感情労働とは何か?感情労働の問題点と感情労働を要求される職種・その対策

はじめに

仕事中にストレスを感じるという人はたくさんいます。緊張感をもち、仕事を効率的に進めるために、ある程度のストレスは必要ですが、過度なストレスは身体を壊してしまう危険性をはらんでいます。

近年、感情労働が大きな割合を占める職種においてのストレスが大きな問題となっています。この記事では、感情労働とはどのようなものであり、どのような職種において感情労働が要求されるのか、また感情労働に必要とされる対策について解説します。

目次

1. 感情労働とはなにか
2. 感情労働がなぜ起こるのか
3. 感情労働にまつわる問題点
4. 感情労働が起きる状況とは
5. 感情労働が起きやすい職種とその傾向
6. 感情労働が引き起こす問題とその対策
7. 感情労働に苛まれないために

1. 感情労働とはなにか

労働作業は、従来は主にふたつの種類に分類されてきました。

肉体労働

身体を動かして作業をすることを中心とした労働

頭脳労働

何らかの判断や思考、アイデアを創出することが作業の中心となる労働

しかし近年、これらに加えて、新たに感情労働という概念が登場しています。

感情労働とは、アメリカの社会学者であるA・R・ホックシールドが著書の中で、「肉体労働や頭脳労働とは異なる別の形態の労働」と言及したことにより、注目を浴びるようになった概念で、以下のように定義されています。

感情労働の定義とは、感情が仕事をするうえで必要不可欠な存在であり、かつその感情が、適切か不適切かがルール化・明文化されて決められており、企業の指示や管理のもとで常にコントロールされていることが求められている労働

簡単にいえば、感情労働とは、常に自分の感情を抑え、明るくふるまうことを必要とされる労働を指します。肉体労働が身体を使った作業を賃金に、頭脳労働が頭を使った作業を賃金へと変えるように、感情労働では感情を抑えることが賃金に変わるといいかえるとわかりやすいかもしれません。

労働に関する感情の仕事は、以前から認識されていましたが、長い間、頭脳労働の一種と考えられていました。しかし、現在では、頭脳労働とは別物であるとして、提唱、研究されるようになっています。

2. 感情労働がなぜ起こるのか

「嬉しい」「嫌だ」といった感情は、他者や周囲の環境により自然とわき起こります。このように自分の意志では変えることが難しい感情をコントロールすることは、人間にとって非常に難しい行為であり、苦痛を伴うことでもあります。このようなことを強いる感情労働を、なぜ労働者は行わなくてはいけないのでしょうか。

企業が、指示や管理のもとで労働者に感情労働を行わせることには、目的があります。それは、労働者が自分の感情を抑制し、あるいは誘発しながら、相対する顧客に接することで、顧客の精神を特別な状態に導くことです。

多くのサービス業において、顧客は日常とは異なる精神状態に導かれることによって、満足感を得られるという仕組みになっています。このため、そのサービスを提供する労働者には、感情の抑制や誘発が必要不可欠となります。サービスを提供する企業は、顧客に最大限の満足感を与えるための感情を分析・ルール化・明文化し、それを労働者に対して要求することから、労働者は感情労働を行わなくてはいけなくなるのです。

3. 感情労働にまつわる問題点

感情労働を伴う仕事をする労働者は、多くの場合、顧客に対して好まれる表情やしぐさをすることを要求されます。そして、これらの表情やしぐさをするために、自身自身の感情をコントロールすることが必要不可欠となります。

例えば、顧客を明るい気分にさせなくてはいけない場合、労働者は怒りや悲しみなど、人々が負の感情と認識するものを表面に出ないように心のうちで抑え、他者から見て明るく前向きになるような喜びや楽しみといった感情を表に出す必要があります。つまり、労働者自身がそのような感情を感じていない状況であっても、そのように装わなければならないのです。

感情というものは自然発生的なものです。相手に不快なことや失礼なことを言われたり、されたりしたならば、不快だ・嫌だという気持ちが自然と心のうちに沸き起こり、表情にも表れてしまうことが自然な現象です。しかし、感情労働では、相手が顧客であるときは、これらの個人的な感情をセーブし、その場に応じた的確な対応と処理をしなくてはいけません。

これは、状況にもよりますが、顧客に対して自身の尊厳を犠牲にすることを強制されている状態ともいえ、精神的な苦痛を伴うことでもあります。

このため、感情労働を伴う仕事を行っている労働者の中には、これが精神的な負荷となり、様々な問題症状に悩まされるようになる人がいます。

例えば、使命感が強くひたむきに仕事を続けていく人の場合、激しい精神的消耗の末、突如虚無感に襲われる燃えつき症候群(バーンアウト)に陥るケースが多いようです。他にも、徐々に本来の自分らしさを失い、買い物依存症やギャンブル依存症、暴力的になってしまうという症状があらわれる人もいます。

4. 感情労働が起きる状況とは

先ほど、感情労働とは、顧客に対して特別な満足感を与えるために、感情のコントロールが要求される労働であるという説明をしました。感情労働を伴う状況において、多くの場合、労働者はどのような状況であっても、感情をコントロールして企業の示したルールに従わなければなりません。それが、顧客側の一方的な誤解や失念、無知や無礼にものや、悪意によるもの、八つ当たり、理不尽な要求といった状況でも、労働者は自身の感情を抑えなくてはいけないのです。

