政府は70歳までの就業機会確保を進めています。
レバテック株式会社が2025年4月17日に公表した調査によると、対象企業のうち約2割が70歳までの就業機会確保に向けて具体的な施策を行っていると回答しています。
具体的には、「70歳までの継続雇用制度の導入(49.0%)」「定年制の廃止(44.2%)」「70歳までの定年引き上げ(43.3%)」を進めているようです。
定年退職の時期が近づいている方は、60歳以降の働き方に悩むことも多いでしょう。
一方で、65歳の年金支給開始時期に合わせ、すっぱり現役引退したいと思う方もいます。
本記事では、65歳以上世帯のうち「無職世帯」の1ヶ月の生活費にフォーカスをあて、暮らしぶりをさぐります。
老後に向けてどのような準備をしていけば良いのか検討していきましょう。
1. 【65歳以上シニア】働いている人は多い?就業率の実態
ひと昔前は60歳が定年退職の区切りとされ、年金生活に入る人も多かったものですが、現代では働くシニアも増えています。
総務省「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」より、65歳以上の年齢階級別就業率を確認しましょう。
1.1 65歳以上の年齢階級別就業率
- 65~69歳:52.0%
- 70~74歳:34.0%
- 75歳以上:11.4%
60歳代後半の約半分が就業しており、70歳代前半でも約3人に1人が就業しています。
グラフを見ても、シニアの就業率は徐々に上昇傾向であることがわかります。
では、65歳以上世帯のうち「無職世帯」の1ヶ月の生活費はどのようになっているのでしょうか。
2. 65歳以上世帯のうち「無職世帯」の1ヶ月の生活費
2025年3月11日に厚生労働省が公表した「家計調査報告〔家計収支編〕2024年(令和6年)平均結果の概要」から、65歳以上無職夫婦世帯の家計収支を見ていきます。
調査結果によると、ひと月約3万4000円の赤字が出ることが示されました。
2.1 65歳以上の夫婦のみの無職世帯の収入
- 実収入:25万2818円
- うち社会保障給付(主に年金)22万5182円
2.2 65歳以上の夫婦のみの無職世帯の支出
- 実支出:28万6877円
- うち消費支出:25万6521円
消費支出の内訳は次のとおりです。
- 食料:7万6352円
- 住居:1万6432円
- 光熱・水道:2万1919円
- 家具・家事用品:1万2265円
- 被服及び履物:5590円
- 保健医療:1万8383円
- 交通・通信:2万7768円
- 教育:0円
- 教養娯楽:2万5377円
- その他の消費支出:5万2433円
- 諸雑費:2万2125円
- 交際費:2万3888円
- 仕送り金:1040円
非消費支出3万356円の内訳は次のとおりです。
- 直接税:1万1162円
- 社会保険料:1万9171円
2.3 65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支
- 3万4058円の赤字
この世帯の場合、毎月の収入は25万2818円、そのうち約9割(22万5182円)が公的年金などの社会保障給付となっています。
一方で支出の合計は28万6877円。そのうち消費支出(いわゆる生活費)が25万6521円、非消費支出(税や社会保険料など)が3万356円でした。
この夫婦世帯の場合、毎月3万4058円の不足分を、主に貯蓄の取り崩しなどで補填していくことになります。
年代別に詳細を見ていきましょう。
3. 家計収支の詳細(60歳代後半・70歳代前半・75歳以上)
一口に65歳以上といっても、年代により生活費が変わる可能性があります。
参考までに、60歳代後半、70歳代前半、75歳以上に分けて、家計収支を見ていきます。
3.1 60歳代後半・70歳代前半・75歳以上の実収入
- 65~69歳:30万7741円(うち社会保障給付21万6915円)
- 70~74歳:27万5420円(うち社会保障給付21万7558円)
- 75歳以上:25万2506円(うち社会保障給付20万7623円)
収入をみると、どの年代も年金は21万円前後となっています。
しかし年金は加入状況により個人差が大きいので、必ず自身についてねんきんネットなどで年金見込み額を確認しましょう。
3.2 60歳代後半・70歳代前半・75歳以上の支出合計(非消費支出・消費支出)
- 65~69歳:35万2686円(4万1405円、31万1281円)
- 70~74歳:30万3839円(3万4824円、26万9015円)
- 75歳以上:27万3398円(3万558円、24万2840円)
支出をみると、年代により大きな差が見られており、60歳代後半は35万円台、70歳代前半では30万円台、75歳以上は27万円台となっています。
理由はさまざまですが、一般的には年齢が上がるにつれて支出が減っています。ただし実際には家庭の状況により差があるでしょう。
そこで頼りになるのはやはり「貯蓄」です。次では65歳以上世帯の貯蓄事情についても見ていきます。
4. 頼りになるのは貯蓄!リタイア夫婦「平均貯蓄額」はいくら?
