遺族厚生年金は、夫婦で暮らす世帯の主たる生計維持者と死別したときに受け取れる年金です。
専業主婦が多かった過去の社会情勢を反映して女性に有利な制度となっていることから、男女格差の是正に向けた制度改正が検討されています。
1. 遺族厚生年金とは?
遺族厚生年金は、主たる生計維持者と死別した際に、配偶者が速やかに就労し生計を立てるのが困難であるとの前提から、もともと配偶者であった方に支払われる年金です。
現行の受給要件はつぎの通りとなっています。
- 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
このほかに、受給者側の年齢も要件となりますが、この点についてはこのあと詳しく紹介します。
なお、受け取れる金額は、死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の金額です。遺族厚生年金は、遺族の経済的安定を維持する重要な役割を果たす制度となっています。
2. 現行の制度には男女間格差がある
さて、現行制度においては、子どもがいない世帯における、受給権について男女格差があります。端的にいうと男性が配偶者のときより、女性が配偶者のときの方が有利な制度設計となっているのです。
女性の場合は、30歳未満でも5年間の有期給付が受けられます。さらに、30歳以上の場合は終身で年金を受け取れる制度となっています。これに対して、男性は働いて生計を立てられるとの前提から、55歳未満では受給権が発生しません。
このほかに、女性(妻)は40歳~65歳未満で夫と死別したときに「中高齢寡婦加算」を受けられます。具体的には年額61万2000円が受給額に加算されます。近年は女性の社会進出が進んでいるなか、時代にそぐわない制度となりつつあるのです。
ちなみに、子どもがいる世帯については、現行でも男女間格差はありません。20歳代~50歳代の世帯において、子どもが18歳に到達する年度末まで、性別にかかわらず遺族厚生年金を受け取れます。
【写真1枚目/全3枚】遺族年金の現行制度/改正後はどう変わる?次ペー ジ以降で改正後の遺族年金イメージを紹介1/3
3. 男女格差をなくす形での制度改正案が検討されている
厚生労働省は、2025年の成立に向けて、遺族厚生年金の男女間格差を是正する制度改正を検討しています。
改正案では、男女にかかわらず、20歳代~50歳代の子のいない配偶者は、5年間の有期給付となる予定です。
特に30歳代~50歳代の女性は、現行制度では無期限給付だったところから有期給付となるため、ネガティブな影響が大きいといえます。そのため、具体案はまだ検討中ですが、一気に5年間で打ち切りとするのではなく、段階的に有期給付に移行する措置が取られる予定です。
また、以下のような措置を講じることで、影響を緩和する見通しとなっています。
- 現行制度の離婚分割を参考に、死亡者との婚姻期間中の厚年期間に係る標準報酬等を分割する死亡時分割(仮称)の創設を検討する。
- 現行制度における生計維持要件のうち収入要件の廃止を検討する。
- 現行制度の遺族厚生年金額(死亡した被保険者の老齢厚生年金の4分の3に相当する額)よりも金額を充実させるための有期給付加算
なお、男性については、現行は55歳まで受給されなかったので、むしろ受給機会が増える制度改正です。また、子どものいる世帯、高齢期の需給制度には変更がありません。
4. もしもの時のための備えを万全に
緩和措置や移行期間が設けられるとはいえ、今後徐々に女性の遺族厚生年金の受給期間が有期へと移行していく見通しです。現時点で夫婦で暮らす中でもしものときのことを考えるのは気が引けますが、遺族厚生年金を過度にあてにできなくなる点には留意が必要です。
今のうちから社会に出て経済的なリスクを減らすか、資格取得や自己研鑽などでもしものときにはすぐ社会に出られるように準備をしておくのが一つの方法です。
また、生命保険や投資、貯蓄などで「もしも」の時の経済的な負担を補てんできるように備えておくのも有効な方法といえるでしょう。
参考資料
中本 智恵