今年も各地で熊による被害が多発しています。これまでにもTVや新聞、ネットニュースなどで熊に関連する事故の報道がたくさんありました。
つい最近では、岩手県で赤ちゃんを抱いた元自衛官のお母さんが、突進してきた熊を蹴って撃退したというニュースもありました。人が住んでいる地域に熊が出るのも珍しいことではないと、痛感させられる出来事です。
都会に住んでいる人たちにとっては“身近ではない遠いところでの事故”、“関係ない出来事”かもしれません。とはいえ、「被害に遭ってしまうのは山奥に入ったから」「市街地にいれば大丈夫」と他人事のように思ってしまうのは大間違いです。
筆者は秋田県在住ですが、実は2023年のツキノワグマによる人身被害件数は全国1位(※1)で、今年(2024年)もすでに県内で10人の被害者が出ています(8月15日現在※2)。
自分自身は幸い熊に遭遇した経験はありません。でも、知人から熊の目撃談を聞いたり、熊が出現した痕跡を目にすることはあります。また、2023年の秋以降、県内外で「今までと違う、人を警戒しない熊が増えている」というような報道を見聞きすることも増えました。
秋田では暑さが落ち着き始め、実りの秋を迎えました。これから、人も熊も大好きな美味しい果実の季節。そしてその後は紅葉シーズンで、山へレジャーに出かける方も多いでしょう。出かける先は、熊の生息域かもしれません。
今回の記事では、アウトドア好き、かつ熊が多く出没する秋田県に住んでいる筆者が、実際に見聞きした熊の被害や情報をご紹介します。
また、秋田県に限らず、熊が出没する可能性がある地域は日本のあちこちに存在するため、出かける際に気をつけるべきことや対策もお伝えします。
さらに記事最後には、熊による農作物被害額の推移についても触れていきます。ぜひ最後までご一読ください。
※1:環境省「クマ類の生息状況、被害状況等について」
※2:美の国あきたネット ツキノワグマ情報「ツキノワグマによる人身被害状況」
1. 筆者のリアルな体験談「熊被害&出没情報」
1.1 「まさかこんなところで!?」目撃情報がある場所での行動
舗装されていない道を歩くツキノワグマ2/6
undefined undefined/istockphoto.com
筆者の家から歩いて10分ほどの所に大きな公園があります。林の中の遊歩道や大きな複合遊具は近隣住民にとても人気。天気のいい日には親子連れで賑わいます。
その公園で、たびたび熊の目撃情報が報告されているのです。
決して山奥にある訳ではないのですが、確かに、あまり天気がよくない日などは閑散としていて、野生動物が出てきてもおかしくないような雰囲気。
筆者には就学前の子どもがいます。子どもに対しては日頃から「この地域では熊は身近な存在である」ということや、「熊に出会わないようにするための対策と、出会ってしまったときの対処法」を伝えています。
これは子どもだけでなく大人も同じこと。目撃情報があるような所ではできるだけ単独行動を避けましょう。家族でのレジャーなどの際は、楽しみつつも周りの状況に気を配り、人が少なくなってきたら暗くなる前に帰るなどの判断をするのが賢明です。
1.2 「熊の“落としモノ”を発見!」近くにいるんだと認識
筆者は秋田県内の田畑が広がる地域に住んでいます。自宅周辺にはいくつか農道があり、里山も近く、自然豊かな地域です。
ある日、近所の農道で、大人の手のひらサイズのフンを見つけました。あまり見かけないサイズで気になったのですが、どうやらそれは熊の“落としモノ”のようだと後から判明しました。
熊のフンは食べた物により色や質感が異なり、臭くはなく食べた物の匂いがする(※3)そうです。こうした特徴が当てはまるフンを発見したことで、「この場所に紛れもなく熊が生息している」という事実を改めて痛感しました。
熊が生息している地域に足を踏み入れる際には、身近に熊がいてもおかしくないと気を引き締めて行動する必要があるでしょう。
※3 秋田県生活環境部自然保護課「秋田の身近な動物 ツキノワグマ クマを知り、被害を防ぐ」
1.3 「美味しいモノを知っている!」甘い果実が狙われて被害に
