技術進歩が難しくなった

問題は、一度トラクターとミシンが行き渡ってしまうと、技術進歩が難しくなる、ということです。古いトラクター等を最新式の物に買い替えたとしても、一人当たり生産量の増加はそれほど大きくないでしょう。

トラクター以外でも米国で使われている機械類が一通り日本中に行き渡ったことで、供給面の高度成長は難しくなりました。一方の需要も、どうしても欲しい物が一通り揃った段階で、無限に伸びるわけではなくなりました。

供給力も需要も伸び率が低下して来たことで、経済が高度成長期から安定成長期に移行したのです。たまたま石油ショックがあったことで移行が劇的になりましたが、石油ショックがなくても移行していたはずなのです。

今の中国は、日本が高度成長期から安定成長期に移行した頃の経済状態と似ているので、供給力の伸びも需要の伸びも低下しつつあり、従って経済成長率が低下していること自体は自然なことなのです。

問題は、昨年の経済成長率の落ち込みが、それ以前と比べて急だったので、米中貿易戦争等々に起因する需要不足による不況なのではないか、と思われていることです。供給力の伸び率低下は毎年緩やかに進む一方で、需要の伸び方は景気に大きく左右されるため、成長率が大きく変化するのは景気の変化による場合が多いからです。

今年については、工場の閉鎖等々によって生産力が制約されると同時に、行楽客などの減少で需要も落ち込み、ダブルパンチが懸念されていますが、今後のことを予想する段階ではなさそうなので、触れずに置きましょう。

日本はその後も成長率の低下が続いた

日本経済の潜在成長率は、その後も低下を続けました。その理由は3つあります。安定成長期から低成長期への移行も、たまたまバブル崩壊で劇的なものとなりましたし、バブル崩壊後の長期低迷期は需要が低迷していて潜在成長率の低下が見えにくかったわけですが、バブルが崩壊しなくても、移行していたはずです。