退職後の生活設計を考えるうえで、「自分はいくら年金を受け取れるのか」は避けて通れないテーマです。
老後の家計は現役時代のように収入が増えることはなく、受給額の見通しを持てるかどうかが、その後の準備を左右します。
厚生労働省年金局が公表している「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」を見ると、国民年金の平均月額はおよそ5万円、厚生年金は約15万円となっています。
この数字を見て、「思ったより少ない」と感じる人も少なくないでしょう。
だからこそ、平均値だけで判断するのではなく、早い段階で自分自身の年金見込み額を把握し、老後に向けた準備を具体化していくことが重要になります。
本記事では、ひとつの目安として「平均年収600万円」「40年間勤務」という条件を設定し、厚生年金を含めた受給額がどの程度になるのかを試算していきます。
将来の収入イメージを持ちたい方は、ぜひ参考にしてください。
1. 日本の給与所得者の平均年収は「478万円」
国税庁が実施した「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、2024年における給与所得者の平均年収は478万円でした。
この結果から、日本全体の年収水準はおおむね400万円台に位置していることが分かります。
ただし、この「平均478万円」という数字は、すべての年代を一括りにしたものです。年齢層ごとに分けて見ていくと、収入水準にはどのような違いがあるのでしょうか。
2. 【年代別】日本の給与所得者の平均年収は?
国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、年代別における日本の給与所得者の平均年収は以下のとおりです。
年齢別のデータを見ると、20歳代から30歳代にかけて年収が大きく伸び、50歳代後半(55~59歳)でピークを迎えていることが分かります。
その後は、60歳代に入ると水準が下がり、現役時代とは明確に異なる局面に移行します。
また、すべての年代において男女差が存在し、とくに40歳代・50歳代では、男女で200万円以上の差が生じている層も確認できます。
全体平均の478万円という数値は、こうした年代差や男女差を含んだ結果だと言えるでしょう。
なお、将来受け取る年金額は、「どの年代で、どの程度の年収水準で、どれだけの期間働いたか」によって決まります。
その意味で、40歳代から50歳代の中心的な年収帯に近い「平均年収600万円前後」の層は、将来の年金水準を具体的に知りたいと考える人が多い層でもあります。
次章以降では、この「平均年収600万円で40年間働いた場合」を想定し、厚生年金がどの程度の月額になるのかを確認していきます。
3. 【年金の仕組み】老後に「厚生年金」を受け取れるには?
具体的な金額を試算する前に、まずは厚生年金を受給できる人の条件を整理しておきましょう。
日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金からなる「2階建て構造」です。
1階部分にあたる国民年金(基礎年金)は、原則として20歳以上60歳未満のすべての人が加入対象となります。
国民年金の加入者は、次の3つに区分されています。
- 第1号被保険者:自営業者、学生、無職の人など
- 第2号被保険者:会社員や公務員
- 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている配偶者
このうち、厚生年金に加入するのは「第2号被保険者」です。
つまり、老後に厚生年金を受け取れるのは、現役時代に会社員や公務員として働いていた人に限られます。
次では、この第2号被保険者に該当する会社員が、「平均年収600万円」で40年間勤務した場合、どの程度の年金を受け取れるのかを具体的に見ていきます。
4. 厚生年金「平均年収600万円×40年間」働いた人、老後の年金《額面》だいたい何万円?
