企業の基幹業務システム(ERP)の開発から導入までを手がけるオービック。

実は営業利益率65.7%、32期連続増益という日本企業としてトップクラスの驚異的な収益力を誇っています。

しかし、IT業界がAIによる省人化へ向かう中、同社は「新卒主義」を貫き、あえて人を張るビジネスモデルを展開しています。

一体なぜ、AI時代に逆行するような「人」を重視する仕組みで、これほどまでに高い利益率を出し続けられるのでしょうか。

事業構造と財務体質を分析し、業績好調の本当の理由について、元機関投資家の泉田良輔氏がYouTubeチャンネル「イズミダイズム」にて解説します。

この記事のポイント

  • オービックの営業利益率は65.7%に達し、自社の高収益体質そのものが最強の営業ツールになっている
  • 効率化ではなく「付加価値の向上」を目的にAIを活用する逆張り経営を実践している
  • 導入(SI)よりも導入後のサポート(SS)が儲かるストック型の収益構造を確立している
  • 顧客企業の「AIをどう使えばいいか分からない」という悩みに応える駆け込み寺として機能している

1. 勘違いされがち?オービックの本当の姿と驚異の決算

テレビCMでおなじみの「勘定奉行」を提供する会社だと勘違いされることが多いオービックですが、泉田氏によると、それは「OBC(オービックビジネスコンサルタント)」という関連会社であり、今回取り上げるオービック本体とは異なります。

オービックは、OBCよりも事業規模の大きな企業向けに、ERP(統合基幹業務システム)と呼ばれる自社ソフトウェアの開発から導入までを一貫して手がけている企業です。

直近の2026年3月期決算を見ると、その業績の力強さが際立っています。

売上高は前年同期比11.5%増の1,352億円、営業利益は同13.3%増の888億円、親会社株主に帰属する当期純利益は同16.4%増の751億円と、見事な2桁増収増益を達成しました。

さらに泉田氏が注目するのは、その鉄壁の財務体質と収益性です。自己資本比率は83.4%と極めて高く、いわゆるキャッシュリッチな企業です。

一般的に、現金をため込んでいる企業は資本効率を示すROE(自己資本利益率)が低くなりがちですが、オービックのROEは15.8%と、日本企業の平均を大きく上回る水準を維持しています。

しかし、オービックの決算において最も驚異的なのは「営業利益率」です。

オービックの中長期 営業利益率の推移(1994年〜2026年)1/4

オービックの中長期 営業利益率の推移(1994年〜2026年)

1994年3月期には3.4%だった営業利益率が、右肩上がりで成長を続け、今期はなんと65.7%に達しています。営業利益ベースでは32期連続の増益です。

インタビュワーから「社内の徹底したコスト管理や革新が行われているのではないか」と問われると、泉田氏はこの圧倒的な数字そのものが、同社のビジネスモデルにおける最大の武器になっていると解説します。

2. なぜ利益率が高いのか?「自社実演」の説得力

オービックが提供しているERPとは、企業の業務効率化や経営改善を実現するためのシステムです。泉田氏は、自社製品を販売するにあたって、オービック自身の業績が優れていることが、顧客に対する何よりの説得材料になっていると指摘します。

「うちの営業利益率57%(※過去の数値)です、うちのERP買いますか?って言ったら、『うちもそこまでいけるポテンシャルありますかね』みたいになる。業務合わせていただければなりますよって言われたら、ちょっと一瞬考えますよね」

もし、自社の営業利益率が3%しかないIT企業から「業務効率化のシステムを導入しませんか」と提案されても、顧客は納得しません。

しかし、自らがERPを活用して60%超の利益率を叩き出しているオービックからの提案であれば、その説得力は絶大です。泉田氏は、オービックが「自分たちの会社を地でやっている」と評価します。

その結果として生み出される生産性の高さも群を抜いています。社員1人当たりの売上高は年間5,846万円、1人当たりの営業利益は3,800万円に上ります。これは営業担当者だけでなく、非営業部門も含めた全社員の平均値です。

社員1人当たりの売上高・営業利益の推移(決算説明会資料 p.6)2/4

社員1人当たりの売上高・営業利益の推移(決算説明会資料 p.6)

この驚異的な生産性は、長年にわたる大型プロジェクトの経験値や、業種・業界ごとのノウハウの蓄積によって実現されていると泉田氏は分析します。

【動画で解説】オービック、AI時代にあえて「新卒主義」で利益率65.7%

3. AI時代にあえて「人」を張る逆張り経営

IT業界において生産性を高めるための一般的なアプローチといえば、AIを活用した省人化や、中途採用による即戦力人材の獲得です。しかし、オービックの戦略はそれらと真っ向から対立するものです。

同社は「新卒主義」「自社開発」「直販」という3つの柱を掲げています。中途採用に頼らず、新卒から自社でじっくりと人材を育て上げ、長期的かつ濃密な顧客関係を築くことを重視しているのです。

