さらに、IMAXデジタルシアター(注:日本は2009年から導入)に代表される映画館の“ハイテク化”も一因と言えそうです。こうした高性能上映による鑑賞は、家庭でのDVD鑑賞では決して味わえない臨場感があります。高性能上映の料金はやや高めに設定されていますが、それでも人気は衰えないのが実情のようです。

楽観論は禁物、どん底から復活した過去の経験を活かせ

振り返ってみると、戦後の日本では映画は庶民の娯楽として人気を博し、1950年代に黄金期を迎えました。しかし、カラーテレビの普及とともに客足が遠のき、一時は斜陽産業の代名詞として使われたのも事実です。また、結果論になりますが、映画産業はその黄金期の成功体験にどっぷりと浸ってしまい、営業努力を怠った側面があったことも否めません。

それでも、人気作品の登場や関係者の努力により、映画産業はどん底から這い上がってきました。その成果が2019年の過去最高記録だったと言えるのではないでしょうか。

そして、残念ながら「好事魔多し」の典型例となってしまったのが2020年だったのです。国内でもようやくワクチン接種が始まろうとしていますが、足元のコロナ禍が急速に収束するかどうかわかりません。

また、仮に一定程度の収束が実現した後も、いわゆる“新生活様式”や“3密回避”が続くため、劇場では最大収容人数の削減維持を要求されるでしょう。劇場がかつてのような超満員になるまでには、数年単位の時間がかかると考えるのが妥当です。

少し大袈裟な表現になりますが、今回のコロナ禍は映画産業にとっては60年ぶりの試練です。元々、娯楽産業というのは、いったん客離れが始まるとそれが雪崩式に続き、なかなか元に戻らない性質があるからです。

しかしながら、映画産業にはどん底から復活した経験があります。今まさしく、映画産業に携わる全ての人が知恵を出し合って危機を回避することが重要です。“コロナ禍が収まれば大丈夫”という楽観論は禁物だと考えるのは筆者だけではないと思われます。こうした点に注意しながら、今後の映画産業の動向に目を向けていきたいと考えています。

葛西 裕一