感情労働は、顧客を相手とするサービス業だけで行うこととは限りません。

例えば、感情的な上司や同僚がいる職場では、労働者は、相手の機嫌を損ね、感情を爆発させることを避けようとする傾向があります。つまり、無意識のうちに、自身の感情を抑え、相手に接するという感情労働を行うことになります。

また、日常生活でも、人間関係を崩さないようにという無意識の配慮から感情労働がなされることもあれば、仕事上の肩書のイメージを損なわないために、努めて相手のイメージ通りに動くといった感情労働をすることもあります。

5. 感情労働が起きやすい職種とその傾向

感情労働を要求されやすい職種というと、顧客と直接相対することの多いサービス業(第三次産業)が第一に挙げられます。また、他にも、仕事をする上で、他人とのコミュニケーションが必要となる仕事においても、感情労働を要求されることが多いともいえます。

具体的な職種について、みてみましょう。

例えば、客室乗務員(CA)。客室乗務員は、乗客のどのような要求に対しても、基本的に笑顔で応対することが求められます。同様に、飲食店のウェイターやウェイトレス、ショップの販売員といった接客を行う人や、コールセンターの職員なども、顧客満足につながる態度やしぐさが求められます。

他には、看護師や介護士などといった職業は、利用者とその家族に対して、技術と共に感情労働が求められる仕事の代表といえます。また、近年では教師や講師といった教育にかかわる職業、カウンセラーやケアワーカーなど利用者の精神に関わる仕事にも、感情労働が要求されるようになってきているといわれています。

なお、このような職種で感情労働が起きやすい理由のひとつとして、「顧客満足度」が挙げられます。というのも、多くの業態において、顧客満足度を満たすことが、業績アップにつながっているからです。このため、顧客満足度を上げるために、感情労働を伴う仕事がますます増えるという傾向があり、これが問題視されつつあるのが現状です。

6. 感情労働が引き起こす問題とその対策

労働者自身の感情をコントロールすることを要求される感情労働では、それを行っている労働者の状態は、健全とは言い難いものがあります。感情を無理にコントロールすることで、労働者には大きな精神的な負担がかかりますし、抑圧された状態が長く続くことで、労働者の心身に様々な問題が起こることがあります。そして、その労働者個々の問題が、企業・会社に不利益をもたらすこともないとはいえません。

このため、感情労働によって引き起こされる問題が大きくなる前に、労働者自身、または企業、社会が、それぞれに対策を講じる必要があります。

例えば、感情労働の負担に長くさらされた労働者は、バーンアウト(燃えつき症候群)やギャンブル依存症などの何らかの依存症、うつ病などといった精神疾患に苛まれるようになるケースが多いといわれています。

労働者自身が、こういった症状を自覚した場合は、速やかに医療機関を受診するとともに、仕事内容を配慮してもらえないか職場に相談してみましょう。

企業側の対策としては、「悪質なクレーマーなどに対して、どのように対応するべきかの対処法をあらかじめ考えておく。」といったことが挙げられます。また、上司や同僚などといった社内の人間関係で労働者が感情労働をする可能性がある場合は、パワハラやモラハラに関する研修を行う、そういった状況が生まれないように労働環境を改善するなどの対策を講じる必要があります。労働者から、感情労働に関する相談を受けた場合、最大限の配慮をすることも、とても大切です。

感情労働の問題は、精神的に病んだ労働者が罪を犯してしまうなど、ときには社会問題にも発展します。企業や労働者個人での対策だけではなく、公的な第三者機関での対応も必要ということがいえるでしょう。

7. 感情労働に苛まれないために

感情労働は、労働者に対して非常に負担がかかるものではありますが、顧客にサービスを提供するうえで、あるいは人間関係を良好に保つためにも必要不可欠な場合もあります。ただし、無理をしていると感じるときには、感情労働の末に身体を壊さないためにも、身を守る様々な対策が必要です。

自分の感情を隠蔽しない

感情労働を要求された場合、労働者は嫌なことがあっても表に出すことはできません。しかし、心のうちで不快であると感じていること自体を否定する必要はありません。労働者の中には、仕事のイメージや自分のイメージにとらわれるあまり、そのような感情を持つこと自体を否定し、心の底から「今は楽しい。」と思い込もうとする人がいますが、嫌だなあと思いつつ、顔だけにこにこ笑っていても、相手に伝わらなければ問題はないのです。

オンとオフをしっかりと切り替える

職業によっては、仕事の固定されたイメージから、プライベートでも同じ対応を求められるということがありますが、仕事とプライベートはしっかり分けて、オンとオフを切り替えるようにしましょう。

感情労働をする時間と場所を決めてしまう

その場を離れれば、感情労働からは引き離されるという状況をつくりましょう。

最低ラインを決めて、常に完璧を目指さない。

どのような仕事であっても、失敗はするものです。完璧にできないことに深く落ち込むと、感情労働にさらされたときに、より精神的な負荷が強くかかり、精神が安定しない状態となります。完璧を求めずに働くことが、身を守ることにもつながります。

おわりに

感情を意図的に抑制する、誘発するということは、日常生活においても多少は行われている行動ですが、サービス業に代表されるように、職場のルールに従って感情をコントロールすることで顧客に満足感を与えることを求められる職種や、必要以上に人間関係に気を使わなくてはいけない職場では、感情労働は労働者の精神に非常に負担のかかる行動ともいえます。

この感情を抑制、誘発すること=感情労働は、行き過ぎると身体を壊すことにもつながります。快適に働き続けるためにも、個人で工夫するだけではなく、労働者が無理をしなくていいように、企業に対策を働きかけるなどの行動をしてゆくことも大切です。

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