熊は木登りも得意3/6
meemoomean/shutterstock.com
9月頃から収穫期を迎えるリンゴ。そのリンゴは熊の大好物でもあります。筆者が毎年買いに行く知り合いの果樹園も熊の被害にあったそう。
「去年(2023年)、収穫間近のリンゴが熊に食い荒らされてしまい、収穫量が例年の5分の1になってしまった。木に登られたために枝も折れ、もとの収穫量に戻るには5年以上かかる」との悲痛な声を聞きました。
幸いなことに、果樹園で働いている人たちに怪我などの直接的な被害はなかったとのこと。しかし、小屋の中で作業をしている際に、窓から熊を目撃して怖い思いをしたこともあったそうです。
経済的な面だけでなく精神的なダメージもあり、本当に熊の被害は深刻だと痛感しました。
2. 他人事と思わないで!アウトドアやレジャーの際の「熊対策」は万全に
さて、筆者の体験談を踏まえたうえで、熊の被害に遭わないための対策を考えていきたいと思います。まずは、なんといっても熊と遭遇しないようにすることが一番の対策です。
昨今は人が住んでいる場所に出没するケースも増えていることから、油断は禁物。基本的な熊対策については記事内で簡単にお伝えしますが、詳細は環境省の「クマ類の出没対応マニュアルー改訂版―(※4)」などで各自確認するようにしてください。
※4 環境庁 野生鳥獣の保護及び管理「クマ類の出没対応マニュアル -改定版-」
2.1 出かける場所の熊出没情報を事前に確認
まずは、出かける場所の周辺に熊が生息しているのかどうか、地域の熊出没情報を確認しておきましょう。
熊による被害の影響で、立ち入り禁止になっていたり道路が通行止めになっていたりするエリアがあります。レジャーなどで出かけたら、現地では必ずその指示に従いましょう。
自然が豊かな地域では、思わぬ場所で野生動物と遭遇する可能性が高いです。移動する際には十分注意しましょう。また、暗い時間帯は野生動物の活動が活発になります。夜間の移動はできるだけ避けたほうがよいでしょう。
2.2 キャンプ場などでの注意事項
熊は雑食性のため、人の食べ物に寄ってくることもある4/6
Mikhail Blajenov/shutterstock.com
キャンプや登山などで山に入る際は、食べ物の管理に気をつけましょう。食べ物の匂いで、熊をはじめとした野生動物を呼び寄せてしまうからです。
とくに気をつけたいのが食事の後に出る生ゴミ。無造作に外に置きっぱなしにするのはもちろんNGです。残った食料なども密閉できる容器に入れて匂いが出ないように、細心の注意を払いましょう。
キャンプ場などの施設によっては、ゴミの捨て方や管理方法が決められている場所もあります。そのような場所では必ず指示に従いましょう。
2.3 山歩きの際の注意事項
熊の目撃情報がある地域での行動は慎重に5/6
ramustagram/istockphoto.com
ほとんどの熊は臆病で人の気配を感じると熊の方から逃げていくといわれているので、熊鈴やラジオなどを鳴らしながら、数人で賑やかに行動するのが効果的。実際に、秋田県で熊被害にあった方の大半は、鈴やラジオなどを持っていなかったそうです。(※5)
筆者が住んでいる地域では、小学生は「熊鈴」をランドセルにつけて通学しています。農作業や犬の散歩をしている人も同じで、熊鈴やラジオなどで音を出しながら行動をしています。
アナログな対策だと思われるかもしれませんが、山の中ではスマホの電波が届かない地域もあります。また、いざという時にバッテリー切れになってしまうと緊急時の連絡手段がなくなってしまうため、熊鈴やラジオは欠かせません。
ただし、昨今では人を襲うことを覚え、凶暴化した熊も一部存在します。そうした熊にはこうした対策が逆効果になってしまうことも覚えておいて下さい。
先述した熊出没情報を必ず確認したうえで、人を襲う熊が出現する可能性がある場所には絶対に立ち入らないようにしましょう。
※5 美の国あきたネット「ツキノワグマ情報」ツキノワグマによる事故を防ぐために
3. 万が一「熊に出会ってしまった場合」どうすればいい?
