海外ティア1大手のボッシュもCASEでセンサー搭載数増に言及

 ちなみに、海外ティア1もCASE戦略を見据えるなかで、センサー搭載数増など電子デバイス、電子部品の重要性に言及している。

 海外ティア1大手のボッシュの日本法人を率いる代表取締役社長のクラウスメーダ―氏は、20年1月半ばに東京ビッグサイトで開催された「オートモーティブワールドセミナー2020年」の特別講演で、自動車の開発は「レベル2~レベル3の自家乗用車」と「レベル5の都市型自動タクシー」の二極化になるとし、前者では20個のセンサー、後者では80個のセンサーを要すると語った。また、自動運転において「自車位置推定が重要」として、検出精度2~10㎝で自車位置を推定し、クラウドと情報連携するイメージ図などを紹介していた。

 また、一般ユーザー的な技術開発例では利便性向上事例にも触れた。たとえば、スマートフォン上のデジタルキーにより、家族間でのキー送受信、レンタルカー時のキーシェア、宅配業者が配達先の自家用車トランクのみを開閉できるシェアキーで配達物を入れておくことなどが可能になる事例、コミュニティーベースパーキングでは駐車場の空きスペースを瞬時に把握し時間ロスのない駐車も実現する事例などだ。

センサー、電子部品など周辺技術に商機到来

 さて、こうした自動車メーカー、ティア1メーカーの思いに応えるべくCASEに向けて創出されるセンサー、電子部品を本格的に追いかけようと思った矢先、足元の新型コロナ自粛体制に突入し、コロナ後の宿題となっている。しかし、各社から飛び出すニュース、ご縁のあった取材先などから、こうした自動車業界の変革の波は、電子部品メーカー各社を取り巻く環境にも及び始めていることが伝わってくる。

 たとえば、新型コロナウイルスにおける自粛体制の真っただ中にあった20年4月23日に舞い込んだのは、大手半導体デバイスメーカーのNXP Semiconductors(オランダ)がWi-Fi6モジュール向けRFフロントエンドICを村田製作所に提供し、両社協力して最新のWi-Fi6標準対応のRFフロントエンドモジュールを提供するとのニュースだった。他にも4月24日には、アルプスアルパインがレーダーセンサー開発を手がけるAccorner社(スウェーデン)とMOU(基本合意書)を締結し、車載向け次世代センシング技術の共同開発を行うことを発表。3月には、TE Connectivity社(スイス)がセンサー技術を強みとするファーストセンサー社(ドイツ)の買収を発表するなど、まさに電子デバイスメーカーと電子部品メーカーの垣根なきコラボレーションが急ピッチで動き始めた。

 また、電子部品各社の中期戦略には「車載の電動化」に伴う高耐圧・大電流対応品、小型・低背・省スペース品、一体構造化・高密度実装、車室内を見据えたハプティクス技術、タッチパネル向け製品などのキーワードが散りばめられ、ティア1各社の思いと重なる製品開発、増強投資が目白押しなのだ。

 直近の事例だけを見ても、静電容量方式タッチパネル、積層材料や圧電技術を利用したハプティクス(触力覚)デバイス(ピエゾアクチュエーターなど)、電波式など乗員検知・生体情報センサーなど車室内へのアプローチ製品、車載インバーターIGBT向けコネクター、車載向け高耐圧・大電流対応のパワーインダクター、静電気対策を施したESD保護デバイス、3軸の加速度と3軸のジャイロの計6個を1チップで実現したコンボセンサー、大電流検出・高電圧検出・長期信頼性の抵抗器、カーエアコン用やエンジン水温用のサーミスター、タイヤセンサーなど、枚挙にいとまがない。

 実際に、新型コロナウイルスの自粛体制が本格化する直前に訪問した車載用サーミスター大手の大泉製作所では、既存のエンジンを主体とした内燃車では1台につきサーミスターが10~15個搭載されているが、電動車ではHV/PHVでは同15~30個、EV/FCVでは同20~25個搭載となり、搭載数量は倍増すると見据える。特に、エンジンも電池もあるHVはサーミスター搭載数量がもっとも増えるとしていた。

 また、車載向けでは昇圧リアクタ―・コイルを中心とする各関連事業で着実な伸長を見せるタムラ製作所では、バッテリーから駆動用モーター間のPCU内昇圧ユニット向け昇圧リアクタ―では700V以上へ昇圧するニーズに対応すべく、製品ブラッシュアップを続ける一方、将来を見据えた電流センサー開発も進める。本原稿執筆直前の4月24日に20年3月期通期決算を発表した日本航空電子工業においても、自動車向け新製品対応事例として、欧州標準対応エアバッグ用コネクター、EV向け大電流コネクター、車載タッチパネル増産対応フィルムセンサーを挙げている。

 このように、自動車業界の「100年に一度の大変革期」はデバイスメーカーと電子部品メーカーのコラボレーションを加速させ、各社に新たな商機をもたらしていることが見えてくる。

 ティア1、デバイスメーカー、電子部品メーカー、材料メーカー、基板メーカーなど垣根なく、固定観念に縛られない発想の転換、コラボレーションを通じ、独自の強みを確立していく挑戦が始まっている。自動車業界が抱く「100年に一度の大変革期」というピンチはチャンスでもある。大手、中小の企業規模を問わない新たな商機到来の好機が訪れている。新型コロナが終息した後には、CASEに向けた確実な未来が待っている。そこには各社の英知が結集した想像を超える新たな技術革新が巻き起こっているのかもしれない。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

まとめにかえて

 足元では新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、自動車市場は厳しい市場環境に直面していますが、長期的な視点に立てば、電動化や自動運転などの大きなトレンドによって半導体・電子部品の需要は拡大を続けることが確実視されています。今後の焦点は記事にもあるとおり、クルマづくりの主導権を誰が握るのか、ということです。既存の完成車メーカーなのか、GAFAに代表されるIT企業なのか、あるいはテスラのような新興企業なのか。技術開発を含めて、勢力図争いにも注目です。

電子デバイス産業新聞