3. 在職老齢年金の注意点
在職老齢年金によって支給停止となる部分は、繰下げ受給による増額の対象になりません。
例えば、在職老齢年金により老齢厚生年金の20%部分が支給停止となる場合、繰下げ受給により増額の対象となるのは80%に留まります。
4. 年金カットを受け入れて働くべきか
在職老齢年金制度は批判されることもありますが、できるだけ長く厚生年金に加入し、将来受け取れる年金額を増やすことは安心につながります。
長寿化が進んでおり、何歳まで生きるかわからない時代において、終身に渡って受け取れる年金額を増やすことは有益です。
想定以上に長生きして、資産が枯渇してしまうリスクを「長生きリスク」と呼びます。
長生きリスクの不安を軽減するには、「終身年金の受給額≧生活費」という状況を作ることに尽きます。
厚生年金は、加入期間が長くなれば受け取れる金額も増える仕組みです。在職老齢年金を受けている方が退職し、1カ月が経過すれば、退職した翌月分から年金額が見直されます。
退職時の見直しに伴って、在職老齢年金による年金の支給停止がなくなり、全額支給されます。退職後はこれまでの加入実績に基づく年金を受け取れるため、65歳以降に働いた分もきちんと受け取れるのです。
年金カットは心理的に納得しづらい制度ではありますが、将来のことを考えると、できるだけ長く厚生年金に加入して働くメリットは大きいといえるでしょう。
5. まとめにかえて
在職老齢年金制度はこれまでも見直しがされており、基準額が引き上げられてきました。2025年度も引き上げとなり、厚生年金を受け取りながら働く方にとってはポジティブな改正となります。
ただし、フルタイムで働く方の中には、基準額を超えてしまい年金カットになってしまうケースもあるでしょう。この場合でも、年金カットを受け入れて働いたほうが、長生きリスクへの備えとして安心につながります。
参考資料
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
- 日本年金機構「働きながら年金を受給する方へ」
- 厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします」
- 日本年金機構「年金の繰下げ受給」
- 公益財団法人生命保険文化センター「在職老齢年金について知りたい」
- 厚生労働省「[年金制度の仕組みと考え方]第10 在職老齢年金・在職定時改定」
柴田 充輝