二酸化炭素と親しくする”親炭素術”は現代の錬金術

次に、排出されるCO2を利用する試みを紹介します。排出されるCO2を回収・利用・貯留するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の試みは経済産業省や資源エネルギー庁が中心になって進められており、その早期の実用化が望まれます。

化学的には、排出されるCO2を原料にして、種々の炭化水素(メタン、エタン、エチレンなど)、アルコール(メタノール、エタノールなど)、カルボン酸(ギ酸、酢酸、炭素数の多い脂肪酸など)、ポリカーボネート類のポリマーなどの有用化学物質の合成が可能です。

これは既存の化学、特に「有機合成化学」という分野の力を駆使しなければなりません。この分野は日本が世界のリーダーであり、3人のノーベル化学賞受賞者(2001年・野依良治氏、2010年・鈴木章氏、2010年・根岸英一氏)が出ています。

CO2から有用化学物質を合成するのは現代の”錬金術”とも言える手法ですが、これを「錬炭素術」や「親炭素術」と言ってもいいでしょう。

火力発電所などから排出されるCO2を即、有用化学物質に変換できればCO2削減に多大な寄与をすることができます。ただ、研究レベルでは色々なことが可能ですが、用途や需要、コストなどの問題から実用化に至っているケースは多くありません。しかし、脱炭素がこれだけ叫ばれていますので、この分野が急速に発展することは間違いないでしょう。

たとえば、東芝は太陽光発電による水電解から製造した水素と火力発電所の排ガスからのCO2で、メタノールを製造する実証事業を2018年より開始しています。

また、三菱系各社は苫小牧にあるCO2回収設備からのCO2と、製油所から発生する副生水素と水電解により発生させた水素を原料として、メタノールを合成するプラント設置を想定した調査事業を2020年3月より始めています。