周辺技術とともに課題克服の必要性を説くMIRISE Technologies

 “世界のモビリティーに革新を与える半導体開発を行い、未来をもっと進化・向上させていきたい”という使命・熱い思いを、未来とRISE(上昇)を組み合わせた新会社名に込め、トヨタ自動車とデンソーの半導体先端技術研究開発を結集して誕生した「MIRISE Technologies」。MIRISE Technologies始動前の20年1月に、㈱デンソー先端技術研究所の技術開発センター担当部長の篠島靖氏(肩書は訪問当時)、および技術企画部半導体新会社準備室長(工学博士)の岩城隆雄氏(肩書は訪問当時)を訪問した折、新会社の使命および見定めたターゲットをこう語っていた。

 「新会社の使命は『先進半導体エレクトロニクス技術でCASEが進展するモビリティー社会に新しい価値を創り出す』ことにある。『CASE』のうち『A(自動運転)向け』に『センサー』『SoC』、『E(電動化)』向けで『パワーデバイス』を主なターゲットに見定めた」(篠島氏)

 そして、各社とのコラボレーションの必要性をこう説いている。SoCで手がけることについて、の問いかけに対し、「最先端の半導体製造プロセスが必要なので、パートナーの選定が重要となる。自動車メーカー・部品メーカーの立場から見た場合、将来のシステムを考えてディープラーニングに向けたこういうアルゴリズムが必要で、どの半導体メーカーのSoCでならば動くのか、といったことを先行開発段階から半導体ベンダーと一緒に考えていきたい。そうすることで、SoC完成品がトヨタ自動車・デンソーの意図を反映した仕上がりとなるよう貢献していくことになるだろう。SoC開発には巨額の投資と時間がかかる。SoC開発の初期の段階で明確な方針を示し、SoCベンダーを選定していく必要がある。自動車の自動走行に関する明確な目線を提供していく」(篠島氏)

 パワーデバイス、センサーでも「パワーデバイス(チップ)だけ良くなっても、それを支える周辺技術もともにレベルアップしなければ意味がない。パッケージ、トランジスタ、コイル、インダクターなど周辺の受動部品も含めた進化が必要であり、高耐圧、高耐熱、低損失など、挑むべき課題は多数存在する。周辺部品関連メーカーとよいチームワーク、コラボレーションを実現したい」(篠島氏)、「センサーではレンズなど光学部品の技術進化も問われる。また、精度の良い実装を実現する技術が必要となる。センサーの小型化・高精度化が進めば、信頼性も含めた精度向上のハードルは上がる。こうした課題をともに乗り越えていく必要がある」(岩城氏)との意向を示しているのだ。

アイシン精機の電子センター、前向きな協業でともに未来の新規デバイス創造を志向

 また、トヨタグループ大手ティア1として、自動車部品総数約3万点と言われるうち、約半数に相当する幅広い自動車部品を手がけるアイシン精機㈱において、各種ECU、センサーなどの主要電子デバイス関連を一手に担うのは、電子技術部隊「電子センター」(筆者訪問時は、アイシングループ情報・電子バーチャルカンパニー)だ。20年2月に、同電子センターを率いるアイシン精機㈱執行役員アイシングループ情報・電子バーチャルカンパニープレジデント 電子商品本部長(筆者訪問時の肩書)の植中裕史氏に訪問インタビューした折には、電子センターが担う情報・電子技術について、「各種ECU、センサー、アクチュエーター、あるいはそれらが一体となった製品を担っていく。スマートセンサー、スマートアクチュエーターなど自動運転や電動化、利便性向上に向けたインテリジェント部品などが該当する」とし、植中氏が電子センターを率いるにあたり大切にしている点については、こうコメントしている。

 「電子センターは社内の各カンパニーのシステム商品の電子部品を担うことになる。その際、自動車メーカーから、あるいは社内カンパニーから“こういう部品が欲しい”と言われるのを待つのではなく、我々から電子技術でできることを提案していく自主性を重んじていきたいと思っている。攻めの姿勢で積極的に。これを実現するために心がけていることは、システム開発部隊、自動車メーカー、外部の電子デバイス企業などあらゆる方々とのコミュニケーションだ。そのなかで、我々から提案している案件も複数生まれ始めている」

 そして、電子デバイス・電子部品関連各社へのメッセージでは、一緒に未来を切り開いていく必要性を説く。

 「サブアッセンブリーでは急速に一体構造化・小型化ニーズが高まっている。こうしたニーズに応える小型化技術、カスタムIC作り込み技術、プリント基板と複数部品の接続技術、高密度プリント実装基板技術など、業界各社様と協業しながら一緒に未来の新規デバイスを創造していきたい。また、前述のガスセンサーや電波センサーなど新たなセンサー領域が生まれつつある。こうした新規ニーズに向けた新規開発で協業できる仲間も求めている。昔は民生技術の信頼性が高まった後に自動車へ、というスピード感だったが、今は違う。スタートアップ企業なども含め各社様との前向きな協業を大切にしながら、ともに未来を切り開いていきたい」(植中氏)