インタビュワーが「AIが進む中で、なぜ新卒主義なのか」と疑問を投げかけると、泉田氏はオービックのAIに対する独特なアプローチを解説します。

「今いる人たちにAIの特許を作ってもらって、それで付加価値を上げるから、効率を上げて利益を出すというよりは、付加価値を上げて利益を出すっていう、ちょっと180度逆の発想になってるね」

一般的な企業が「人を減らしてコストを下げる」ためにAIを使うのに対し、オービックは「人が提供するサービスの価値を高める」ためにAIを活用しています。泉田氏はこの姿勢を、AI時代における「逆張り経営」だと表現します。

この戦略が機能する背景には、オービックがターゲットとしている顧客層の特徴があります。

顧客の年商別・業種別ポートフォリオ3/4

顧客の年商別・業種別ポートフォリオ

オービックの主要顧客は、年商100億円から1,000億円規模の中堅企業が約半数を占めています。何兆円もの売上を誇る超大企業であれば、自社内に優秀なIT専門部隊を抱えているかもしれません。

しかし、中堅企業にとって、目まぐるしく進化するAI技術を自社だけで追及し、ビジネスに落とし込むことは困難です。

泉田氏は、そうした企業にとってオービックの担当者が「駆け込み寺」のような存在になっていると語ります。

「『うちってAIどうやったらいいの?』と。『うちのERP導入してて、うちのことよく知ってるよね。AIの使い方ある?』って聞くじゃん。その時に自分の会社にあったAIの使い方を提案してくれたら、使わない?」

長年付き合いがあり、自社の業務を隅々まで理解してくれている担当者が、親身になって最新のAI活用法を提案してくれる。この「人に寄り添う付加価値」こそが、オービックが顧客から選ばれ続ける理由なのです。

【動画で解説】オービック、AI時代にあえて「新卒主義」で利益率65.7%

4. 儲けの源泉は「システムサポート(SS)」にあり

このような顧客との関係性は、オービックの収益構造にも明確に表れています。

同社の事業は大きく分けて、システムを導入する「システムインテグレーション(SI)」と、導入後の保守や運用支援を行う「システムサポート(SS)」の2つが柱となっています。

セグメント別の売上高と営業利益4/4

セグメント別の売上高と営業利益

注目すべきは、システムを売り切るSI事業(売上552億円、営業利益329億円)よりも、継続的な支援を行うSS事業(売上715億円、営業利益528億円)の方が、売上も利益も大きいという事実です。

泉田氏は、このSS事業の強みについて次のように解説します。

「担当の人が1人いても、お客さんが3人いてそれが5人いても対応できるとかってなると、同じ固定費で売上が増えるから利益も増える。そういうことなんでしょうね」

システムサポートは、一度導入した顧客から継続的に収益を得る「ストック型」のビジネスです。担当者のノウハウが蓄積されれば、1人の担当者がカバーできる顧客数が増え、限界利益率が高まっていきます。

さらに、AIなどの新しいテクノロジーが登場して時代が変化することは、オービックにとってむしろ追い風になると泉田氏は指摘します。

「お客さん数変わらなくても提案できる機能が増えていけば、さっき言った付加価値だよね。増えていけば契約する単価も上がってくるじゃないですか。そこも上がるんで、この会社からすると時代の変化がある方が単価を上げやすい」

自社でIT人材を確保することが難しくなっている昨今、外部の専門家であるオービックに業務を委託し、自社のニーズに合わせてシステムを調整してもらうという需要は高まる一方です。泉田氏は、こうした「人を張って収益を稼ぐモデル」が、大塚商会などの寄り添い型ビジネスと通じるものがあると分析しています。

【動画で解説】オービック、AI時代にあえて「新卒主義」で利益率65.7%

5. まとめ:時代の変化を味方につけるビジネスモデル

IT業界全体がAIによる自動化や省人化へと向かう中、オービックは「新卒主義」で人を育て、その人の付加価値を高めるためにAIを活用するという独自の道を歩んでいます。

泉田氏は今回の分析を通じて、自身の認識もアップデートされたと語ります。

「今まで僕もAIを使うとなるといかに人を少なくするかということしか考えてなかったんですけど、AIを使って付加価値を高めて、人の価値を高めていくという使い方もあるんだなというのはすごく学びになりました」

AI時代において「新卒を採用しない」という企業が増えれば増えるほど、新卒主義を貫くオービックには優秀な人材が集まりやすくなる可能性があります。

自前で人材を育て、顧客に寄り添い、時代の変化に合わせて新たな付加価値を提案し続ける。このサイクルが回っている限り、オービックの驚異的な高収益体質は今後も維持されていくのかもしれません。

参考資料

  • オービック「2026年3月期 決算短信」
  • オービック「2026年3月期 決算説明会資料」
  • オービック「自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ」
  • Youtubeチャンネル「イズミダイズム」