2020年10月に行われた菅義偉前総理大臣の所信表明演説で、脱炭素が宣言されました。それをきっかけに、電気自動車(エレクトリック・ヴィークル=EV)への注目が高まっています。
リチウムイオンバッテリーの実用化で状況は一変
EV自体は、新しい技術ではありません。しかしこれまであまり注目されてこなかったのは、長距離を走れる高性能なバッテリーがなかったためです。2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰博士が、1990年代にリチウムイオンバッテリーを実用化させたことで、状況は一変しました。
携帯電話やスマートフォンが、ポケットに入るような小型でありながら長時間、また多用途に利用できるようになったのも、リチウムイオンバッテリーのおかげです。携帯電話が出はじめたころはリチウムイオンバッテリーが無かったので、重いバッテリーを持ち運んでいるような時代もありました。
日本のEV時代は2009年からはじまる
EVは、2009年に三菱自動車工業が軽自動車のi‐MiEVで市販の足掛かりをつけました。翌年には日産自動車がリーフを発売します。EV時代の扉が日本から開かれたのです。
その直後に、東日本大震災が起きました。電気、ガス、水道といった社会基盤が甚大な被害を受けるなか、比較的早く復旧の手がかりをつかんだのが電力です。それを活かし、EVが人や物資を運ぶ手助けになりました。道路に亀裂が入り、ガソリンスタンドへの燃料補充が行き届かず、エンジン車では移動や運搬の役目を十分に果たせなかったからです。
その経験を踏まえ、日産自動車はヴィークル・トゥ・ホーム(VtoH)という機能をEVに与えました。
EVを単なるクルマとみるなら、走るために電気を使うだけで、ガソリンで走るエンジン車と同じ機能でしかありません。
1/1
しかし、EVにVtoH機能を追加すれば、EVのバッテリーに充電された電力を、自宅へ供給することができるのです。供給できる日数は、充電されている電力量によって異なりますが、たとえば日産リーフの場合、満充電であれば、最大約4日間利用できると日産自動車は公表しています。
EVは家計にも環境にも優しい
先日3月21日に、東京電力管内で電力逼迫警報がはじめて発令され、東北電力管内でも続いて発令となりました。幸い今回は停電にならずに済みましたが、電力需要は供給量を超えており、揚水発電の活用で無事に済んだといいます。
企業や家庭で節電してもなお供給を需要が上回ったことは、停電になってもおかしくない切迫した状況であったことに変わりありません。停電は、災害のときだけの懸念ではなくなっているのです。
万一停電となれば、家庭電化製品はもちろん、スマートフォンの充電さえままならなくなります。家庭電化製品でも、冷蔵庫が使えないと食料品の保存が懸念されます。火を使う湯沸かしなども、着火には電気を使うリモート操作をしていますから、普段は気にしていなくても電気のない生活は、暮らしを一変させ、不安にさせられます。
しかし、もし自宅にEVがあり、VtoHの機能を備えていれば、普段通りの生活を続けられます。
加えて、太陽光発電を設置していれば、好天の日は言葉通り脱二酸化炭素の電力を暮らしに使えますし、その電気で充電したEVで走ることもできます。単にクルマから排出ガスを出さないだけでなく、移動のために使う電力も火力発電に依存しない脱二酸化炭素になるのです。
系統電力の契約においても、夜間割引を利用してEVに夜充電し、電気代金が高くなる日中は、EVから電気の供給を受ければ、より安い料金で昼夜電気を使うことができます。
急速充電器の数は7700か所
スマートフォンを手放せないのと同じように、いまの暮らしは電気というエネルギー中心で成り立っています。そこに、EVを組み込むことにより、万一の際を含め安定した電力確保という安心な暮らしにつなげられます。
EV以外のハイブリッド車(ハイブリッド・ヴィークル=HV)や燃料電池車(フューエル・セル・ヴィークル=FCV)なども、電力をクルマから取り出せる機能はあります。しかし、燃料として車載しているガソリンや水素を使い果たせば、スタンドへ出向き補充しなければ、走ることも、車外での電気の利用もできません。
EVなら、たとえば東日本大震災のあと首都圏で実施された計画停電のような場合でも、電気が通じている時間帯に充電しておけば、停電の順番が来たときはEVから電気を取り出すことができ、電気に不自由せず普段通りの暮らしを継続できます。
EVの懸念材料として、走行距離の短さや、充電拠点の少なさといった課題が指摘され、国内での普及率は1%にも届きません。
しかし、一充電走行距離については400km前後が標準的になってきていますし、急速充電器の数は、7700か所ほどに増えています。世界的に一日にクルマで移動する距離は40~50kmといわれていますので、ドライブで遠出をする以外は、自宅で充電しておけば電気切れへの不安も解消されるでしょう。
そのために解決すべきは、マンションなど集合住宅での自宅充電を一刻も早く普及させることです。
参考資料
- NTTドコモ歴史展示スクエア「携帯電話」
- 日産自動車株式会社「リーフ[LEAF]電気自動車(EV)蓄電池として何日間?」
- 東京電力エナジーパートナー株式会社「夜トクプラン(夜間・深夜の電気使用量が多い方向け)」
一般社団法人日本EVクラブ副代表 御堀 直嗣
