、「分割しにくい財産だった」(26.0%)や「評価額で意見が分かれた」(14.0%)などが上位に挙がっています。
さらに、トラブル後の結果を見ると、「全員が納得する形で円満に解決した」と答えた人はわずか24.3%にとどまりました。7割以上が何らかのしこりや課題を残す結果となっており、当事者同士の話し合いだけでは解決が難しい実態が浮き彫りになっています。
同調査では、振り返って行うべきだった対応として「生前の遺言書作成(25.7%)」や「早期の専門家相談(23.3%)」、「生前の家族間対話(23.0%)」が挙げられています。資産を「遺す」と決めたのであれば、元気なうちから家族で話し合い、道筋を立てておくことが最大の愛情と言えるかもしれません。
6. まとめにかえて
本記事では、70歳代シニア世帯のリアルな家計収支や貯蓄額、そして遺産に対する価値観について確認してきました。
データが示す通り、年金だけで日々の生活費をすべてまかなうのは難しく、貯蓄を取り崩しながらやりくりしているのが現代のシニアの標準的な姿です。
また、ご自身の資産を「家族に遺す」のか「自分たちで使い切る」のか、その選択肢も多様化しています。
もし「遺す」という選択をするのであれば、今回ご紹介した調査結果のように、残された家族が分割方法で揉めないための生前対策(遺言書の作成や専門家への相談など)が欠かせません。一方で「使い切る」選択をする場合も、人生の最後まで資産が枯渇しないよう、計画的な管理が必要です。
気候もよく、心身ともに活動しやすくなる5月。連休に家族と顔を合わせた方も多いのではないでしょうか。この機会に、ご自身の老後資金の現在地を確認し、これからの資産の活かし方や終活について、少しずつ準備や話し合いを始めてみてはいかがでしょうか。




