家族が亡くなった際、銀行口座の取り扱いについて多くの方が疑問を抱きます。
「死亡届を役所に提出すると同時に口座は凍結されるのか」「葬儀費用のため、銀行への届出前にATMで引き出しても問題ないのか」といった声は少なくありません。
実は、役所への届出と銀行口座の凍結には直接的な連動関係はありませんが、適切な知識がなければ思わぬトラブルを招く可能性があります。
本記事では、口座凍結のタイミングや凍結前の引き出しに潜むリスク、そして2019年7月から利用可能となった預貯金の払い戻し制度について、元銀行員の視点から詳しく解説します。
秋の夜長、ご家族と将来について話し合う機会を設けてみてはいかがでしょうか。いざという時に慌てないための準備が、円滑な相続手続きへとつながります。
1. 死亡届の提出と銀行口座の凍結は連動してるの?
家族が逝去した際、葬儀の手配と並行して役所へ死亡届を提出する必要があります。この手続きについて、多くの方が「届出と同時に銀行口座が使えなくなる」と誤解しているケースが見られます。
実情として、役所への死亡届提出のみでは金融機関の口座が停止されることはありません。
口座が使用不可となるのは、遺族が各金融機関へ名義人の逝去を伝えた段階からです。
具体的には、銀行側が「名義人が亡くなった事実を認識したとき」から口座機能が停止し、それ以降は出金や送金といった預金取引が不可能となります。
稀なケースとして、金融機関の職員が新聞掲載の訃報や葬儀情報を独自に入手し、口座を停止する場合も存在します。ただし、原則として遺族からの通知がない限り、銀行は名義人の死亡を知り得ないため、即座に凍結されるわけではありません。
特筆すべき点は、名義人の死亡情報が金融機関間で自動的に伝達されない仕組みになっている点です。
故人が複数の銀行に預金口座を保有していた状況では、各銀行へ個別に逝去の事実を通知しなければなりません。
ただし、同一銀行内の異なる店舗に複数口座がある場合、一度の届出で原則として全口座が停止される点は覚えておきましょう。
銀行への通知を行わなければ口座は停止されないため、届出以前に現金を引き出すことは物理的には可能です。
ただし、この行為は他の相続権利者との軋轢を生む要因となり、さらに法的な問題に発展する危険性も含んでいます。次章で詳細なリスクについて説明します。