ここからは、老後収入の“土台”となる年金が、実際にどの程度の水準になるのかを具体的に見ていきます。モデルとするのは、生涯の平均年収が600万円、民間企業で40年間働いたケースです。
この条件に当てはまる人は「第2号被保険者」となり、老後には次の2つの年金を受け取ることになります。
- 国民年金(老齢基礎年金)
- 厚生年金(報酬比例部分)
まずは、ベースとなる「国民年金」から確認します。
4.1 「国民年金の受給額」を試算
国民年金の計算式は次のとおりです。
83万1700円 ×(保険料納付済み月数 ÷ 加入可能年数(12か月換算))※昭和31年4月2日以後生まれの方が対象
保険料を全期間で納めている場合、納付済み月数は480月となり、乗数は1です。よって、国民年金として受け取れる金額は「83万1700円」です。
次に、収入に応じて上乗せされる厚生年金を見ていきましょう。
4.2 「厚生年金の受給額」を試算
厚生年金は、次の要素で構成されています。
- 報酬比例部分
- 経過的加算
- 加給年金額
ただし、年金額の中心となるのは「報酬比例部分」です。そのため、今回の試算では経過的加算と加給年金額は含めず、報酬比例部分のみで計算します。
※経過的加算とは、過去の制度改正によって生じる不公平を調整するための仕組みであり、加給年金は扶養する配偶者や子どもがいる人に支給される年金です。
厚生年金は、次の計算式によって算出されます。
- 年金額=報酬比例部分(※)+経過的加算+加給年金額
※報酬比例部分の内訳
報酬比例部分=A+B
- A(2003年3月までの加入期間):平均標準報酬月額×7.125/1000×同期間の加入月数
- B(2003年4月以降の加入期間):平均標準報酬額×5.481/1000×同期間の加入月数
では、これらの式を用いて厚生年金の金額を求めていきます。
今回のケースでは、2003年4月以降に加入したものとして扱うため、Bの式のみ用います。
生涯の平均年収が600万円の場合、月収は50万円となり、平均標準報酬額も50万円となります。
50万円×5.481/1000×480月を計算すると、厚生年金部分は「131万5440円」となります。
ここに、国民年金として受給できる額を加えると合計214万7140円となり、これを12か月で割ると月額は17万8928円です。
つまり、年収600万円で40年間働いた場合、老後の年金は月18万円前後がひとつの目安になります。
5. 【盲点】老後の年金からも天引き「税金・社会保険料」の存在→手取りはどのくらい減る?
前章では、平均年収600万円のケースにおける老後の年金額を計算しましたが、実際に受け取る際にはこの金額がそのまま振り込まれるわけではありません。
ここまで見てきた年金額は、あくまで「額面」です。実際には、現役時の給与と同じように、年金からも税金や社会保険料が差し引かれます。
参考までに、総務省が発表した「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」を見ていきましょう。資料によると、65歳以上の単身無職世帯における家計収支は以下のとおりです。
【65歳以上 単身無職世帯】
- 実収入:13万4116円
- 可処分所得(手取り収入):12万1469円
- 消費支出:14万9286円
- 非消費支出:1万2647円
実収入が13万4,116円あっても、税金や保険料で1万2647円引かれるため、手元に残るのは12万1469円です。
天引き額は状況により異なりますが、およそ収入の10〜15%が差し引かれる計算になります。この傾向をふまえると、額面ひと月18万円の年金も実際の手取りは16万円前後と考えておくのが現実的でしょう。
6. 老後の収入は「年金だけ」で考えるものではない
老後の暮らしを考えるとき、「年金はいくらもらえるのか」に目が向きがちですが、実際の生活は年金だけで成り立っているわけではありません。
多くの人の老後収入は、次のような複数の要素で構成されています。
- 公的年金
- 現役時代に築いた貯蓄
- 資産運用や不動産などによる収入
- 定年後も続ける仕事からの収入
この中で、公的年金は毎月安定して入ってくる「土台の収入」にあたります。金額が大きく増えることはありませんが、景気や相場に左右されにくく、生涯にわたって支給される点が特徴です。
だからこそ、老後の準備を考えるうえでは、「まず年金でいくら確保できるのか」を把握することが欠かせません。
土台となる年金額が分かれば、
- 生活費との差はいくらか
- 貯蓄でどの程度補う必要があるのか
- 働き続けるべきかどうか
といった判断もしやすくなります。
逆に、年金額を知らないままでは、資産形成や働き方を考えても目標がぼやけたままになってしまいます。
実際に最近では65歳以上も働き続けるシニアが増え、老後の過ごし方や収入源は多様になっています。
これまで見てきたように、年金額は現役時代の収入や加入期間によって大きく変わります。だからこそ自分自身の年金見込み額は早めに確認するのが良いでしょう。
7. まとめにかえて:自分はいくらもらえる?老後の年金受給額は早めに知っておこう
本記事では、「平均年収600万円」「就労期間40年」という条件を想定し、老後に受け取れる厚生年金の水準を具体的に試算してきました。
公的年金の金額は、現役時代の収入の高さや加入していた年数によって大きく左右されます。そのため、老後の暮らしを現実的に考えるには、自分自身が将来どの程度の年金を受け取れるのかを事前に把握しておくことが欠かせません。
年金の見込み額は、「ねんきん定期便」や日本年金機構の「ねんきんネット」で確認できるほか、本記事で紹介したような計算方法を用いれば、おおよその目安を自分でつかむことも可能です。
将来の生活に漠然とした不安を感じている場合は、できるだけ早い段階で年金額の見通しを確認し、その結果を踏まえて、働き方や資産形成の方向性を考えておくことが安心につながります。
老後の家計を安定させる第一歩として、まずはご自身の年金受給額を一度確認してみることをおすすめします。




