3. ところで「一般的な介護費用」ってどのくらい?
介護にかかるお金にはもちろん個人差がありますが、ここからは平均的な介護費用に関するデータについてみておきましょう。
生命保険文化センターの「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」によると、平均的な介護費用の月額(※)は「在宅で4万8000円、施設なら12万2000円」。また、一時的な費用の合計だけで約74万円という結果に。
また、介護期間の平均は約5年。一時的な費用の合計と月々の費用のトータルは、在宅介護で約370万円、施設介護で約820万円となります。
ただしこれらは介護費用が「0円」だった人も含めた平均額です。
※公的介護保険サービスの自己負担費用を含む
3.1 【推計】認知症の介護費用ってどのくらい?
さいごに、認知症の人の介護や医療にかかる費用の平均についても、慶應義塾大学と厚生労働省の共同研究の結果の一部を見てみましょう。
2015年に公表された研究結果によると、認知症にかかる1人当たりの費用は以下のように推計されています。
【推計】認知症の人の医療費(1人当たり)
- 入院医療費:34万4300円(月額)
- 外来医療費:3万9600円(月額)
【推計】認知症の人の介護費(1人当たり)
- 介護サービス利用者1人当たりの在宅介護費:219万円/年
- 介護サービス利用者1人あたりの施設介護費:353万円/年
4. まとめにかえて
今回は、認知症介護にかかった「想定外の費用」について、筆者の経験を交えながらお話ししたあと、一般的な介護費用や、認知症の介護費用に関するデータも見てきました。
認知症の会と生活は思いもよらない出来事の連続。すでに飛んでいったお金はどうにもなりませんが、一つ一つのトラブルから学び、さらなる事件を防ぐ手立てはできるはず。筆者の場合は、お金の管理や玄関の施錠などが適切かどうかを見直すきっかけにしてきました。
2025年は「団塊の世代」がすべて75歳になる年。厚生労働省の推計によると、このころ実に高齢者の5人に1人が認知症の人になると見込まれています。
長生き時代のいま、「認知症介護」の当事者になる可能性は誰にでもあるといってよいでしょう。
ちなみに、前掲の慶應義塾大学と厚生労働省の共同研究による推計では、認知症介護において家族などが無償で行うケアにかかるコスト(=インフォーマルコスト)は、時間換算で週に24.97 時間、金額にすると年額382万円。
この金額は、日本の女性の給与所得者の平均年収313万円を超えています()。
仕事と介護を両立する「ビジネスケアラー」も増えるいま。昭和のひところとは異なり、介護は家族だけで抱えこむものではなくなりました。
介護保険サービスを中心とした社会資源をフル活用しながら、シニアの親の暮らしとお金を守っていけると良いですね。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 一般社団法人日本補聴器販売店協会「自治体における補聴器助成事業実施状況(2023.6.1現在)」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「認知症(にんちしょう)」
- 生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」
- 慶応義塾大学医学部「認知症の社会的費用を推計」-認知症患者や家族の生活の質の向上のため最適な解決の手がかりに-(2025年5月29日)
- 国税庁「令和4年分 民間給与実態調査統計」
- 厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(概要)
佐橋 ちひろ