4. 年金が少ないなら働くしかない?「在職老齢年金制度」を知ろう
老後資金にゆとりがない場合、完全なリタイアではなく、働き続ける選択をする人も少なくありません。
特に60歳以降は、年金を受け取りながら働くという「在職老齢年金制度」の活用がひとつの手段となります。
この制度では、働きながら年金を受給することが可能ですが、「給与と年金を合わせた月収」が一定の基準を上回ると、年金の一部が減額されるという仕組みです。そのため、年金をフルに受け取りたい人にとっては、収入の上限に注意する必要があります。
4.1 【2025年度】在職老齢年金の計算式
基本月額と総報酬月額相当額との合計が51万円※以下の場合
- 全額支給
基本月額と総報酬月額相当額との合計が51万円※を超える場合
- 基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-51万円※)÷2
具体的な計算式として、2025年度の基準では「基本月額(年金)+総報酬月額相当額」が51万円を超える場合、超えた分の半額が支給停止の対象となります。つまり、年金は満額受け取れるとは限らないということです。
ちなみに、この支給停止の基準額(支給停止調整開始額)は毎年見直されており、2025年度は前年度より1万円引き上げられる予定です。これは、物価や賃金水準の変動を反映するための調整措置です。
老後も働くことを選ぶ場合、この制度の内容をしっかり理解し、自分のライフプランに合った収入設計をすることが求められます。
5. 働く高齢者が増加している背景とその実態
近年、日本では働く高齢者の数が年々増加しています。
2022年には65歳以上の男性の内約61%の人が何らかの形で働いているというデータがあります(出所:厚生労働省「高齢期と年金をめぐる状況」)
この背景には、年金だけでは生活が不安という経済的理由に加え、健康寿命の延伸や「社会とのつながりを持ち続けたい」という意欲的な動機もあります。
また、企業側も人手不足の中で高齢者の雇用に積極的になっており、受け入れ体制も整いつつあります。
高齢者の働き方も多様化しており、短時間勤務や週数日の就労、地域の仕事やスキルを活かした自営・副業など、無理のない形で労働に参加する人が増えています。
今後も、体力や意欲に応じて「働き続ける選択肢」がより広がっていくと考えられます。
6. まとめにかえて
本記事では、物価上昇が続く近年、年金受給世代である65歳以上のシニアがどのような生活を送っているのかを、生活費や貯蓄額、年金額に関するデータから考察してきました。
「平均的なシニア夫婦世帯」は収入より支出が大きく「赤字」になっているようです。
止まる気配のない値上げにより、赤字がさらに膨らむ世帯もあるでしょう。
このような事態に陥ったとき、貯蓄があれば赤字部分を補填することができます。現役世代の人たちは、老後に向けて貯蓄に励むことがいかに重要であるかを再認識できたのではないでしょうか。
少子高齢化により、将来的に年金給付水準はいまよりも低くなる見通しです。今後、どのように変わるかはわかりませんが、ネガティブな事態を想定して準備を進めておくことで、安心して老後を迎えられる可能性が高くなります。
いまのシニア世代の暮らしぶりを参考に、老後対策を考えてみましょう。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2023年(令和5年)平均結果の概要」
- 総務省統計局「第3 家計調査の貯蓄・負債編の見方」
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2024年(令和6年)平均結果-(二人以上の世帯)」
- 厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
- 厚生労働省「高齢期と年金をめぐる状況」
- 株式会社帝国データバンク「「食品主要195社」価格改定動向調査 ― 2025年6月」
和田 直子