2. 「繰上げ受給」とはどんな制度なのか
国民年金も厚生年金も、基本的に老齢年金として受給するのは65歳になってからです。しかし、最大60歳まで早めて受給することも可能で、これを年金の繰上げ受給といいます。
例えば定年退職が60歳と決められた企業では、65歳の受給開始までに無収入となる可能性もあります。こうしたリスクに備えられる点が、繰上げ受給の最大のメリットだと言えるでしょう。
ただし、このとき一定の割合で年金額が減額されます。具体的に見ていきます。
2.1 繰上げ受給の減額率
繰上げにより減額される年金額は、以下の減額率を乗じて計算します。
- 減額率= 0.4%※×繰上げ請求月から65歳に達する日の前月までの月数
※昭和37年4月1日以前生まれの方の減額率は、0.5%(最大30%)となります。
- 60歳で受け取り:24.0%の減額
- 61歳で受け取り:19.2%の減額
- 62歳で受け取り:14.4%の減額
- 63歳で受け取り:9.6%の減額
- 64歳で受け取り:4.8%の減額
仮に年金が月額15万円だった場合、60歳まで繰り上げれば月額11万4000円に減ります。しかも65歳になっても15万円に戻ることはなく、一生11万4000円のままです。
ただし、2022年3月までは0.5%の減額だったので、60歳での減額率は30%でした。これが0.4%に緩和されたことで最大24%になったので、繰上げ受給のハードルは少し下がったと言えるでしょう。
3. 繰上げ受給のデメリットは13点ある
繰上げ受給のデメリットは、受給額が減額される以外にも複数あります。日本年金機構が注意喚起する13の項目について、一気に見ていきましょう。
- 繰上げする期間に応じて年金額が減額され、生涯にわたり減額された年金を受給することになる
- 繰上げ請求すると、請求した日の翌月分から年金が支給される
- 繰上げ請求を取消しすることができない
- 国民年金の任意加入や保険料の追納ができなくなる
- 共済組合加入期間がある場合、共済組合から支給される老齢年金についても、原則同時に繰上げ請求することとなる
- 厚生年金基金から支給される年金も減額される場合がある
- 65歳までの間に雇用保険の基本手当や高年齢雇用継続給付が支給される場合は、老齢厚生年金の一部または全部の年金額が支給停止となる
- 厚生年金保険に加入したり国会議員や地方議員になった場合には、給与や賞与の額に応じて、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止となる場合がある
- 65歳になるまでの間、「繰上げ請求した老齢年金」と「遺族厚生年金や遺族共済年金」などの他の年金と併せて受給できない
- 繰上げ請求した日以後は国民年金の寡婦年金が支給されず、寡婦年金を受給中の方は寡婦年金の権利がなくなる
- 障害基礎(厚生)年金を請求することができない
- 厚生年金保険の長期加入者や障害者の特例措置を受けられなくなる
- 老齢厚生年金や退職共済年金を受給中の方が繰上げ請求すると、これらの年金に定額部分の支給がある場合は、定額部分が支給停止される
一度繰上げ受給を申請すると取り消すことができないため、慎重に選択する必要があります。