2. 年金額の改定ルールとは
年金額の改定にはルールが設けられています。
名目手取り賃金変動率(※)が物価変動率を上回る場合、新規裁定者の年金額は名目手取り賃金変動率を、既裁定者の年金額は物価変動率を用いて改定することが法律で定められています。
※名目手取り賃金変動率とは、実質賃金変動率に物価変動率と可処分所得割合変化率を乗じたものです。簡単にいうと、物価の変動を考慮した手取りの賃金の変動率となります。
2023年度の改定の参考とする指標では、名目手取り賃金変動率が2.8%、物価変動率が2.5%となっています。そのため2023年度の年金額は、新規裁定者は名目手取り賃金変動率を、既裁定者は物価変動率を用いて改定します。
そうなると、新規裁定者は2.8%、既裁定者は2.5%の引き上げとなるはずですが、実際は、新規裁定者は2.2%、既裁定者は1.9%の引き上げなので、それぞれ0.6%差し引かれています。
この0.6%はマクロ経済スライドによる調整です。
2.1 マクロ経済スライドとは
マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役世代の人口減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。2004年の年金制度改正で導入されました。
年金額は、基本的には賃金や物価の上昇に合わせて増えていきますが、将来の現役世代の減少による収入減と平均余命の延びに伴う給付費の増加によって、年金財政の均衡が崩れることを懸念して、賃金や物価が上昇するほどは年金を増やさないように調整するのがマクロ経済スライドです。
そのため、現役世代の人数の変動と平均余命の伸びに基づいて、「スライド調整率」を設定します。
マクロ経済スライドの調整にもルールがあり、賃金と物価の変動がプラスとなる場合にスライド調整率を差し引きます。
伸び率が0以下の場合は適用せず、また、伸び率がプラスであっても、調整率を引くことでマイナスになることはありません(前年度と同じ給付水準を維持)。
ただし、マクロ経済スライドによる調整を将来世代に先送りしないために、調整しきれなかった分は翌年度以降に繰り越す制度も作られました。これを「マクロ経済スライドの未調整分」といいます。
2.2 2023年度に適用されるスライド調整率
2023度のマクロ経済スライドによる調整率と、前年度までのマクロ経済スライドの未調整分は以下のとおりです。
- マクロ経済スライドによるスライド調整率 ▲0.3%
- 前年度までのマクロ経済スライドの未調整分 ▲0.3%
2023度のマクロ経済スライドによる調整率▲0.3%と、2021年度・2022年度のマクロ経済スライドの未調整分による調整▲0.3%を合わせると、▲0.6%となります。
そのため、2023年度の年金額の改定率は、名目手取り賃金変動率2.8%、物価変動率2.5%からそれぞれ0.6%を差し引いて、新規裁定者は2.2%、既裁定者は1.9%となります。