2019年から注目された「老後2000万円問題」は、ビジネスマンの投資と退職準備にどんな影響をもたらしたのでしょうか。2020年のビジネスパーソン1万人アンケートの結果から、それを探ってみました。
「老後の生活資金を投資の目的とする人が増えた」ことはポジティブですが、多くの方が「退職後の生活に必要な資金を2000万円に収斂させてしまった」ことは懸念材料といえそうです。
「老後の資産形成」を投資の目的とする人が急増
「退職後の生活は年金だけでは不足し、その総額は2000万円に上る」という「老後2000万円問題」は、2019年6月に発表された金融審議会市場ワーキング・グループの報告書をもとに騒がれることになりました。
2019年の1万人アンケートは5月に行いましたので、2019年と2020年の比較をすることで、その影響を読み取ることができます。
以前の記事『会社員・公務員に投資家が増えている。特に積極的な30代男性』で紹介した通り、投資をしている人は2020年の調査で初めて40%を上回り、2015年からの5年間で10ポイント以上も拡大しました。
コロナ禍の影響を受けながらも投資をする人が増えたことの理由のひとつとしては、退職後の生活資金のために資産形成をする必要があると考えた人が増えたことではないかと考えられます。
アンケートでは、投資の目的を聞く設問があります。投資の目的として44.1%と最も多くの方が挙げたのが「老後の資産形成」でした。しかも、前年比で4ポイント以上増えていることが特徴です。
投資の目的の第2位「資産を増やすには運用しかない」(19.9%)、第3位の「おこづかいが欲しい」(8.3%)を大きく引き離しているだけでなく、唯一前年比で大きく伸びているのです。「老後2000万円問題」が資産形成の背中を押したことが窺える結果です。
退職後の必要生活資金総額が16%減
一方で課題も見つかりました。「公的年金以外に必要な退職後の生活資金の総額はどれくらいか」を聞く設問では、その平均値が2697.5万円と、2019年比15.9%減少したのです。
2019年まで7回行ってきた調査では、ほぼ平均は3000万円で、しかも5つの金額帯(1000万円未満、1000-2000万円未満、2000-3000万円未満、3000-5000万円未満、5000万円以上)がほぼ20%前後で均等に分布しているのが特徴でした。
それが2020年では、1000-2000万円未満と回答する人が30.3%、2000-3000万円未満が29.7%と大きく拡大し、この2つで全体の6割を占めるまでに拡大したのです。すなわち、回答者の6割の人が2000万円程度の資金が必要と考えるようになった結果です。
これまでの記事で何度も言及してきましたが、退職後の生活資金は現役世代の生活水準に大きく規定されるものです。
退職したからといって簡単に生活水準を引き下げられないものですから、現役世代の生活水準を前提にしないで、一律に「老後には2000万円必要だ」と考えてしまわないことも重要なのです。
合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史