対策を万全にしていたとしても、生息地域周辺で熊に遭遇してしまう可能性がゼロになる訳ではありません。その時の心構えはできているでしょうか。
もし、遭遇してしまった場合は、
- 目を逸らさずに後ずさりして距離を取る
- 襲われそうになったら後頭部を手で押さえて伏せる
これが基本の対応とされています(※4)。
また、車に乗っている際に熊に遭遇する可能性もあります。その場合は車の窓やドアを閉め、車内に留まるのが一番安全です。
また、万が一熊の被害で車の修理をする際、熊が原因であると証明できるように、必ずドライブレコーダーを装着しておきましょう。
お子さんと出かける際は、適切な対応ができるように、分かりやすく話をしておくことが大切です。
※4 環境庁 野生鳥獣の保護及び管理「クマ類の出没対応マニュアル -改定版-」
4. 【熊被害】熊による全国の農作物被害金額の推移(農水省公表)
4.1
- 1999 (平成11) 年度:約4億8900万円
- 2000 (平成12) 年度:約10億5500万円
- 2001 (平成13) 年度:約4億6400万円
- 2002 (平成14) 年度:約3億800万円
- 2003 (平成15) 年度:約3億2100万円
- 2004 (平成16) 年度:約4億1000万円
- 2005 (平成17) 年度:約3億1000万円
- 2006 (平成18) 年度:約7億6400万円
- 2007 (平成19) 年度:約3億3700万円
- 2008 (平成20) 年度:約3億6300万円
- 2009 (平成21) 年度:約3億3600万円
- 2010 (平成22) 年度:約5億2800万円
- 2011 (平成23) 年度:約3億3700万円
- 2012 (平成24) 年度:約3億8800万円
- 2013 (平成25) 年度:約2億7400万円
- 2014 (平成26) 年度:約3億9100万円
- 2015 (平成27) 年度:約3億円
- 2016 (平成28) 年:約3億8700万円
- 2017 (平成29) 年:約3億8900万円
- 2018 (平成30) 年:約3億8300万円
- 2019 (令和1) 年:約4億400万円
- 2020 (令和2) 年:約4億6000万円
- 2021 (令和3) 年:約4億3800万円
- 2022 (令和4) 年:約4億700万円
農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況の推移(※5)」では、鳥獣ごとの農作物被害額・被害面積・被害量が公表されています。
これによると、2022年度の野生鳥獣による全国の農作物被害は約156億円(対前年度約+0.5億円)。うち熊による被害総額は約4億700万円でした。2011年度以降、2億円台後半~3億円台で推移していましたが、2019年度以降は4億円台が続いています。
※5 農林水産省「農作物被害状況」全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和4年度)参考3 野生鳥獣による農作物被害状況の推移
5. まとめ
皆さんの住んでいる地域によって、熊の被害に対する関心度や深刻度は違うかもしれません。ですが、熊が出没する可能性のある地域が広がりつつあると懸念されているのも事実です。
筆者が住む秋田県では「いつでも・どこでも・誰でも」クマに遭遇するリスクがあるとして注意を呼び掛けています。しかし、秋田県以外でも熊が生息する地域は各地に存在しています。
行楽シーズンに向けて、筆者が実際に見たり聞いたりしたリアルな状況をお伝えすることで、いざという時に役立ててもらえたらと思っています。
“正しくおそれる”ということを忘れず、万全の対策と心構えで秋のレジャーを楽しんでくださいね。
参考資料
- 環境省「クマ類の生息状況、被害状況等について」
- 美の国あきたネット ツキノワグマ情報「ツキノワグマによる人身被害状況」
- 秋田県生活環境部自然保護課「秋田の身近な動物 ツキノワグマ クマを知り、被害を防ぐ」
- 美の国あきたネット「ツキノワグマ情報」ツキノワグマによる事故を防ぐために
- 環境省 野生鳥獣の保護及び管理「クマ類の出没対応マニュアル -改定版-」
- 農林水産省「農作物被害状況」全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和4年度)参考3 野生鳥獣による農作物被害状況の推移
鈴森 真樹