「弱者の保護」は、しばしば弱者を苦しめる

弱者保護がかえって弱者を困らせる可能性は、他にも多く存在します。

たとえば貧しい人を助けるために「狭い家の家賃は安くせよ」という規制ができるとします。その結果、大家たちは金持ち向けの広い家ばかり建てるようになり、貧しい人が借りる家がなくなってしまう、という可能性もあるでしょう。

多くの貧しい人が安い家賃で大いに助かり、貧しい人向けの狭い家を建てる大家もそれほど減らない、という可能性も皆無ではありません。

しかし冷静に考えると、そうした可能性に賭けるのはリスクが大き過ぎると思います。

女性を保護しようという趣旨で女性の深夜労働を禁止したら、企業が男性ばかりを雇うようになって多くの女性が失業してしまう、という可能性もあります。

もっとも、それ以前の問題として、自発的に深夜労働で深夜勤務手当を稼ぎたい女性や、男性と同じ条件で働きたい女性も多いでしょうから、こうした規制は初めから避けておいた方がよいのかも知れませんが。

同様の可能性はあるものの、深刻に考えずに気楽に試みてよい政策も当然あります。

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たとえば最低賃金の引き上げです。最低賃金を引き上げると、「それなら雇わない」という企業が増えて失業が増加し、労働者が苦境に陥る可能性はあります。

多くの労働者の賃金が大幅に上がり、少数の失業者が発生するだけとなる可能性もあります。一方、「労働者の賃金が少しだけ上がり、多数の失業者が発生する」可能性もあるわけです。

そのあたりは、労働市場の需要と供給の状況によるので、最低賃金を引き上げるべきではなかったと反省することもあるでしょう。

しかし、その場合には最低賃金を速やかに引き下げればよいだけなので、実害は少ないと思われます。企業経営者の個人保証などに比べれば、「気楽にやってみる」価値のある政策であると言えるでしょう。

本稿は、以上です。なお、本稿は厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。

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参考資料

塚崎 公義