総務省の「家計調査報告(貯蓄・負債編)2023年(令和5年)平均結果の概要(二人以上の世帯)」から、65歳以上の世帯主がいる二人以上世帯の貯蓄事情を見ていきます。
4.1 貯蓄現在高の平均と中央値
- 平均値:2462万円
- 貯蓄保有世帯の中央値:1604万円
平均値額は2462万円ですが、一部の富裕層により引き上げられる傾向があります。より実状に近い「貯蓄保有世帯の中央値」に目を向けると1604万円にまで下がるようです。
では、貯蓄額の世帯分布についても見てみましょう。
4.2 世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄現在高の金額別世帯分布 (二人以上世帯)
先述のグラフから、貯蓄額ゾーンごとの世帯数も見ていきます。
- ~100万円未満:7.9%
- 100万円~200万円未満:4.1%
- 200万円~300万円未満:3.2%
- 300万円~400万円未満:3.7%
- 400万円~500万円未満:3.0%
- 500万円~600万円未満:4.1%
- 600万円~700万円未満:3.1%
- 700万円~800万円未満:3.1%
- 800万円~900万円未満:2.9%
- 900万円~1000万円未満:2.3%
- 1000万円~1200万円未満:5.5%
- 1200万円~1400万円未満:4.3%
- 1400万円~1600万円未満:4.3%
- 1600万円~1800万円未満:4.2%
- 1800万円~2000万円未満:3.2%
- 2000万円~2500万円未満:7.1%
- 2500万円~3000万円未満:6.6%
- 3000万円~4000万円未満:8.7%
- 4000万円以上:18.8%
全体の41.2%が貯蓄額2000万円超、さらに4000万円超の世帯も18.8%存在します。その一方で、200万円未満の世帯が12.0%存在します。
65歳以上の「完全リタイア世帯」はどうでしょう。次では無職世帯に絞ったデータを見ていきます。
5. 【貯蓄額を深堀り】みんなはどんな形で備えている?
ここでは貯蓄額の推移や資産種類の内訳も見てみましょう。
5.1 【65歳以上の無職夫婦世帯】平均貯蓄額の推移
- 2018年:2233万円
- 2019年:2218万円
- 2020年:2292万円
- 2021年:2342万円
- 2022年:2359万円
- 2023年:2504万円
世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上世帯)の貯蓄額は、2018年から2020年までは2200万円台に落ち着いていましたが、2021年に2300万円台、2023年には2504万円にまで上がりました。
2023年の資産の内訳のうち、最も割合が高かったのは定期性預貯金846万円(33.8%)、次いで普通預金などの通貨性預貯金が754万円(30.1%)、有価証券(株式や投資信託など)は480万円(19.2%)となります。
貯蓄全体の約6割が、比較的リスクが低い預貯金になってはいるものの、定期性預貯金は19万円減(▲2.9ポイント)です。その一方で、有価証券は前年より80万円増(+2.2ポイント)となっています。
現役世代が老後に向けたマネープランを立てる上で、「公的年金をどのくらい受け取れるか」はぜひ知っておきたい情報です。
次では、今の老齢年金エイジの受給額データも見ておきます。
6. 2025年度「厚生年金と国民年金」は1.9%増額!6月支給分から反映へ
公的年金は賃金や物価の動向を反映させる形で、年度ごとに見直しがおこなわれます。
2025年度の年金額は、次のとおり前年度から1.9%の引き上げが決まっています。
- 国民年金(老齢基礎年金(満額)):6万9308円(1人分※1)
- 厚生年金:23万2784円(夫婦2人分※2)
※1昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額6万9108円(対前年度比+1300円)です。
※2男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。
3年連続の引き上げ自体は喜ばしいことです。とはいえ、「マクロ経済スライド(※)」の発動により、物価上昇率を下回る改定率となっています。
つまり、年金額は物価上昇には追い付いておらず、実質は目減りしているということなのです。
※マクロ経済スライドとは:「公的年金被保険者(年金保険料を払う現役世代の数)の変動」と「平均余命の伸び」に基づいて設定される「スライド調整率」を用いて、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除するしくみ
7. 【国民年金・厚生年金】平均受給額に迫る
厚生労働省年金局が公表する「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、65歳以上の各年齢における平均年金月額は、国民年金のみの受給権者で5万円台、厚生年金(国民年金部分を含む)の受給権者で14万円台~16万円台です。
ただし一人ひとりが実際に受け取る年金額は、現役時代の年金加入状況により個人差があります。グラフを交えながら、国民年金と厚生年金の「平均月額と個人差」を見てみましょう。
60歳~90歳以上の全受給権者の平均年金月額は下記の通りです。
7.1 国民年金(老齢基礎年金)
- 〈全体〉平均年金月額:5万7584円
- 〈男性〉平均年金月額:5万9965円
- 〈女性〉平均年金月額:5万5777円
7.2 厚生年金(国民年金部分を含む)
- 〈全体〉平均年金月額:14万6429円
- 〈男性〉平均年金月額:16万6606円
- 〈女性〉平均年金月額:10万7200円
平均年金月額は、国民年金のみを受け取る場合は男女ともに5万円台ですが、厚生年金を受け取る場合は男性16万円台、女性10万円台と差があります。
8. まとめにかえて
70歳までの就業機会確保が進められる中、シニアが活躍できる就業の場は今後も増えていくことが予想されます。
経済面だけでなく、社会とのつながりや健康面なども考えた上で、長く働くことにはメリットがあるといえます。
企業の立場からも、労働力不足が懸念される中でシニアの働き手が増えるというメリットがあります。
一方で、現役時代はやみくもに働いてきた分、年金を受け取れるようになればすっぱり引退したいと考える人も多いでしょう。
このときに必要になるのは年金収入と支出の差分となる資産があるかどうかです。
公的年金以外の何らかの収入、あるいは取り崩せるだけの貯蓄があるかがカギになるため、しっかりシミュレーションして備えておきましょう。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2024年(令和6年)平均結果-(二人以上の世帯)」
- 厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします~年金額は前年度から 1.9%の引上げです~」
- レバレジーズ株式会社「ミドル・シニア層のIT人材採用が拡大「70歳までの就業機会確保」に取り組む企業も」
- 厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」
太田 彩子